家までは歩いて15分ほどだったけれど、不思議な集団のその人達は車でと申し出た。
後部に山と積まれたテレビやらマイクやらに驚きつつ、助手席にちょんと収まる。

運転をするのは、冷たそうな印象を受ける男の人。
無言の車内は空気が重くて、何故だかわからずに居心地が悪くなった。


「あ、そこ右です。あそこの、電信柱の脇の家です」


最後の道案内を終えて、ほっと一息。


車から降りた面々は、一様に重苦しい顔をしていた。
それに少し首を傾げて、とりあえずジーンを呼んでこようと玄関に足を向ける。


「ちょっと待っててくださいね」


言い置いて中に入ろうとしたところで、急に出てきたジーンに抱きしめられた。
驚いて一瞬息がつまる。


「ジーン?」
!心配したんだよ。なかなか帰ってこないし、何回電話しても出ないし」


探しに行こうと思っていたんだと言われて携帯を見ると、確かにジーンからの不在着信で埋まっていた。
色々あって携帯を見るのを忘れていたけれど……まさかこんなに心配されているとは。


「ごめんね、ちょっとあのダムに寄ってたの」
「それならいいんだけど   泣いたね?


頬を優しくジーンの手が滑って、軽くキスされる。
くすぐったさに身をよじろうとすると、こつりと額を合わせられた。


「何があったの?」
「何でもないよ。ちょっとびっくりしただけ」
「びっくり?」


一体何にと言いたげなジーンが何かを言おうとしたその時、地の底を這うような低い声が割って入った。




「ジーン……」




「え?」
「あ」


そうだ、弟君がいるんだった!


慌てて離れようとしたけれど、ジーンがさらに力をこめて離してくれない。
顔が熱くなるのを感じながら、強めにジーンの胸を叩いた。


「ジーン!離して!」
「えー、どうして?」


別にいいじゃない。
あっけらかんと言ったジーンの腕をはたいて、よくない!と訴える。


「ほら、弟君だよ!久し振りなんだから、きちんと挨拶しなきゃ」


ぐいぐいとジーンを押していたら、冷えきった声が横から入ってきた。




「ずいぶんと楽しく過ごしていたようだな、ジーン?」




気温すら数度下がったように感じるその声に、ジーンがびくりと反応する。
同時にますます強く抱きしめられて、何か妙だと首を傾げた。
単にくっつきたがっているのとは、何かが違う。


「……ジーン?」


どうしたのとささやくと、何とも情けない声が返ってきた。




「……連絡するの、忘れてた……」




小さな小さなそのささやきに、思わず顎が落ちそうになる。


「な   


この1年間、音信不通だったというのか。


「何やってるのー!!」


ばしん!と頭を叩いて、腕の力がゆるんだ隙に弟君の方へ押し出す。

ツンドラ並みの冷気を発している弟君は、そりゃあもう怖い。
顔が綺麗な分、余計に怖い。


びくびくとしながらにへらと笑ったジーンに、同じく(こちらは本当に)あんぐりと口を開けていた長髪の人が呟いた。


「おいおい、ナル坊……こりゃあ一体、どういうことだ?」


ジーンは死んだんじゃなかったのか?


その言葉に、今度は私が呆ける。

ジーンが死んだって、どんな誤報だ。
単なる音信不通が、どうやったらそこまで飛躍するんだろうか。


   どういうことだ、ジーン」


厳しい表情で、弟君がジーンを睨みすえる。


「僕は確かに、緑のフィルターがかかったお前の記憶を見た。どうして生きている?」
「……その言い方だと、まるで僕に死んでてほしかったみたいじゃないか」
「まぎらわしい真似をするなと言っているんだ。ルエラがどれほど悲しんだと思ってる」


ジーンの抗議をばっさりと切り捨てて、弟君が苛立ったように息を吐いた。
それを聞いたジーンが眉を下げて、しょんぼりとうなだれる。


「ルエラ……泣いてた?」
「泣くのは我慢していた。泣きたかっただろうがな」
「そっか……」


に会えて、うかれてたみたいだ。
申し訳なさそうに呟いたジーンは、腕を伸ばして弟君に近寄る。


   久し振り、ナル。探しにきてくれて嬉しいよ」


柔らかく抱きしめられても、弟君は意外にも何も言わなかった。
リンも、とあの運転していた男の人にジーンが笑いかけ、リンさんも小さくうなずく。


「ナル、この子が。僕を助けてくれたのも、なんだよ」


嬉しそうに笑ったジーンがそう言った途端、その場にいた全員の視線がこちらに集中した。

純粋な驚きのものが大半。
弟君だけは驚きの他に、何か納得したような表情だった。


「なるほどな……彼女が、例の」
「そう!可愛いだろ?」


双子だけで何やら納得して話を終了されそうになって、慌ててジーンの腕にしがみつく。


「ちょ、待って!例のって何、例のって!何を言ってたの!?」


変なことを言われていたらどうしよう。
そんな焦りは、ジーンの無邪気な笑顔でかき消された。


「え?可愛いとか、いつも一生懸命だとか、困った顔を見るとハグしたくなるとか、手がすべすべしてて気持ちいいとか」
わかった。わかったから、お願いだからもうやめて」


かき消された代わりに、ものすごく恥ずかしくなった。
訊かなきゃよかった……!!


「いつも愚兄がお世話になっています」


真っ赤になって頭を抱えていると、弟君に何事もなかったかのように挨拶された。

さすが兄弟、ちょっとやそっとのことでは動じなくなっているらしい。
というか、同じような思考回路なんだろうか。


「こちらこそ……ジーンにはお世話になって……ました?」
「ちょっと、なんで過去形なの?」
「最近は私もお世話してたなあって思って」
「う……」


言葉に詰まったジーンを呆れた目で見て、弟君が手を差し出した。


「一応こいつの弟の、オリバー・デイヴィスです」
   って、オリバー?デイヴィス?」


外国人?


「日本人……じゃなくて?」


信じられないとジーンを見ると、小首を傾げて見返された。


「僕、イギリス人だよ?言ってなかったっけ」


ああ、そんなちょっとした仕草も様になる   じゃなくて!
聞いてないよ、ジーン!!