次に目が覚めたときも、蹴られた痛みもご飯の匂いもしなかった。
変な臭いもしなかった。
自然に目が覚めたのなんて、とっても久しぶりだ。
何だろう、知らない場所。
お部屋がまぶしい。
どうしてだろう。
まぶしくて、目がしぱしぱする。
何だか落ち着かないと思ったら、ふわふわのベッドの上だった。
……どこだろう、ここは。
また違うところに買われたんだろうか。
光にはもう、会えないんだろうか。
少しだけ残念に思って、ベッドから降りて床にうずくまる。
ふかふかの絨毯が敷いてあるから寒くないし、こっちの方がベッドよりも落ち着いた。
ああ、起きたらお腹が空いてきた。
もう何も残っていなくて、ぎゅうぎゅうと痛みだけ感じる。
長い間食べなかった時はいつもこうやって痛みが激しくなるから、多分今日もずいぶんと食べていないんだろう。
ここの人は、一体どんな人なんだろうか。
どうして私をこんなところに寝かせているんだろうか。
わからない。わからない。
わからない。
温かい絨毯に顔をすり寄せて、長い毛をぎゅうとつかんで。
私、こんなに白かった?
見えた手はずいぶんと白くて青くて、ここがまぶしいからそう見えるのかと首を傾げてしまった。
まあいいかとまた寝ようとしていると、シュンという音と共に小さな足音がした。
誰か来たみたいだ、でも動きたくない。
「 いない!?」
焦ったような女の人の声がして、さっきよりも大きな足音が近づいてくる。
がちゃん、と大きな音がして、お布団が持ち上がるのが見えた。
私、ここにいるのになあ。
ぼんやりとしているうちに真上から女の人の顔がのぞいて、もともとびっくりしたような顔がさらにびっくりしたものになる。
「 大変、サーにお知らせしなきゃ!」
サー?
サーって誰だろう。
怖い人なんだろうか。
あんまり、会いたくない。
ベッドの下に隠れようとしたら、いつの間にかいた男の人に持ち上げられて上に寝かされてしまった。
嫌だと暴れても、逃げようと腕を引っかいても、びくともしない。
ふわふわしたベッドが気持ち悪くて、早くあの暗い場所に逃げたくて、押さえこまれている手が怖くて。
「おい、暴……っ……!危な…………ちるぞ!!」
何かを言われていたけれど、構わずにじたばたともがき続ける。
早く、早く、放してほしい。
ここは嫌、まぶしくて嫌、落ち着かなくて嫌。
「 何をしているんだ?」
誰かの声がした途端、男の人の動きがぴたりと止まった。
今のうちにと逃げようとしたら、今までよりも強く押さえこまれる。
「サー、申し訳ありません!この子供が暴れるもので 」
「……何がしたいんだ、お前は」
呆れたような声。
この声が、「サー」。
きっとまたぶたれるんだと堅く目を瞑って我慢をすると、大きな掌が頭をつかんだ。
「 っ、ひ……!」
思わず喉の奥からつぶれたような悲鳴が出たけれど、手はそれ以上動かない。
しばらくしてからそろりと目を開けて手の方を見て、一瞬息をするのを忘れてしまった。
光だった。
あの時と同じ、綺麗な銀色をした、光だった。
私を見て少しだけ顔をしかめた光は(それはまるであの時のように)、後ろにいた女の人に何かをささやく。
女の人もうなずくと、静かに出ていってしまった。
すぐに足音が聞こえなくなった部屋の中で、光がくるりと私を見る。
「 さて。お前は、何故あの場所にいたのか、覚えていないんだな?」
光に訊かれて、思い出そうとしばらく考えてみた。
けれどやっぱりぼんやりとしかわからなくて、仕方がないから小さくうなずく。
「ここは神羅、俺はソルジャーのセフィロスだ。任務で向かった先にお前がいた。ここまではわかるな?」
しんら。ソルジャー。セフィロス。にんむ。
どれもよくわからない言葉ばかりで、嘘も言えずに困ってしまった。
どうしよう、知っているのが当たり前なのかな。
わからないって言って怒られないかな。
居心地の悪いベッドの上でうつむくと、小さなため息が聞こえた。
「……ここまで知識がないとは……」
「どうしますか、サー?」
「魔力も微弱、身体能力も並以下。大方、愛玩動物としてでも飼われていたんだろう」
「飼う?しかし、この子は人間 」
「あの地方にはそんな風習が残っていると聞いたことがある。おそらくはそれだろうな」
難しい言葉。難しい話。
何を話しているんだろう。
馬鹿だって怒られているんだろうか。
どうしようもなくてじっとしていたら、また手が頭に乗った。
「おい」
顔を上げると、光が私を見ている。
そういえば、光はソルジャーかセフィロスという名前のようだ。
サーというのも光の名前らしい。
どれが本当の名前なんだろうと見つめていると、光がもう一度口を開いた。
「お前の名は?どこから来た」
名前。名前?
私の名前?
そういえば、私の名前は何だろう。
そんなもの、あったんだろうか。
それらしきものを一生懸命思い出すけれど、やっぱりどうしてもわからない。
「ぁ、 ら……い」
わからない、と答えようとしてびっくりした。
どうして私、しゃべれないんだろう。
思わず喉に手をあててみたけれど、いつもと同じ手触りがあるだけ。
怪我はしていないみたいだ。
歯も折られていないし、喉に何かが引っかかっているわけでもない。
声を出そうと頑張っていたら、光が少しだけ怖い声で何かを呟いた。
「……奪われたか、方法を忘れたかだな」
また怒られたのかと思ってびくりと反応した私のおでこを、光が意外にも優しく押す。
優しくといっても私には強い力で、背中からベッドに倒れてしまった。
「回復するまで、この子供は俺が責任を持とう。引き続き頼む」
「了解しました」
男の人がびしりと手をおでこにあてて、光も小さくうなずく。
最後に光がゆっくり休めと言ってくれたから、何の迷いもなくうなずいた。
私、光なら怖くない。
|