声が出ないように唇を噛みしめて泣くに、少女がそっと手を伸ばす。
「大丈夫……?」
心配そうな瞳で見つめられ、は弱々しくうなずいた。
「うん。大丈夫、もうちょっと、したら……おさまる、から」
しゃくりあげながらも言葉を紡ごうとするの腹部を、神田がぐいと締め付ける。
「ぅぎゅうぉあ!」
奇声を上げたを睨みつけ、神田は低い声でうなった。
「しゃべるな。うるせぇ」
「か、かんだ……今、クリティカルに鳩尾に入った……!」
ちょっぴり死にそうになりながら必死に訴えたが、神田はそれを美しく無視する。
そんなを気の毒そうに見ながら、少女がおそるおそる口を開いた。
「あのアクマという化け物は空を飛ぶ。地下に隠れた方がいいよ」
吐き気と痛みに必死に耐えていたが、少女の言葉に反応する。
「地下?確かにあってもおかしくはないけど……」
「上からはわからないけど、この街には地下に通路があるの」
小高い山の上に立っているような街の形を考えると、確かにありえる話ではある。
信じるのかと神田をちらりと見ると、神田も同様に考えたらしく目があった。
小さくうなずいた神田が、少女にさらなる説明を求めるのを聞きながら、はそっと息を吐く。
(アレン君とトマさん、無事かなあ……)
神田が地面に降り立ち、老人の指示に従って建物の中に入る。
中は入り組んだ迷路になっており、少しでも離れたらはぐれてしまいそうだ。
「入り組んでるんだね……」
「うん。グゾルしか知らない道があるから、はぐれちゃうと出れなくなるよ」
無邪気な顔して、なかなか容赦のないことを言う少女だ。
「え、ちょっ、待ってよ!」
すたすたと歩き始める少女と老人を見送りかけて、は慌てて我に返った。
「出れなくなるとか言っておきながらおいてかないで……!」
必死の叫びにやっと気づいたか、少女がくるりと振り返る。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、私まだ死にたくないよ!」
「だから、しっかりついてきてねって」
そんなやりとりをしながら歩いていると、神田のゴーレムが電子音を出した。
「トマさんから?」
「だろうな」
うなずいた神田がトマと連絡をしている間、は少女と向かい合う。
「私、。あなたは?」
「ララよ。こっちはグゾル」
ぴくりとも動こうとしないグゾルははっきり言って不気味だったが、はそんな気配などおくびにも出さずに笑いかけた。
「こんにちは、グゾル翁。突然押し掛けちゃってごめんなさい」
「いや、ララも話し相手ができて喜んでいるだろう」
しわがれた声でそう言われ、拒絶されているわけではないと知ったが笑顔になる。
「ありがとう」
グゾルの手をきゅっと握りしめて笑うを小突いて、神田が前を睨み据えた。
「行くぞ」
有無を言わせぬその態度に、は名残惜しそうにグゾルから手を離す。
「神田?」
「トマから連絡が入った。モヤシがやられたらしい」
「――え?」
苦々しげに吐き捨てた神田に、は思わずつかみかかった。
「アレン君がやられたって……どういうこと!?」
「落ち着け」
うるさそうに彼女の手を除けて、神田が忌々しげに舌打ちをする。
「トマがティムキャンピーを持って合流する。詳しいことはそれまで待て」
仲間がやられたというのに酷く冷静な神田に、は思わず怒りがこみ上げかけた。
――アレン君が心配じゃないの?
トマが持ってきたティムキャンピーの記録を見せられたは、膝から崩れ落ちそうになってしまった。
「アレ……アレン君……」
「絶望的だな。――トマ」
「心得ております」
アクマの襲撃に備えなければならない神田の代わりに、トマがをかつぎ上げた。
そのままララ達の案内で進んでいた3人だったが、不意にが身じろぎをする。
「……もう、1人で歩ける。ありがと、トマさん」
明らかに沈んだ声だったが、トマが降ろすとは自分の足でしっかりと立った。
「大丈夫でございますか?」
「うん、それより早くララ達の――って、2人は?」
「「あ」」
角を曲がった先には、2人の姿はおろか、影さえもなかった。
「てんめっ……!!テメェが余計なことをするから見失ったじゃねえか!」
「そ、そそそんなこと言われても……!」
「どうすんだよ!?」
「か、神田が2人の匂いを追って」
「俺は犬か阿呆!」
「か……神田殿……」
「うっせェ、今忙しいんだ!!」
があとトマに怒鳴りつけた神田は、しかしその視線の先を見て空気を変える。
「アレン君!」
満面の笑みになったが飛び出そうとするのを腕をつかんで止め、アレンをぎりと睨みつけた。
「よく見ろ、左右が逆……アクマだ」
六幻を抜刀して構える神田に、アレンはふらふらと近づいてくる。
「神田、待って、様子が変――」
「テメェの正体はバレバレなんだよっ!」
制止をかけようとしたを無視して斬りかかった神田の太刀は、しかしアレンに届く寸前で受け止められた。
壁から突き出した、他ならぬアレンのイノセンスによって。
「あれ?アレン君――」
「この人はアクマじゃない!」
穴から這いだしたアレンがアレン(仮)を抱きとめ、弾かれたように神田を見る。
「違う、これは――そっちがアクマです、神田!」
その声に臨戦態勢を整えようとした神田は、しかし攻撃を六幻で受け止めることはなかった。
きつく目をつむるの体に、鈍く強い衝撃。
ほぼ同時に、頬に熱いものを感じた。
「きゃ――!」
壁に叩きつけられたが、痛みをこらえながらそろりと目を開ける。
瞬間、息をのんだ。
「神田!!」
アクマに首をつかまれて壁に押しつけられた彼の、血みどろになった身体。
神田に庇われたのだと知るのに、そう時間はかからなかった。
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