そのままばたりと倒れたくなったのは仕方がないとして、そこをなんとか踏ん張った。

私頑張った。
本当に頑張った。


「……では、恐れながら。殿のお言葉が真ならば、我らは遥かなる時を超えてこの地へと飛ばされたことになります」
「あん?どういう意味だ」
「我らが生きるは、21世紀   殿達の戦は、すでに400年以上昔のこととして記録されております」
「ほう……」


男(自称伊達政宗)の気配がゆらりと揺らいだ。
危険な方に。


「じゃあ   てめぇは、誰が天下を統一するか、知ってるわけだな?」
「…………」


どうしよう、どう答えよう。
この場合、どう答えるのが正解なんだろう。


   って、ちょっと待て。


伊達政宗は、確か「生まれてくる時代を間違えた英傑」だったはずだ。
主たる戦には参戦できず、結局は豊臣傘下に収まったはず。

……歴史オタクの友人が言っていたから、間違いはないはずだ。


生まれてくるのが遅すぎた   けれど彼は、戦国の世ではもう人生の4分の1以上を過ごしただろうこの外見で、いまだ世界を手にしようと睨んでいる。


何か、おかしい。
からからに乾いた喉で唾を飲みこんで、唇をなめてしめらせて。
一か八か、「正史」を伝えてみた。


「我らの時代では   織田信長が天下統一をするが、明智光秀によって本能寺にて討死。しかしその明智もまた、織田への忠義篤い豊臣秀吉によって3日後に天下人の座を追われます。そして、一時は豊臣が   
「Stop。織田への忠義篤い?豊臣が?」
   左様にて」


「そりゃおかしいな、豊臣はとっくに織田から離反してる」
「は   
「あの馬鹿猿のことだろ?信じらんねえな」


それはこちらのセリフだ。
猿が離反するなんて、正史ではありえない。
では、ここはどこだ?


「……甲斐の虎は   
「ああ、あのhotな親父か。毎回毎回、よくもまああの暑苦しいやりとりができるよなあ、幸村も」
「……幸村?」
「てめえらのところじゃ、有名じゃないのか?真田幸村、俺のrivalだ」
「…………恐れながら、殿」


いかん、頭が痛くなってきた。


「歴史と殿のお話が合いませぬ」
「だろうなあ。その顔を見てると」


にやにやと笑う伊達政宗(仮)の頭をしばき倒したくなりながら、命の危険を感じてそれをおさえる。

後ろに控えている傷の男、この男から殺気がびりびりと伝わってきていた。
誰なんだ、こいつ。

明らかに面白がっている伊達政宗(仮)に顎をつままれながら、友人から聞いた話を整理する。


真田は夏の陣、冬の陣の時には、もう老兵と言って差し支えない年齢だったはずだ。
武田信玄とその息子の二代に渡って仕え、忠義心篤い男だったはず。
だとすれば、この男がこの年齢の時に、武田信玄がぴんぴんしているのはちょっとおかしくないだろうか。


というよりも、この男は何年生れで、本能寺の変や信玄の上洛があったのは何年だ。
そのあたりの知識がほしい。猛烈に。


そんなことをつらつらと考えていたら、また伊達政宗(仮)が猛禽類の笑みを浮かべた。


「……おもしれえ。この俺を前にしても怖じ気づかない、か」


いや、もうショートしてるだけなんですが。
ありえないことが重なりすぎて、どうしようもないだけなんですが。




   お前、俺のところに来い」




「……は?」
「政宗様!!」


とがめるような背後の男にうるさそうに手を振って、伊達政宗(考えるのも面倒だから、もう確定)は至近距離で肉食獣のように笑う。


「気に入った。その度胸、肝の座り方。普通の女にはねえ」
「……それは、ありがとうございます」
「城に来い。いいな」


ちょっと待て。
そこに私の意思は   ないんですね、そうですね。

だけど、こちらも譲れないものが一つ。


「この、建物……」
「あん?」

「この建物にいる者全ての身の振り方を保証してくださるなら、参ります」


こんなわけのわからないところに飛ばされて、一体私達にどうしろというのか。
誰かにどうにかしてもらわなければ、きっと誰も生きていけない。

それに   誰にも言っていないけれど、その中には好きな人も含まれていたから、なおさら。


目に力をこめて見つめ返すと、肉食獣がそのまま片目をすがめた。
そのまま何かを考えること数秒、鼻で笑う。


「その度胸   ますます気に入った。お前の条件を呑もう」
「政宗様、しかし   !」
「うるせぇな、俺が何とかするってったらそうなんだよ。今更1000人程度増えたところで、俺の肩はちっとも重くなんねえ。You see?」


傷の男が反論しかけたけれど、政宗の言葉に押し黙った。
その代わり、こちらをものすごい目で睨まれたけれど、私の精神衛生上気づかないふりをしておこう。


「ひとまずは、こいつらに食料だな。   お前、名は」
「……と申します」
「名字持ちか」
「我らの時代は、皆誰しもが名字を持っております故」


どうでもいいけど、このしゃべり方疲れる。
そんなことを思って現実逃避をしていると、不意に強い力で強引に引っ張られた。


「行くぞ!」
「え、あ   
さん!!」
さん!?」


先輩の悲鳴と、同期の悲鳴。
口々に名前を呼ばれて、抵抗はせずに曖昧に手を振った。


「……行ってきます。また、どこかで」


会えたらいいなあとぼんやり思ったのは、今後の私の身の振り方がよくわからなかったからなんだけれど。
あんな風になるなんて、普通誰も思わなかっただろう。