ジーンのおかげで、英語はかなりできるようになってきた。
学校のテストもずいぶん点数が上がって、花音達に驚かれるほど。


、あんたどんな手使ったの!?」
「普通に勉強してるだけだよー」


ジーンに教えてもらっていると言ったら、また一騒動あるのは目に見えているから、そう言ってごまかしたけれど。
花音は付き合いが悪くなったって不機嫌だけれど   って、そういえば。




花音にジーンとのこと、報告するの忘れてた……!!




みんなの誤解を解いてくれたのも花音なら、告白されたと相談したのも花音だけだ。


まずいまずいまずい、絶対に烈火のごとく怒られる!
あんなにお世話になったのに、教えるのを忘れるなんて……!


「あ、あのさ、花音」
「ん?」
「ちょっと、話があるんだけど……」
「何よ、いきなり改まって。何?」


言ってみろと視線で促されたけれど、この場で言うのはちょっと厳しい。
教室でなんて、知ってくださいと公言しているようなものだ。


「うーん、ここじゃちょっと……。昼休みでもいい?」
「オッケー。じゃあ、美研で食べようか」
「美研かあ……いいよ」


油絵の香りがほのかにする美研は、美術部員くらいしか使う人がいない。
貴重なものもあるらしくて、普段は鍵がかかっているから、美術部の花音がいなければ使えない場所だ。
鍵をかけ直してしまえば、人が入ってくることもないし。


「何の話?」
「……ジーンのこと」


耳元でこそりとささやくと、花音が一瞬大きく目を見開いた。
けれどすぐに目を細めて、じろりとこちらを睨みつける。


「……覚悟しときなさいよ、
「…………はい……」


お説教は確実らしい……。












真面目に聞かなければいけない授業も、その日ばかりは(恐怖と不安で)上の空。
どうしたら花音の怒りを少しでも和らげられるだろうと考えていたら、あっという間にお昼休みになってしまった。
心臓ばっくばくでお弁当を食べていると、ハムカツを飲み込んだ花音がじろりとこちらを見る。


「……で?」
「……すいません、ジーンと付き合ってます」


言った瞬間、頭をはたかれた。


「痛ったー!!」
「痛いようにしたんだから当たり前、馬鹿!!」


がうと噛みついて、花音が憤慨したように鼻を鳴らす。
そして、鋭く細めた横目で私を見据えて、馬鹿にしたように一言。


「あんたがあの人と付き合ってることくらい、とうの昔に勘づいてたわよ」
「…………え!?」


どうして、いつの間に。
いつもと変わらずに過ごしてきたはずなのに、一体どこで気づかれたんだろうか。


謎すぎると首をひねると、呆れたようにため息をつかれた。


「あんなに幸せオーラを振りまかれたら、嫌でもわかるっての」
「ふ……振りまいてた?」
「そりゃあもう」


深々とうなずかれて、瞬時に顔が熱くなる。
き、気づいてなかったけど、ものすごく恥ずかしいことしてた……!


「こ……今度から、気をつける」
「まあ、別にいいけどね。他の子は気づいてないし」
「へ?」


かなりあっさりと言われて、思わず間抜けな声が出た。
幸せオーラを振りまいていたんじゃなかったんだろうか。


「私はいつも一緒にいたからね、あんたの変化にも敏感になるよ」


だけど、他のクラスメートは気づいていないんじゃないかと言われ、一気に気が抜ける。

結局のところ、ばれていたのは花音にだけらしい。
他にも気づいている人はいそうだけれど、相手が誰かまでは知らないだろう。

根掘り葉掘り訊かれているわけではないから、もうよしとしよう。


「で?ジーンさんだっけ、どんな人?」


顔が極上なのはもうわかってるから、それ以外で説明しなさい。


投げやりに手をひらひらとされて、それでも花音の目は好奇心で輝いていて。
しょうがないなと苦笑しながら、普段のジーンについて考えてみた。


「優しくて、頭がよくて、ちょっと気まぐれかな」
「何それ」


小さく笑った花音が、柔らかく目を細めて楽しげな表情になる。


「後は?」
「ええと……子供っぽくて、実はひねくれ気味で、弟君が大好きで、ものすごく世渡り上手だよ。自分の気持ちに正直な人だし」
「矛盾してるねえ……」


ますます楽しそうになった花音が、人間そんなもんかとうなずいた。


「聖人君主じゃないんだね、あんたの彼氏も。あの時見ただけだと、単なる甘え上手の完璧なイケメンに思えたけど」
「うーん……確かに甘え上手でイケメンだけどねえ。完璧ではないよ、間違いなく」


あれでジーンが完璧だったら、私はきっと気後れして傍になんていられない。

ジーンがジーンでよかった。
仮に最初に弟君と出会っていたら、たとえ顔がそっくりだったとしても、私は多分好きになっていなかっただろう。


「ブラコンでガキなイケメンかあ……。話だけ聞いてると、あんまりよさそうじゃないけどねえ」
「まあ、人の彼氏なんて、そんなものなんじゃない?私もよくわからないけど」


苦笑した花音に苦笑を返し、小さく肩をすくめておどけてみせた。


「でも、ジーンに教わることは、たくさんあるよ」


ジーンの感覚はとても繊細で、新しい喜びに満ちている。
日常が新しい発見の連続なのも、きっとジーンのおかげだ。

にっこりと笑ってそう言うと、一瞬虚を突かれたような表情になった花音が、呆れたように息を吐いた。


「……って、本当にジーンさんのこと好きなのねえ」
「うん。大好きだよ」


これだけは、最近やっと照れずに言えるようになってきた。
真顔でうなずくと、勝手にしろと言わんばかりに手を振られる。
めんどくさそうな花音の顔は、それでもとても優しかった。