「、今日は遊びに行こうか」
思いがけない言葉に瞬くと、ジーンが朗らかに笑った。
「息抜きも必要だよ、!」
「……いいの?」
「Sure!!」
即座に返された肯定に、心が浮き立つ。
半年間頑張ってきて、ようやく成績の伸びも実感できるようになってきた。
志望校の判定もワンランク上がっていたから、ジーンの提案がこの上なく嬉しい。
「いつも頑張ってるから、ごほうび」
「ありがとう!」
どこに行きたい?と訊かれて、一気に候補が思い浮かんだ。
この間みたいに遊園地もいいけど、ショッピングに行ってもいいし、ちょっと遠くの森林公園もいい。
ジーンとなら、きっと何をしても楽しいだろう。
そう、何をしても。
「……私、ジーンと一緒にいたい」
「……いつも一緒にいるよ?」
不思議そうに首を傾げられて、顔が熱くなるのを感じる。
確かにいつも一緒にいてくれるけれど、私が言いたいのはそういうことじゃなくて。
「ジーンと一緒なら、私、どこでも楽しい」
「 」
「特別なところじゃなくていいの。近所のお散歩でもいいし、リハビリに歩いてた林でもいいし、図書館はちょっと嫌だけど……公園で話すだけでも、それでいい」
言い切れないうちに、強く抱き寄せられた。
いつものスキンシップとは違うその力に、思わず息が止まる。
肩口に埋まったジーンの顔が、やけに熱く感じた。
「……、ありがとう」
吐息が首筋にあたって、くすぐったい。
けれどそれよりも恥ずかしさが勝って、私もジーンの肩に顔を埋めてしまった。
「ねえ、。それなら行きたいところがあるんだけど 」
ジーンが提案したのは、あのダムだった。
ジーンに呼ばれて、早朝の山道を自転車で飛ばしたあの日。
心臓が止まるかと思ったあの道を、2人で並んでのんびりと歩く。
「綺麗なところだよね」
「うん。こうやって見に来たことってなかったけど、ちゃんと見ると綺麗だね」
小石が敷き詰められた水辺は、湖と錯覚しそうなほどに静かだ。
他のダムがどうなっているのかよくわからないけれど、イメージとしては珍しいんじゃないだろうか。
「どうして、ここに来たかったの?」
ここはジーンにとって、あまりいい思い出があるとは思えない。
自分が死にそうになった場所なんて、私なら絶対に来たくないのに。
大丈夫なのかと不安になって見上げたら、それに気づいたジーンが優しく笑った。
「大丈夫だよ。僕が来たくて、ここに来たんだから」
「……うん……」
「あのね、」
前を向いたジーンは、正面からの風に気持ちよさそうに目を細める。
まっすぐな黒髪が、さらさらと後ろに流れた。
「あんなのが一番最初のこんにちはなんて、僕は嫌なんだ」
ずっと夢の中でしか会ってなくて。
いつか会おうねって、約束していて。
お互いそれを、心待ちにしていたはずだった。
それなのに、あれが出会いだなんて、そんなのは嫌だ。
わがままかなと、照れたように笑ったジーンに、ぶんぶんとかぶりを振る。
「私も!私も、あんな初めまして、嫌」
会いに行くよってどちらかが宣言して、片方が迎える準備をして。
そうして、笑い合いながら「初めまして」って言うつもりだった。
一歩間違えればジーンが死んでいたかもしれないなんて、そんなの笑えない。
「よかった」
ほっとしたように目を細めて、ジーンがこちらに向き直る。
初めて会ったあの時のように、とろけるような微笑みを浮かべるジーンが、すいと右手を差し出した。
「改めまして。初めまして、」
「初めまして、ジーン」
少しだけ体温の低いジーンの手は、それでも充分に温かい。
それが何だか妙に嬉しくて、だらしなく顔がゆるんだ。
「?」
「んー……ふふふ」
首を傾げたジーンに笑うと、何故かジーンも嬉しそうに笑う。
「どうしたの?」
「が嬉しそうだから」
「……変なの」
口ではそう言いながらも、やっぱり顔のゆるみは止まらない。
ジーンの手を握ったまま笑っていたら、そっと抱き寄せられた。
「僕、に会えてよかったよ」
「 私も」
耳元でささやかれて、小さく返す。
極上の声が直に耳に入ってきて、頬が一気に熱くなった。
それに気づいてか気づかずか、今度は不意打ちでジーンの声が響く。
ラインを使って、直接心に。
愛してる。
たった一言、5文字の言葉。
それだけのものがこんなに破壊力を持つなんて、本当に反則だ。
思わず腰が砕けた。
ぱくぱくと口を開閉して、結局何も言えず、しっかりと腰を支えてくれているジーンの肩にすがりつく。
「……ラインで言うのは、ずるい……」
「ふふふ、可愛い」
唇に柔らかい感触、軽いリップ音。
それすらもさらに身体の力を抜けさせる要因で、必死にジーンを睨みつける。
心に直接響いたジーンの声は、耳元なんて比較にならないほどの破壊力だった。
こんな人が私の彼氏だなんて、今更ながら信じられない……。
そんなことを思っていたら、ジーンが困ったように眉を下げた。
「……そんな顔しないでよ」
「ジーンが悪い」
「そうじゃなくて。可愛すぎて、困っちゃうよ」
「かわ……っ!?」
恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
どうして今、そんなことを言うのかな!
さらりとそんなことを言ってしまうジーンが、いっそうらめしい。
「馬鹿、馬鹿、ジーンの馬鹿ー!!」
「あー……もう。我慢できなくなりそう」
ほとんどパニックに陥っていた私が、そんな呟きを拾えなかったのは、多分幸いだったんだろう。
絶対そうだ。
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