日向がいいよ、と許してくれたので、お台所の料理を手伝うことにした。
土間に降りる時も日向は手を差し伸べてくれる過保護っぷりで、ちょっとだけ笑ってしまう。


水瓶から冷たいお水を汲んで、野菜をざぶざぶと洗って。
包丁で皮を剥いたら、適当にイチョウ切りや乱切りに。
里芋があったから、今日は煮っ転がしだ。

その間も日向はずっと私の手元を見ていて、そんなに危なっかしいんだろうかと内心首を傾げてしまった。
これでも、普段料理しているから、慣れてはいるはずなんだけれど……。


下準備が終わって、竈に火をつけようとして。




「…………できない…………」




思い出せ、小学校の林間学校。
ええと、どうやって火をつけるんだっけ?

ああでもないこうでもないと四苦八苦していたら、見兼ねたのか日向が一瞬で火をつけてくれた。


「すごい!日向、すごいね!ありがとう!!」


大はしゃぎで日向の服の袖をつかむと、照れたように口元がゆるんだ。
日向の珍しい表情が見られて、私もつい嬉しくなってしまう。


「ね、ね、今のどうやったの?次からは自分でできるようになるから!」


本当に、一瞬にして火がついたから、何をどうしたのか全くわからなかった。
教えて教えてとせがむと、日向は困ったように小首を傾げる。
……何か特別な方法でも使ったんだろうか。

つられて小首を傾げていると、日向が懐から火打ち石を取り出した。
それを何度かかちりかちりとたたき合わせると、藁に炎がつく。


「すごい……!」


こんなことも知らないのかというような目で見られた気もするけれど、それは無視!無視!
こんなに簡単に火をつけてしまうなんて、やっぱり日向はすごい。
日向から借りて何度かチャレンジしてみたけれど、結局一度も成功しなかった……。
もっと練習しよう。


日向に調味料の場所を教えてもらいながら、ことことと煮っ転がしを作っていく。
その様子を日向はやっぱりじっと見ていて、やっぱり危なっかしいんだろうかと少し落ちこんでしまった。

日向は野草のようなものでおじやを作っていて、手際のよさには惚れ惚れしてしまう。
こんなに古い道具を使ってこんなに上手にできるなんて、やっぱり日向はすごい。


私が作った里芋の煮っ転がしは少し味が濃くなってしまったけれど、日向が作ってくれたおじやは薄味でとてもおいしかった。
もしかしたら、日向は薄味が好きなんだろうか。
今回は自分でも濃いと思うほどの味付けだったけれど、次は少し薄味気味にしてみよう。


「煮っ転がし、ちょっとしょっぱいね」


苦笑しながらそう言うと、日向はかぶりを振ってくれた。

けれど多分、日向は薄味の方が好きなはずだ。
だって、他の料理も全部、少し薄味気味だもの。

今度からは気をつけようと肝に銘じていたら、何故か日向の手が頭の上に乗った。
ぽん。なでなでなで。


「……日向?」


私、そんなことしてもらうような年でもないよ?

首を傾げてそう言っても、日向は頭をなでるのをやめない。
その口元が無理をするなと言っているようで、決心を見透かされたかと小さく首をすくめてしまった。


「……日向、薄味が好き?」
……こくり。


少し迷ったようだけれど、日向は小さくうなずいた。
ほらやっぱり、薄味が好き。


「じゃあ、これからは少し薄味気味にするね。私も濃い味、あんまり好きじゃないし」
こくり。


こんなささいな会話(日向はずっと無言だけれど)が嬉しかった。

日向はどんなことをしても滅多に怒らないし、基本的に私の意思を尊重してくれる。
だから、「薄味が好き」と教えてくれたのは、小さくて大きな一歩。
よし、頑張って料理するぞ!