最近、ジーンがやけに楽しそうだ。
「ジーン、何かあったの?」
「んー?ふふふ、まだ内緒」
「教えてくれないの?」
「いつか教えるよ」
ものすごく気になったけれど、こんなに楽しそうなジーンは久しぶりだ。
何かいいことがあったんだろうなと苦笑して、それ以上の追及はしないことにした。
そのうち教えてくれると言っているし、楽しそうにしてくれているだけで、私も嬉しい。
最近はずっと勉強ばっかりで、遊びに行くこともできていなかった。
受験のための塾なんてここらにはないから、ジーンがずっと先生代わり。
ずいぶん負担をかけているなあと落ちこんでいると、大きな手が肩に乗った。
「は気にしなくていいんだよ?僕が手伝いたくて、教えてるんだから」
「でも、自分の時間がちっともないじゃない」
「いいんだよ。その分、と一緒にいられるし」
恥ずかしくなるほどにまっすぐな言葉がくすぐったくて、思わず首をすくめてしまう。
遊園地に行ったあの日から、ジーンはさらに優しくなった。
行動が甘くなったと言った方が、正しいのかもしれないけれど。
外でこういうことをされると恥ずかしいけれど、誰もいない二人きりの時ならば大丈夫になってきている自分がいる。
……よく考えるとまずくないか、これ。
「何で楽しそうなのか、そのうち教えてね」
「うん。約束」
頬に軽くキスをされて、それが約束の印。
イギリス人って、みんなこんなにスキンシップが激しいんだろうか……。
ご機嫌の理由がわかったのは、それから3ヶ月後。
学校から帰ると、興奮した様子でジーンが駆け寄ってきた。
「!聞いてよ、!!」
「どうしたの?あんまり慌てると危ないよ」
「大丈夫!それより、ナルに彼女ができたみたいなんだ!!」
「……え!?」
弟君に、彼女!?
あのワーカーホリックの弟君に!?
「ほんと!?女の子なんて、興味なさそうなのに!」
思わず興奮して詰め寄ると、ジーンも興奮しっぱなしでうなずいた。
「本当だよ!ほら、この前、いつか教えるっていったことがあっただろ?」
「うん」
「あの時、昼寝をしてたらその子に会ったんだよ!」
昼寝、イコール半トランス状態。
彼女も少なからず、そっちの才能があるんだろう。
「や、やっぱり、イギリスの人?」
「ううん、日本人。どこに住んでるかまではわからなかったけど……チームの仲間かな?」
多分イギリスに住んでると思うよとうなずくジーンは、表情がゆるみきっている。
本当に嬉しそうだ。
「僕のことをナルと間違えてさ、とろけそうな笑顔で『ナル、そうやって笑ってた方がいいよ』だってー!!」
「きゃー!!そんなこと言える子がいたんだ!!弟君もやるー!!」
「でしょ!?ナルをナルって呼べる女の子、今まではまどかしかいなかったんだよ」
可愛い子だったなあと目を細めたジーンに、どんな子なんだろうと好奇心がめばえる。
ジーンがここまで嬉しそうに興奮するんだから、きっととてもいい子なんだろう。
話に聞くだけで強烈な弟君の彼女をやれるんだし、おおらかで優しい子なんだろうか。
「ね、どんな子?」
袖を引いて訊くと、弾んだ声が返ってきた。
「麻衣って言うらしいんだ。背が低めで、ふわふわしたショートカットの元気な子だよ。言いたい事ははっきり言う子かな」
おや?考えていたのと、ちょっと違うようだ。
そう考えたのがわかったんだろう。
ジーンが笑ってうなずいた。
「自分の気持ちに素直に動く子だよ、麻衣は。嫌だと思ったら怒るし、嬉しければ笑うし、可哀相だと思ったら泣く。それって、ナルには一番面倒な人種なんだよね」
普通に考えたら、ナルの彼女になるはずがないんだ。
そう言い切るジーンは、けれどその人が彼女だと断言できるように自信満々だ。
どうして言い切れるのかと首を傾げると、満面の笑顔で一言。
「勘。」
あんまりな答えに、思わず脱力した。
「勘……?」
「だってあれは、絶対恋してる目だよ!普通に考えて、ナルに恋愛感情なんて持てるはずないのに!」
「持てるはずないって、それは酷いよ……」
いくら研究馬鹿でも、そこまではいかないだろう。
言いすぎだと眉を顰めた私に、ジーンが真面目な顔で言い切った。
「も会えばわかるよ。ナルは本当に、言い寄る女の子達には酷いことを言うから」
何でも100%再起不能になって、それ以降は絶対に近寄ろうとしないそうだ。
ありえないと笑い飛ばしたいけれど、ジーンの顔があまりにも真面目なのでそれもできない。
……まさか、本当なんだろうか。
「……嘘じゃないの?」
「こんなことで、僕が嘘を言うと思う?」
真顔で言われれば、NOと言うしかなくて。
想像以上にすごい弟君の性格に、思わず口元が引きつった。
「……すごいね、弟君……」
「ナルは本当に、性格歪んじゃったからねー」
あっはっはって笑ってる場合じゃないでしょ、ジーン!!
どうにかしなきゃって焦って!!
「そんな貴重な女の子だから、ナルとはうまくいってほしいなあ」
「そうだね!」
その子を逃がしたら、もう一生彼女なんてできないかもしれない。
心からうなずいて、ふと彼女の能力が心配になった。
「麻衣さん、自分の力をコントロールできてるの?」
「それがね……自覚、ないみたいなんだ」
「……心配だね」
弟君がちゃんと教えられるならいいんだけれど、自覚がないんじゃ教えようもない。
力に負けないといいんだけれど……。
大丈夫だろうかと心配になった時、ジーンの両手が私のそれを包んだ。
「だから、僕が教えてみようと思うんだよね」
「 あ」
ジーンならば、きっとうまくやってくれる。
私だって、ジーンがいたからこうしているんだし。
「ジーンが導いてくれるんなら、安心だね」
ほっとして笑いかけると、何故か少しだけ残念そうな顔をされた。
どうしたのかと首を傾げたその額に、柔らかいものが触れる。
「……やきもち、焼いてくれるかと思ったのに……」
「まさか。信頼してるもの?」
それくらいで妬いたりはしないよと笑って、白い頬に軽いキスを落とした。
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