その時、私達は縁側に並んで座っていた。
スイカがおいしい季節になったね、と笑いあって、のんびりと真っ赤な実をかじる。
瑞々しくも甘味を充分に含んだそれに、思わず頬がほころんだ。
「おいしいね」
「うん。いくらでも食べられそう」
「……さすがにいくらでもは無理だよ、ジーン……」
いくら何でも、お腹を壊すだろう。
苦笑して次のスイカに手を伸ばした時(これで5きれ目だ。次で最後にしよう)、身体に強い衝撃が走った。
「 っ!!」
そのままの姿勢でいられない。
背後から鉛玉を打ち込まれたような、激しくて鈍い衝撃。
息がつまって前に倒れそうになるのを、ジーンが素早く支えてくれた。
放り出した2枚の皿が、ごろりと庭に落ちる。
「!?」
「な……に、これ 」
心臓が止まりそうだ。
比喩ではなく、不整脈のように不規則に暴れていた。
知らずにじみ出る脂汗を感じながら、必死に呼吸と意識を保とうとする。
「、しっかり」
肩をつかむジーンの手が熱い。
いや、 私の身体が冷たい?
「ジーン……何があったか、わかる?」
少しでも自分を「こちら」に繋ぎ止めようと、無理矢理声を絞り出した。
厳しい顔でジーンがかぶりを振って、強く私を抱き寄せる。
「誰かに共振しているのかもしれない。、引きずられないで」
「わかってる……!」
今これに引きずられたら、多分間違いなく死ぬ。
直感でそうわかったから、消えそうになる意識を必死に押しとどめ続けた。
一体何なんだ、これは。
誰かの思念に引きずられているにしては、あまりにも強すぎる。
「、呼吸を意識して。僕のカウントに合わせて、ゆっくり吐くんだ」
1、2、3、4。
耳元でささやかれる数字に合わせて、無理矢理息を吐き出していく。
4でちょうど肺が空になるように、細く細く。
「吸って」
再び始まったカウントに、今度はゆっくりと肺に空気を送りこむ。
暴れる心臓が大量の酸素を必要として、息が震えた。
それを無視して、ひたすら呼吸にだけ集中して。
何度繰り返しても一向によくならない私を見て、ジーンの顔色が変わった。
「……霊の仕業じゃ、ない?」
ぽつりと呟くと、今度は私の顔を無理矢理自分と向き合わせる。
何をしようとしているのかが瞬時に分かって、必死に抵抗した。
「ジー……、駄目!!」
ジーンは私に同調する気だ。
同調して、何が原因か探ろうとしている。
けれどそれは、ジーンにまでこのつらさを味わわせるということで。
「駄目……っ!!」
ぎりと睨みつけて身体をよじると、しばらくしてジーンが諦めたようにため息をついた。
「……頑張って、」
「うん……っ」
どれくらい経っただろう。
いきなり呼吸が楽になった。
心臓はまだ跳ねているけれど、息が普通にできるだけでずいぶん違う。
「はっ……、はぁ……っ……」
強く抱きしめてくれるジーンの腕の中で、必死に心臓の痛みに耐える。
それもある一瞬で急激に落ち着いて、後には私の荒い息が響くだけになった。
「……治まった?」
「……うん。どうしたんだろ?」
どちらも唐突に始まり、唐突に終わった。
ハンカチでそっと汗を拭ってくれるジーンに笑いかけると、心配そうに眉を顰められる。
どうやら、自分で思っていたよりも弱々しいものになっていたらしい。
「本当に大丈夫。心配かけてごめんね」
もう一度笑うと、今度はうまくできたようだった。
「よかった」
ほっとしたように笑って、白い指がさらりと頬をなでる。
くすぐったさに身をよじりながら、こらえきれずに笑い声をあげた。
お皿を拾い上げて、台所で綺麗に洗う。
スイカの種はそのまま地面に放置しておいた。
……生えてはこないだろうけれど。
生えてきたら嬉しいような、困るような。
「、原因に心当たりはある?」
「うーん……あるような、ないような……」
「……よくわからないんだね」
呆れたように息を吐いたジーンに苦笑して、それにしてもと首を傾げる。
「今までこんなこと、一度もなかったよね?」
どうして急に、こんなことになったんだろうか。
考えても答えが出るわけもなく、2人で顔を見合わせる。
もう一度首を傾げ合いながら、内心で小さく息を吐いた。
知られてはいけない。
知られるわけにはいかなかった。
一瞬沈んだ闇の中、声が聞こえたなんて。
『 誰だ?』
それがとても、聞き覚えのあるものだったなんて。
『お前は、 誰だ?』
ジーンの声、……そのもの、だったなんて。
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