「ちょっと、あれどういうこと!?」
やっぱりきたか。
朝一番でそう口を開いた花音に、思わず生ぬるい笑みが浮かぶ。
昨日は何とかうやむやのままにして押し切れたけど、今日はそうもいかないだろう。
なんてったって、時間はたっぷりあるんだから。
まさか本当の出会いとか関係とかを言えるはずもないから、どうやってごまかそうか昨日からずっと悩んでいたりする。
「さあ!さあさあさあ!!さっさと吐いちゃいなさい、あの美少年は一体誰なの!?」
ぐいぐいと詰め寄られて、無意識に何歩か後ずさりたくなった。
椅子に座ってるからできなかったけれど。
「花音、ちょっと落ち着いて……」
「私は落ち着いてるわよ?さ、吐いちゃいな」
真顔でさらに詰め寄られ、さすがに逃げられないかと固く目を瞑る。
どうしよう、正直に言ったら言ったで問題だし……。
「うーん……実は、前からペンフレンドだったんだよね」
「はい?」
これくらいしか言い訳が思いつかない自分が情けない……!
でも、言ってしまったものはしょうがない。
どうやって言い通そうかなあ。
「たまたまなんだけどね、私もまさかあんなに美形だとは思わなかったし」
心臓ばっくばくで肩をすくめて、しょうがないなあというように苦笑する。
「こっちに来るって連絡があったら、いきなり事故に遭っちゃうし。ほんとに心配しっぱなしだよ」
本当に、ジーンにはいつも心配させられてばかり。
少しはこっちの身にもなってほしい……。
昨日の無茶を思い出して、苦笑が苦々しいだけになってしまった。
「あー……病み上がりであれは、さすがに厳しいね」
「でしょ!?でしょ!?やっぱり花音もそう思うでしょ!!」
それなのに、ジーンったら!
「久し振りだったから歩きたくなっちゃったんだよ」とか笑ってくれちゃって!
「もう、私がどれだけ心配したと思ってるのよ……」
どうにかならないものかと眉を下げたら、花音も気の毒そうな顔をした。
乗り出していた身体を戻して、改めて前の席に後ろ前に座る。
本来の席の主(佐竹君)が座りたそうな顔をしているけれど、そこはまあスルーさせてもらって。
「んで。結局あんた達、どんな関係なの?」
「だから、普通にペンフレン 」
「嘘言え!普通のペンフレは、あんな風に二人の世界を作ったりしないでしょ!!」
「……そう?」
昔からジーンはスキンシップが激しかったし、私もジーンに対してだけはあれが普通なんだけれど。
首を傾げたら、花音にべしりとはたかれた……。
「あんた変!!」
「そんなこと言われてもなあ……」
「普通あんなこと、好きじゃなきゃできないでしょ?鈍いんじゃないの、あんた」
「……え?」
好き?ジーンを?
確かに人としてジーンは好きだけれど、恋愛感情云々は考えたこともなかった。
「好き……なのかなあ」
よくわからないや。
さらに首をひねると、また花音にはたかれる。
「この鈍!ど鈍!!」
「花音さん、痛い痛い!」
「あんないい男つかまえといて、贅沢言ってるからでしょ!」
きい、と本当に悔しそうな表情でいきりたつ花音をなだめながら、こっそりと首を傾げた。
「ていうことを言われたんだけど、これって恋愛感情なのかな?」
「それを相手である僕に言うあたりがすごいよね、」
しゃくしゃくと梨をかじりながら、ジーンが小さく苦笑する。
床に直接お皿を置いて、脚を伸ばしながら食べている姿は、とても居候とは思えない。
「だって、女の子はみんな同じ反応しかしてくれないんだもの」
試しに7人聞いてみたところで諦めた。
女の子は恋バナが好きだからなあ……。
「男子は?」
「聞けるほど親しい人がいないの」
「そっか」
男子は子供っぽいし、乱暴だし。
うまくつきあって仲良くやってる子もいるけれど、私はそんなつきあい方はできない。
肩をすくめて答えると、ジーンがものすごく嬉しそうな顔になった。
「ねえ、僕のこと好き?」
「うん。ジーンといると安心できるし」
あっさりとした答え方が拍子抜けだったらしい、ジーンが気の抜けた顔になる。
フォークに残っていた梨を一口で食べて、伸ばしていた脚であぐらをかく。
「……好きなの?」
「もちろん。ジーンは私のこと、嫌いなの?」
私達、仲がいいと思っていたんだけれど……。
不安になって訊くと、ジーンは何かに気づいたように苦笑した。
「あー……うん、好きだよ?」
「よかった」
その答えに安心してジーンにすり寄る。
フォークを借りて、梨を一口。
うん、みずみずしいし甘くておいしい!
「この梨、まだ冷蔵庫にある?」
「おばさんに訊けばわかるんじゃないかなあ。切ってくるなら、ついでに麦茶もお願いしていい?」
「OK」
野菜室から梨を取り出して、適当に切りわける。
一切れつまんだら、やっぱりおいしかった。
上機嫌で戻って、ジーンに麦茶を手渡す。
「ありがと、。ここ、ここ」
たしたしと脚の間を示された。
いつもならすんなり座るはずのそこに、何故かためらってしまう。
「 どうしたの?」
「ううん、何でもない」
首を傾げたジーンに慌ててかぶりを振り、いつものようにその脚の間に座る。
座ってから気づいた。
「……これじゃ、ジーンが食べたり飲んだりしにくいじゃない」
「大丈夫!僕がそうしたかったんだから、は気にしなくていいの」
腰に腕を回してぎゅうと抱きしめられて、いつもの感触にほっとする。
よかった、いつものジーンだ。
「やっぱりジーンの傍は安心するなあ」
「ほんとに?嬉しいなあ」
声を弾ませるジーンに肩口にすりよられて、思わず笑いがもれてしまう。
「くすぐったいよ、ジーン」
「んー」
もふもふとでもするように、さらにすりよってくるジーン。
笑い続けていたら、不意にジーンがぽつりと呟いた。
「……僕、本当にのことが好きだよ」
「ありがとう」
ちゃんと言ってくれたことが嬉しくて笑うと、もどかしそうに繰り返される。
「ちゃんとした意味で。が好き」
「……ええと」
それは、つまり。
「I love you, 」
一層強く抱きしめられて、どうしたらいいのかわからずに固まってしまった。
しばらくそのままでいたら後ろでジーンが苦笑する気配があって、腕の力がゆるむ。
反射的に振りむいた先のジーンはいつも通りで、世間話でもするようにのんびりと笑った。
「返事はゆっくりでいいよ。いっぱい悩んで、が納得のいく答えを出して」
「……うん……」
そう言われても……どうしたらいいんだろう。
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