お料理もまずまずできるようになってきて(でも火付けは相変わらず日向にやってもらっている)、私の体調もどうやら日向が許容する範囲まで回復したらしいある日。


「……外?」
こくり。


日向から外に出ないかと言われた。
いや、正確には仕草で示されたんだけど。

今まで日向は、どんなに私が頼んでも、外に出そうとはしてくれなかった。
その度に脚を示されたあたり、傷は結構深かったらしい。
……自分では全然治り具合とかわからないんだけれど。
日向がいいと言うならば、多分よくなったんだろう。うん。


「ねえ、ねえ、どこいくの?」


日向に手を引かれて家の外に出る。
地面を踏みしめるのは、本当に久しぶりだ。

うきうきしながら問いかけると、日向はすいと山の上の方を指差した。


……うん、想像はしてたけど、ここってものすごく山奥だったんだね。
町の気配どころか、人の気配すら全く感じられない。


「食料、採るの?」
こくり。
「でも私、野生の植物とかに詳しくないけど……」
ぽん。なでなでなで。


心配するなと日向が言ってくれたから、今回は一応これ以上の心配はやめておこう。
毒草とか採りそうになったら、多分日向が止めてくれる。……多分。

日向に手を引かれながら、何度も滑りそうになっては助けられるということを繰り返す。
慣れない履き物はそれだけで足下が危ないのに、いきなりこれはハードルが高すぎるよ、日向……!


「ひ、日向、もうちょっとゆっくり……」


肩で息をしながらほうほうの体で言うと、日向は振り向いて驚いたようだった。

実はさっきから、足がじんじんと痛い。
荒い縄で作られた草履は(草履ってどんだけエコなんだ)(日向は器用すぎる)容赦なく私の足を攻撃して、多分血が出ているんじゃなかろうか。
怖くて足の方を直視できない。
でもさっきから何だかぬるっとするし、滑りやすいのはそのせいでもあるし……。

そんな事を思いつつ、ようやく休憩できると安堵の息を吐いた私とは対照的に、日向はものすごく焦ったように私の足下にしゃがみこんだ。
つられるようにそちらを見て――くらりと貧血を起こしそうになってしまった。
理由は察して下さい、お願いします。

黙々と(いつも黙っているけれど)処置をしてくれていた日向は、終わったよと私の脛を軽く叩いた後、申し訳なさそうな表情になった。
それが捨てられた子犬のように見えて、思わず慌ててフォローしてしまう。


「ひ、日向は悪くないよ!黙ってここまで悪化させた私が悪いんだし!だから気にしないで、ねっ!?」
「…………」


日向はふるふるとかぶりを振ると、問答無用で私を抱え上げた。
そのまま器用に傾斜を上って、私に持たせた籠に色々な草を入れていく。
ひとつひとつ、じっくりと私に見せる彼の目的は、きっと。


「教えて……くれてるの?」


そっと尋ねると、うなずきが返ってきた。
少しでもここでの生活に慣れさせてくれようとしているのが嬉しくて、思わず首にぎゅうと抱きついてしまった。
日向があわあわと慌てる気配がしたけれど、それは無視!


「ありがとう、日向!」


弾んだ声でお礼を言えば、戸惑っているのか慣れていないのか、妙におそるおそる背中をなでられる。
その手つきが面映ゆくて、広い胸に額をぐりぐりと押しつける。


「日向、ありがとう。だいすき」


赤くなった私の顔は、うまく隠れただろうか。
それとも、ぴたりとくっついた胸の鼓動で知られてしまっただろうか。


たとえ顔が見えなくとも、言葉を交わせなくとも、私はこの不器用でとても優しい人が好きだ。
舌っ足らずになってしまった精一杯の告白に、心なしか日向の鼓動も早くなった気がした。