バイクを走らせるクラウドの腰にしがみつきながら、ひっそりこっそり後悔していた。


この山道、予想以上に険しい。


以前にも一度登ったことはあるはずだけれど、徒歩だった上に昔すぎて記憶が薄れていたらしい。
クラウドのバイクはサスペンションがしっかりしているから、お尻が痛くならないことだけが救いだ。
もう目的のモンスターのサンプルは入手したし、後は継続調査の対象だけだということも。


、大丈夫か?」
「なんとか……」


ふとすると酔いそうになると思いながらも、振り向いたクラウドににへらと笑ってみせる。
私の様子見よりも、前をちゃんと見て運転してください。


1メートル横は崖ですから。
「もうすぐ今日のポイントだ。先に寝られそうな場所を確保するぞ」
「わかった」


舌を噛まないように気をつけながらうなずいて、途中で見つけた小型の動物の巣のような跡を思い出す。
狐の巣のように見えたけれど、それにしては少し様子が違った。
もしかしたらモンスターかもしれないと、周囲の様子に気を配る。

あの手のモンスターは群れで行動はしないから、あちこちに巣がある可能性も高い。
巣の特徴さえつかめば、比較的簡単に見つかるだろう。


「……、今モンスターのこと考えてただろ」
「え!?何で?」
「そういう顔をしてた。わかりやすいな、って」


バイクを止めたクラウドに小さく笑われ、そんなにわかりやすいだろうかと思わず頬を触ってみた。
当然ながら自分ではよくわからなくて、小さく首を傾げる。
そんな私に再び笑って、クラウドが荷物を下ろすように合図した。


「ほら、行くんだろ?」
「あ、うん」


しばらく2人で探索をして、めぼしいモンスターのサンプルをとって。
燃料の残量を確認しているクラウドの横で、もくもくとサンプルの簡易検査を行う。


様々な溶剤の中に肉片を一欠片入れて、どんな反応が起こるのかを繰り返し確認する。
その次は血液、皮膚、爪   

モバイルから前回のデータを引き出して、何か変化がないかをチェック。
どの個体も凶暴性と大きく関係するホルモンの値が以前よりも明らかに低くなっていて、このモンスターの沈静化がうかがえた。


新しいデータをモバイルに入力すれば、ひとまずの仕事は終了だ。
クラウドが注いでくれた水で手を洗った後、さらにアルコールで消毒をする。


「どうだ?」
「まだあちこち回ったわけじゃないから、何とも言えないけど……少なくともこの辺りの地域については、全体的におとなしくなってきてるみたい」


渡されたコーヒーを飲むと、予想以上に熱くて思わず取り落としそうになってしまった。
ひりひりする舌をこらえながら顔をしかめると、クラウドが小さく笑った。


「猫舌か?」
「ちょっとね。これ、まるで熱湯じゃない」
「そうか?」


ステンレス製のマグはまともに持てないほど熱いというのに、クラウドは平気で鷲掴みだ。
どれだけ手の皮が厚いやら。


「クラウド、そんな持ち方で熱くないの?」
「全然」
「……どんな手してるのよ」


こちらはタオルでくるんでようやく持っているというのに。

ちなみに、タオルを巻いて渡してくれたのもクラウドだ。
何気に細かい気遣いが得意らしい。


「別に普通だけど……見てみるか?」


ほら、と差し出された掌はすっかり固くなっていて、改めてずいぶん剣を扱う人なんだと思った。

おそるおそる指のつけねを触ると、弾力なんて感じないほどの固さだ。
どれほど訓練すれば、こんなに固くなるんだろうか。


「すごいね……」
   そうか?」
「私だってちょっとはナイフを使えるのに、全然違う」


思わず自分の掌と見比べていると、不意にその手をとられた。


   ああ、確かに柔らかいな」
「ちょ   !」


ふにふにと指やら掌やらを押されて、くすぐったさよりも先に恥ずかしさがこみあげる。
とっさに手を引き戻せば、心底不思議そうな目と視線があった。


駄目だこの人、全然わかっていない。
ええい、この世間知らずさんめ!


「どうしたんだ?
「それはこっちのセリフです!」


がうと噛みついて威嚇したけれど……よく考えたら、私もさっき同じようなことをしていたんじゃないだろうか。
先にクラウドの手をいじり始めたのは私の方だ。


   いやいやいや、何をしているんだ私!


思わず頭を抱えたくなった私に、クラウドが心配そうな視線を向けた。
それはわかっているけれど、今はそれを気にしている余裕もない。
恥ずかしさに身悶えていると、頭の上に大きな手が乗った。


「とにかく落ち着け、。どうする?もう移動するか?」


もう調査はいいのかと訊かれて、どうにか頭が研究モードに切り替わる。


ええと、この付近のモンスターはそれほど種類も多くないし、今は活動時期ではないものもいる。
それに何より、気になるのは燃料だ。


「クラウド、燃料はあとどれくらい残ってる?」
「5日が限界だな。あまり移動はしたくない」
   わかった、下りよう」


めぼしいモンスターはこの3日間で調査できた。
ずいぶん個体が少なくなっているものもいるように感じたから、次回の調査ではサンプルをとるかを検討しなければいけないだろう。
とにかく、今回はこれで切り上げることにしよう。

そう納得してうなずけば、クラウドが驚いたようにこちらを見た。


「……どうしたの?」
「いや……正直、がそんなにあっさりうなずくとは思わなかった」


例のモンスターの時は、本当にぎりぎりまでねばっただろ。
信じられないとかぶりを振るクラウドに、つい不機嫌をそのまま叩きつけてしまった。


「あれは、今まで知らなかった種類だから!今回みたいに継続調査の時は、さすがに見極めくらいできます!」


残り少なくなったコーヒー(まだ結構熱い)をマグごと投げつけたけれど、当然のようによけられてしまう。
地面を転がるマグを見ながら、何となくもったいないと思ってしまった。