どうしようどうしようどうしよう。


その言葉ばかりが頭の中をぐるぐると回って、うまく働いてくれない。
いきなり好きとか言われても、どうしたらいいのかわからない。
ジーンは友達のつもりだったし……。


あれからジーンは何事もなかったかのように話しかけてくるし、私もぎくしゃくしていたのは2日間ぐらいだけだった。
いつものようにお散歩をして、冗談を言い合っておやつを食べて。


そんな毎日を過ごしていたから、告白されたことなんてすっかり忘れかけていたんだ。




「で。最近どうなの、あんた達」
「え?何が」




お弁当を食べながら訊き返したら、花音にものすごい顔をされた。
うわ、言うこと間違えたかもしれない……。


「あ ん た ね え !!」
「ちょ、ちょちょちょっと待って花音!話せばわかるから!」
「わかるわけないでしょ、あんたの話なんか!」


酷い……!


一言で片づけられて、さすがにちょっと傷ついた。
鼻息も荒くふん!と横を向いた花音が、腕を組んで脚を組む。


「忘れる?普通。あんな美形のこと」


倒置法で言われた。
ものすごく強調された。


「あんた、男に興味なさすぎ。ちょっとは意識しなさいよ」
「うーん……意識はしてるんだけどねえ……」


正直、それ以外の関係の方が長いから、あんまりよく意識の切りかえができないというか。
大体ジーンも酷い。
ずっと家族以上みたいに接してきて、いきなり「好き」なんて。

びっくりしすぎて挙動不審になって、お母さんに心配されたじゃない。


ごまかすのに結構苦労したのを思い出して、知らず眉が寄る。


「やっぱりさ、不意打ちは卑怯だと思うのよ」
「まあねえ、不意打ちはいけないと思うけど。それが今の話とどうつながるの?」
「いや、だから、ジーンが不意打ちをしてきたって話」
「え!?不意打ちって、もしかしてキスとか!?」


横からいきなり話に割り込まれて、ついでにきゃあ!と歓声がまき起こった。
ちょっと待ってチィ、あんた達どこから聞いてたの。


「やだ、やっぱり付き合ってるんじゃない!」
「遠距離恋愛かあ……憧れるなあ」
「あんな美形、どこでつかまえたの?」
「絶対優しいよねえ、うらやましい!」


あっという間に囲まれて、きゃあきゃあと好き勝手言われ放題だ。
付き合っていないなんて、言っても誰も信じてくれなさそう……。


小さくため息をつくと、目ざとく見つけた花音にちょいちょいとつつかれた。


「……もしかしてあんた達、本気で付き合ってないとか……?」
「そのまさかだよ……」


ただでさえ悩んでるのに、これ以上頭痛の種を増やさないでほしい。
逃がすものかとばかりに目を光らせているクラスメート達を見てうなだれると、さすがの花音も気の毒そうな表情になった。


「ええと……ごめん、煽りすぎた」
「しょうがないよ、勝手に来たジーンも悪いんだし」


ジーンを見たら騒ぎたくなるのはわかるし、騒ぐなという方が無理だ。
あんなにかっこいい人、そうそういるものじゃないし。


と、改めて考えてみたら、どうしてジーンが私を好きなのか、とことん不思議に思えてきた。


顔よし頭よし中身よし。
ちょっと悪戯好きなところもあるけれど、そんなの他で充分補えるくらいの欠点だ。


それに比べて、私は別にこれといって目立つようなところもないし……。


自分でもわかる、はっきりいって不釣り合いだ。
ジーンなら、他にいくらでもよりどりみどりに思えるのに……。












「どうして?」
「そんなこと考えたの?」


釣り合うとか不釣り合いだとか、そんなのは他の人が勝手に決めるものだろ?


とりあえず訊いてみようとジーンに言うと、馬鹿だなあと言わんばかりに軽く笑われた。


うん、まあ、見た目を気にするのはあまりよくないって、わかっているけれど。
それでも、一体私のどこがいいのかが謎だ。


しきりに首を傾げていたら、小さくため息をついたジーンが真剣な表情で向き直った。


「あのね、
「うん」
、可愛いよ?真面目だし一生懸命だし、ちょっとそそっかしいのも困った時に指先をこすり合わせる癖があるのもみんな知ってる」


……うわ、改めて言われると恥ずかしい。
ジーンとの付き合いがいかに長いかを思い知らされる。


「だからもちろん、がいいところばっかりじゃないっていうのも知ってるよ。不機嫌になるとむっつり黙りこむし、自分の領域に人が入るのを実はすごく嫌がるし、他にもまだあるよね」


それでも。


「僕は、がいいって思ったんだ」


もう5年以上も一緒にいて、誰よりもよく私のことを知っているジーン。
そのジーンにそう言ってもらえて、嬉しかった。


「……ありがとう」


頑張らなくていいんだと、言われた気がした。
私は私のままでいていいんだと、怒られた気がした。
無理に背伸びして格好つけなくても、私のいいところを見つけてくれる人はちゃんといるのだから。


だからジーンにも、同じ言葉を。


「ジーンもいいところばっかりじゃないよね。結構気分屋だし、実は自分と弟君さえよければ後はどうでもいいとか思う節があるし、そのくせちゃんと自分達を見分けてほしいって思ってるし」


実は単なる甘ったれ。
自覚しているのがまたタチが悪い。


でも、それでも、そんな自由なジーンに救われたのもまた確か。




「でも、私もそんなジーンが、いい……かな」




最後まで顔を見れなかった。

うつむいて、目をそらして、声も小さくなって。
最後はもう、ほとんど聞き取れないほどの大きさになっていただろう。

私にしてみれば、これが精一杯の告白。


そうして言ってみたはいいけれど、何の反応もないことに妙に不安になった。
ジーンの顔を見るのが怖くて、でもこのままの沈黙も怖くて。
動けずに固まっていたら、急に視界が真っ暗になって息苦しくなった。


もう慣れた感触。
   ジーンだ。


、それ本当!?本当!?僕、うぬぼれちゃっていい!?」


まるで子供のようなはしゃぎっぷりに、さっきまでの緊張が嘘のように消えていった。
いつものように抱き返しながら、肩口に顔を埋める。


「私も……うぬぼれていいのかな」
「いいにきまってるじゃない!」


やった!と叫んだジーンに苦笑しながら、お母さんが出かけててよかったと切実に思った。
だってこんなところ、見られたら絶対何か言われるにきまってるもの。