「怖い怖い怖い怖いー!!ジーン、もうやだー!!」
「……、本当にお化け屋敷駄目なんだね」


感心したように言わなくていいから!!
だから嫌だって、あんなに言ったのに!!


ジーンにしがみついて泣きながら、もう嫌だと繰り返す。


「怖いー……!!」
「ごめんね、ごめん」


早く出ようと眉を下げたジーンが、私の顔を肩に押しつけて、周りを見えなくしてくれた。


「こんなに怖がるとは思わなかったんだ」
「ジーンの馬鹿ぁ!」


そのままずっと見えないようにして出口まで連れて行ってくれたジーンは、まっすぐにカフェに連れて行ってくれた。


「……落ち着いた?」
「うん……」


ぐすり、と鼻を鳴らして、ジーンが買ってきてくれたアップルパイをかじる。

ふわりとした甘さと、さくさくのパイ生地が、じんわりと口の中にいきわたる。
少し気持ちが落ち着いて、にじんだ目元をぐいとぬぐった。


、あんまりこすらないで」


痛々しいジーンの声が聞こえると同時に、手からハンカチが抜き取られる。
身を乗り出したジーンの指に目尻を拭われて、その優しい感触に目を閉じた。

ハンカチよりも水分はとりにくいはずなのに、ジーンは器用に目元の水分をとっていく。


「目元がはれちゃうよ」
「…………うん」


指の柔らかさと温かさに、耳が熱くなった。


こういうことをさらりとしてくるから、ジーンと出かけるのはちょっぴり恥ずかしい。
けれどこれがジーンだし、そんなジーンを好きになったんだから、直してほしいとは思わなかった。


「……ありがと、ジーン」
「こっちこそ、無理させちゃってごめん」


本当に申し訳なさそうに目を伏せたジーンが、そっと私の肩に触れる。


「行ける?」
「うん」


遠慮がちな問いかけにうなずいて、音を立てないように立ち上がった。
安っぽい金属製の椅子は、それでも床とこすれて耳障りな音をたてる。
周りに申し訳ないと思いながら、ジーンとしっかり手をつなぎ直してカフェを出た。


「そういえば、日本にはディズニーランドがあるんだよね」
「うん。イギリスにはないんだっけ?」
「うん」


さっきまでとはうって変わって、のんびりと散歩でもするように歩く時間は、ひどくゆったりと心地いい。
両親の腕を引っ張ってはしゃぐ男の子を見ながら、その微笑ましさに頬がほころんだ。


は行ったこと、ある?」
「ないなあ。東京に行ったことすらないの」
「遠いもんね、東京」


苦笑したジーンにうなずきながら、そういえばあれは東京のどこにあるのだろうと首を傾げる。
シーができたことからいって、海沿いなのは間違いないと思うけれど……。
どんなところなんだろう、考えただけでわくわくしてくる。


「いつか、一緒に行こうね」
「そうだね」


横を見上げてそう言えば、柔らかい笑顔とうなずきが返ってきた。


「でもまずは、受験勉強、だね」
「……そうだね……やだなあ」


遊べるのは冬休みまで。
そう決めて、最後の思い出にと遊園地に来たのだから、嫌だと言っていられないのはわかっているけれど……。


「頑張るって、決めたじゃないか」
「……うん……」


渋々うなずくと、くしゃりと頭をなでられた。


「頑張ろう。一緒に、ね」
「ありがとう……」
が行きたい大学に行けるように、精一杯やろうね」
「うん」


行きたい大学は、ここではなく東京。
色々調べて、迷って、国立じゃなくて私立にした。

私が入るには難しすぎて、今から勉強しないと間に合わない。
親とはずいぶん揉めたけれど、何とか納得してもらえた。


「目指せ、東京!」


ぐぐっと拳を握って気合いを入れると、ジーンが強く肩を抱いてくれる。


「今日は楽しもうね」
「うん!」


それからはもう、アトラクションに無理に乗ろうとすることはしなかった。


屋台でクレープを買って、2人で半分ずつ分けあって。
冷えた身体はホットコーヒーとマシュマロで温めて。


通りかかった人に、初めてのツーショットをお願いしてみたりもした。


「はい、じゃあ撮りますよー」
「Say, cheese!!」


満面の笑顔でそう言ったジーンに少し驚いたけれど、そういえば撮る側が「チーズ」って言うのは日本だけだった……。
ディスプレイで確認したら、確かにいい笑顔で写っている。

意外にあなどれないな、チーズ。


そんなことをしている間に、辺りはすっかり暗くなってきていた。
ライトアップされ始めた園内を名残惜しく歩きながら、つないだ手に力をこめる。


「……もうそろそろ、帰らなきゃ、ね」


帰りたくない。
受験生活なんて、そんなものに入りたくない。
帰ればもう、浮かれてばかりはいられないのだから。


そんな心を押し込めて呟くと、ジーンの手の力も強くなった。


「……ねえ、。もう一ヶ所だけ、行ってもいい?」
「え?」
「あそこ」


ジーンが指した先を見て、思わず笑顔がこぼれる。


「……もちろん」


遊園地デートの定番、観覧車。
定番すぎて行きたいと言うのをためらっていたのは、多分ジーンにはばれていたんだろう。


空いてきた園内をゆっくり歩いて、それほど待たずに観覧車に乗りこむ。
向かい合って座るのが照れくさくて横を向くと、外の景色がよく見えた。

地上がどんどん離れていくのは少し怖いけれど、それ以上に綺麗なイルミネーションに見とれてしまう。
じっと魅入っていたら、不意に両手を包みこまれた。


、これから長い間、きっと大変だと思う」
   うん」


人よりも長い、受験生活。
きっといつか、投げ出したくなる。


「だけど、僕がいるから。が受験から逃げ出したくなったら、しっかりつかまえるから」
「うん」
「だから、後悔しないように頑張ろうね」
「……うん!」


ジーンが一緒なら、きっと頑張れる。
側にいてくれると言ってくれたことが嬉しくて、満面の笑顔でうなずくと、ジーンの真面目な表情がだんだん近づいてきた。




「ジーン……?」
……キスしていい?」




吐息がかすめるほど近くでささやかれて、頬が一気に熱くなる。
その間もジーンの手は頬を優しくなでていて、熱さがジーンにばれているのではないかと、そんな馬鹿な考えが頭をかすめた。


「…………」


いいよ、とは恥ずかしくて言えなかったから、かろうじて小さくうなずいて。
初めてのキスは、多分一生忘れられないものになった。