クラウドと共にすごす日々は、予想以上に単調で穏やかなものだった。

花に水をあげて、簡単な食事を作って、夜は寄り添い合って寝て。
そこが廃墟の教会ということさえ除けば、まるでごく普通の生活のよう。


「じゃあ、行ってくる」
「気をつけて」


相変わらずふらりといなくなるのは変わらないけれど、それでも必ずその日のうちに戻ってきてくれるようになった。
どこに行くのかは大体見当がついているから、問いただすようなことはしない。


あてもなくフェンリルを走らせるか、あの丘でぼんやりとするか。
後は忘れらるる都に行くくらいしか、クラウドに選択肢はないのだろう。


「……全部、過去ばっかり」


箱の中に無造作に入れられたマテリアの山に、やっぱり無造作に手を突っこんでみる。
引き当てたのはエアリスが愛用していた回復マテリアで、皮肉な偶然に苦笑した。


私達が幾度となく使ってきたマテリアの、そのほとんどがこの中にある。
特にエアリスのものは、一つも欠けることなく残っているはずだ。


そこまで考えて、どうしてクラウドがこれだけをここに持ってきたのか、その理由がわかってしまった気がした。
それだけではないとわかってはいるけれど、それでも一番の理由は   


「エアリス……私、思い出に負けちゃうのかな」


腕のリボンを握りしめて呟いた。


どうしたら、クラウドをこちらに呼び戻せるのだろう。
ずっと一緒にいたティファなら、もしかするとそれができるのかもしれない。
けれどティファは見守るだけで、それではいけないと私の中のどこかが叫ぶ。

何も言わなければ、クラウドはそれこそ消えてしまいそうで。




「エアリス……」




縮こまって頭を抱えた時、頭上に影ができた。


   ?」


ここ数日で聞き慣れた声。
顔を上げると、戸惑ったような表情のクラウドが私を覗きこんでいた。


「どうしたんだ?」
「……ううん、何でもない」


かぶりを振って苦笑しても、クラウドの顔は晴れない。
心配してくれるのが嬉しくて、そのくせ自分は心配させてくれなくて、何故だか無性に泣きたくなった。


?」
「なんでもない……」


こらえきれずにこぼれ出た1滴をすぐに拭って、今度こそにっこりと笑ってみせる。


「今日は早かったね」
「ああ、そんなに遠くまでは行かなかったから……」


気遣わしげなクラウドの視線を感じたけれど、素知らぬ振りでうなずいた。


「そっか。お昼、どうする?いらないと思って作ってないんだけど……」


元々昼食は食べなくても平気だから、クラウドがいない時には抜くことが多い。
まさか帰ってくるとは思わなかったから、さてどうしようと頭をひねった。


フェンリルを出してもらって、どこか近場に行くべきだろうか。
それとも、食料の備蓄が何かあっただろうか。


「……まさか、食べてないのか?」
「え?うん」


1日2食の生活に慣れきってうなずくと、何故か難しい顔になったクラウドが正面に座りこんだ。


、食事はちゃんとしろ」
「もう慣れちゃったんだけど……」
「慣れるとか、そういう問題じゃないだろ。身体に悪い」


やけに真剣な表情で言うものだから、反感より先に笑いがこみあげる。
小さく笑うと、クラウドがむっとしたように眉根を寄せた。


「笑い事じゃないぞ」
「ごめん、でも、クラウドに言われると変な感じ」


自分の事を全然気にしないクラウドに言われても、説得力がないというか何というか……。
それを言うなら、まずは自分の不摂生を直してほしいものだ。


、聞いてるのか?」
「聞いてる聞いてる」


くすくすと笑いながら、おざなりに手を翻す。


きっとこれからも、お昼をわざわざ作って食べる事はないんだろう。
それを知ったクラウドに怒られるのが、こんなに嬉しくて楽しいのだから。