4日。
4日は何とかもった。
他の部署の人達とも食料や水をわけあって、どうにか食い繋いでこれた。
けれどもう、限界かもしれない。
底を尽きかけた食料箱を見て、諦めと共にそう思った。
何人もの人がスパナや鉄パイプで何度も殴ってみたけれど、肝心要の入口がびくともしないのだ。
あそこが開かなければ、私達はここで餓死するしかない。
この時代に、集団餓死?
どこの世紀末の宗教団体だと失笑しつつ、その光景とそこまでの過程を想像して背筋が凍った。
「……先輩、あと何日もちますかね?」
「考えたくもないよ……」
ここ数日ですっかり痩せた先輩は、疲れたようにゆるくかぶりを振る。
本当に、考えたくもない。
ため息と共にずるずると壁に沿って座りこんだところで とてつもなく激しい破壊音と衝撃が起こった。
どこで、何が、一体どうして!?
混乱する頭はうまく動いてくれなくて、ただただ必死に自分を抱きしめる。
がたがたと勝手に震える身体は、これから何が起きるのかを知っているというのか。
違う。
下から徐々に上がってくる悲鳴と喧騒が、悪い予感を突き上げてくるのだ。
本当に順番に上がってくる喧騒は(オートロック対策のためにドアは全部開け放したままだ)、何故かその度に足音を増やして上がってくる。
「何、が……!!」
起きているの!?
震える声で叫んだ瞬間、ドアのところにド派手な集団が押し寄せてきた。
その手には一様に ぎらぎらと光る刀。
……もう、限界だった。
私の神経はこの数日で磨り減って、この瞬間にぶつりと切れてしまった。
「 っ、いやああああああああああああああああ!!」
そこここで上がる悲鳴に混じって、自分のものとは思えないような声がほとばしる。
身体は勝手に極限まで震えて、必死に壁にすがった。
「 っち、何だよ。ここにもなよなよした奴しかいねえじゃねぇか」
苛立ったようにひとりごちた侵入者が、刀を水平に突き出して大きな声をあげた。
「黙れ!!」
それだけでフロア全体が一瞬にして静まり返って、その間にも続々と妙な格好の侵入者達が入ってくる。
一体何をされるのかと震える私達に、彼らは一言言った。
「立て。上に上がれ」
あちこちで刀を突き付けられた この時代に刀だなんて! 人達が震えながら立ち上がって、それにつられるように私達も立ち上がる。
非常階段まで行くとそこはもう社員でいっぱいで、ようやくふえていく足音の正体がわかった。
……まさか、全社員を最上階に上げるつもりか?
そんな無茶なと、思わず突っ込みたくなる。
少なくとも1000人はいるはずなのだ、この会社は。
それほどの大企業なのだ。
1000人がワンフロアに入りきるか?
答えは簡単、ノー。
どうやら先陣と後陣に分かれているらしく、私達は比較的集団の先頭に位置している。
そりゃあそうだ、このすぐ上が最上階なのだから。
先輩と手を握りあって、励まし合いながら階段を上る。
暴走族と見紛うような変な侵入者達は、最上階に私達を詰められるだけ詰めこんでから、更に無理矢理道を開けさせた。
「筆頭、こちらへ!」
「さて……ここのBossは誰だ?」
妙に威勢のいい声に答えて、ゆらりと青い男が姿を現す。
その声に宿るのは 殺気と狂気。
鋭いまでの、闘争心。
初めて感じるその恐ろしさに、一瞬呼吸を忘れた。
鎧兜に眼帯、そして6本もの刀。
あんなにぶら下げてどんな風に扱うのかと、某有名少年誌の海賊漫画を思い出してしまった。
いや、この男はあれの2倍だけれど。
その男がぐるりと周囲を見渡し、一際立派なデスクの前に立っている社長を見つけ 猛禽類のように笑った。
「 てめぇか」
「……私達を、どうするつもりだ?」
「Ha, 決まってんだろ。自分とこの領地にいきなり押しかけて、妙な要塞作りやがって。 てめぇの首、よこせ。そうすりゃここの部下全員、見逃してやるよ」
何だって?
「いきなり押しかけて」「妙な要塞を作って」?
この男は、一体何を言っているんだ?
誰もが状況を把握できていない中、男がゆっくりと社長に向かう。
社長は顔面蒼白で、蛇に睨まれた蛙のように動けないでいる。
その瞬間、唐突に私は理解した。
ここは、私達がいていい場所ではない。
この男達が異物なのではない、私達の方が異物なのだ。
社長と男の距離は、あと数歩。
「 っ、お待ちください!!」
弾かれるように声をあげた私に、フロア中の視線が集まった。
それに身がすくむけれど、必死にこらえて平伏した。
「さん?」と驚く先輩の声は、今のところ無視だ。
「恐れながら、御名を伺ってもよろしいでしょうか」
「何を馬鹿な事をいってやが 」
「ここに参ったは我らが意に反する事。ご覧の通り、我らのほとんどは食料もなく放り出され、衰弱しきっております。お調べいただければおわかりかと存じますが、武器もございません。どうぞ どうぞ、ご温情を」
きっちりと正座をして、両手を揃えて床について。
頭を絨毯にこすりつける。
身に覚えのない事で、目の前で殺人事件を起こされるのはまっぴらごめんだった。
PTSDになる、絶対。
誰もが唖然とする中、青い男が喉で笑う。
「ほう……じゃあ、お前達はどこから来たんだ?」
「遥か遠き次元より」
「信じられねぇな」
「では、御身はこの建物の中にあるものをご覧になったことは?構造はおわかりですか?仕組みは?扱い方は?」
……何だか私、しゃべっている間に肝が座ってきた。
ままよとばかりに立て続けに問いかけると、男がうなる声がする。
ここで顔を上げてはいけない。
この男は、この場でトップに立つ者だ。
しかも、持っているものから判断すると、きっと戦国時代っぽいところの。
平伏する前にちらりと見えた、兜の大きな三日月形の飾りが少しひっかかったけれど、一体何がひっかかったんだろう。
その疑問に答えてくれたのは、意外にも男自身だった。
「 いいだろう。ここは奥州、俺はその筆頭、伊達政宗だ。Do yo understand?」
妙に流暢な英語で訊かれた最後の言葉に、思わず気が遠くなる。
英語が流暢な伊達政宗?
ありえない。
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