どうして私はここにいるんだろう。
というか、私である必要はあるんだろうか。


目の前で真剣な表情をしている大型犬を見ながら、やさぐれ気味にそんなことを考えた。




「どっちがいいと思う?」
「彼女の趣味に合わせなさいよ」




プレゼント一つ決められない男に、どうしてここまでつきあっているんだろう。
思わず落ちたため息に、ザックスがびくりと反応する。


「マジごめん!ほんとすいません!おわびに後でおごるから!!」


必死こいて拝み倒されては、うかつにため息もつけないじゃないか。
もう一度もれそうになったそれを飲み込んで、さも仕方がないというように肩をすくめてみせた。


「高くつくわよ、ザックス」
「で……できれば、お手柔らかにー……とか、思ったりして」
「社食程度で済ませる気じゃないでしょうね」
「……駄目?」


上目遣いに可愛く訊かれたけれど、大の男にそんなことをされても嬉しくも何ともない。


「駄目。」


きっぱりはっきりとうなずいてみせると、垂れた尻尾が見えそうなほどにうなだれる。


ー……」
「駄目なものは駄目。レノみたいにぽーんとおごってみせなさいな」
「エリート・タークスと一緒にすんなって!」


俺まだ2nd!薄給!と騒ぐザックスにからからと笑って、グラスを傾ける仕草をした。


「ま、これで許してあげる。彼女に誤解されるのも嫌でしょ?」
   っ、助かったあ!!」


それなら何とかおごれると喜んで、ザックスがあの笑顔を見せる。


こいつといつも行くバーは、安くてそこそこおいしいところ。
私よりも高給取りのくせに、お人好しのこの男は、いつでも何故か財布が寂しかった。

無駄遣いしているわけでもないだろうに……何に使っているやら。


「でもさ、俺と飲みに行って、は大丈夫なのか?」
「何が?」


そこまで多く飲んでいるわけでもないだろうと首を傾げると、ザックスが無邪気な顔で残酷な言葉を言った。




「好きな奴ができた時に、俺と仲がよすぎると誤解されるだろ?」
「……あのさあ」




本当に残酷だね、あんたは。
ああ、いっそのこと、一発全力で殴りたい。

腰に手をあててため息をついて、これでもかというほど呆れた目を向けた。


「男なんて、今はいらないの。そんなものにうつつを抜かしてる暇があったら、少しでもあのクソ上司を見返してやるわよ」
「あんまし仕事ばっかりやってると、嫁き遅れになるぞー?」


悪戯っぽく笑ったザックスの額にでこピンをかまして、私も涼やかに微笑んでみせる。


「望むところ。本当にいい女ってのはね、いくつになっても男が寄ってくるものよ」
「……ま、ならそうなりそうだな」
「でしょう?」


誰よりも顔をあげて進んでみせる。
私なりのプライドを守って、そうしていつか、ザックス達の前で心から笑えるようになりたい。


できればそう、彼らの結婚式の時には。


   それがどんなに難しいかは、私自身が一番よく知っているけれども。


叶わないこの想い、一体いつまで抱え続ければいいんだろう。
薄っぺらい笑顔の仮面に、この能天気な男が気づかないことを、心から願った。









うそだけは滑らかに出てくるの

(本当の気持ちは死んでも言えそうにないのに)