「……とりあえず、落ち着いて話そうか」
立ち話も何だからと、全員を家に招き入れた。
そんなに広い家じゃないから、和室に全員が座ると、それだけでぎゅう詰めだ。
「 それで?どうしてお前がここにいるんだ、ジーン」
あの霊視は何だったんだと眉根を寄せた弟君に、ジーンが小さく苦笑する。
よく似ているのに、こうして並んでいるとちっとも違う。
「多分ナルが見たのは、仮死状態の僕の視界だろうね。あの時は本当に死んだかと思ったよ」
が近くにいてくれて助かったと、ジーンは何でもないことのように笑った。
けれど、私は知っている。
うちに来た最初の頃、ジーンが毎日のようにうなされていたことを。
水に触れるのを、ほんの少しためらっていたことを。
笑顔の裏で、ものすごく葛藤していたことを。
力をこめてジーンの手を握ると、言いたい事を察したかのように微笑んでくれた。
けれどそれでも不安で、ぴったりと寄り添う。
そんな私に苦笑したジーンが、耳元でそっとささやいた。
「大丈夫だよ、」
僕はもう大丈夫。
全てがつまったその一言で、ようやく離れることができた。
そんな私に、茶髪の少女がちょこちょこと近づく。
人懐こそうな笑顔を浮かべた彼女は、にっこり笑って口を開いた。
「あたし、谷山麻衣っていいます。さん ですか?」
友好的に自己紹介をしてくれた彼女に、こちらも慌てて名乗る。
「です。」
「あ、名字は表札で見ました」
ぺろりと舌を出すその仕草が、何とも可愛らしい。
こんな彼女なら、弟君もつい自慢したくなるだろう。
微笑ましくなって小さく笑うと、同じことを思ったらしいジーンが弟君にからんでいた。
「ナルも隅におけないなあ!麻衣みたいに可愛い子をつかまえるなんて」
「確かに使い勝手はいいな。誰かさんが教師を気取ってくれたおかげで」
「む!どういう意味だい、ナル!!」
「そのままの意味だが?眠らないと役に立たない谷山さん」
「ぐっ……!」
弟君に噛み付いた麻衣さんは、けれどすぐに言葉をつまらせて悔しそうにうめく。
「それとも、何か?僕が知らない間に、素晴らしい能力でも身につけていたのか?」
初耳だなと肩をすくめる弟君は、小憎たらしいほどにかっこいい。
……想像はしていたけれど、思っていた以上に毒舌だ。
麻衣さんもよく付き合っていられるものだ。
感心しながら彼女を見ていたら、ジーンがたしなめるように弟君の肩を叩いた。
「ナル、恋人にそんな言い方しちゃ駄目だろ?もっと優しくしなきゃ」
「恋人?誰が?」
「麻衣!ナルの彼女だろ!」
怒ったジーンがそう言った瞬間、麻衣さんが真っ赤になる。
可愛いなあ!
思わず頬がほころんでしまったけれど、麻衣さんはあたふたと慌てふためきながら、無意味に両手を動かした。
「なっ、ジッ、ジーン!!何言ってんの!?」
「え?麻衣ってナルの彼女だろ?」
と2人で、ずっとそう思ってたんだけど。
違うのかと首を傾げたジーンと私に、麻衣さんがさらに赤くなって怒鳴った。
「ちっがーう!!」
「なあんだ……やっとナルにも春が来たと思ったのに……」
ずっと研究命だったから、ジーンの喜び様もひとしおだったのを思いだす。
本気でがっかりしているジーンに、弟君が呆れたようにため息をついた。
「馬鹿な勘違いもなくなったところで。 イギリスに戻るぞ、ジーン」
「嫌だ」
「僕が日本に来たのは、お前を探すためだ。見つかった今、SPR日本支部を置く理由がなくなった」
「嫌だ。せめての受験が終わるまで、傍にいる」
無表情に淡々と正論を述べる弟君にもめげず、ジーンは駄々をこねるようにかぶりを振る。
ぎゅうと抱き寄せられて、その力の強さに驚いた。
「向こうでどれだけ心配していると思ってる」
「連絡はする!手紙だってメールだって、これからはちゃんと書く!だから、もう1年半!」
必死に訴えるジーン。
その気持ちは、とても嬉しい。
けれど。
「……帰るべきだよ、ジーン」
「 ?」
ジーンはやっぱり、帰るべきだ。
「お父さんもお母さんも、きっとすごくジーンに会いたいと思う。死んだと思ってたんなら、なおさら」
「それは 」
「だから、ね?顔を見せて、安心してもらわなきゃ」
微笑んでそっとジーンの胸を押すと、反発するようにさらに強く抱きしめられる。
苦しさに小さく眉を寄せた時、泣き出しそうなジーンの声が耳を打った。
「一緒にいるって、約束したじゃないか!」
驚いて息をつまらせた一瞬に、ジーンがさらにまくしたてる。
「はイギリスに来るつもりはないんだろ?だったら、僕が日本に残る!」
「ジーン、それは、」
「僕はこの土地が好きだし、それに日本に残れば、を東京で一人暮らしさせることもないだろ?ルエラもマーティンも、飛行機に乗ればいつだって会いに行ける!」
「ジーン!!」
駄目だ、興奮しすぎている。
こういう時に大事な事を決めてはいけない。
覚悟を決めて、手を小さく振りかぶる。
ぱん、と小さな音がして、数瞬全てが止まった。
頬を押さえて呆然としているジーン。
その手に自分のそれを重ねて、ちゃんと伝わるようにと願いをこめてゆっくりしゃべる。
「ジーン。戻ってくるななんて、言ってないでしょ?」
ジーンが戻ってきたいなら日本に来ればいいし、私だって来てほしい。
第一、ジーンが外国人なら、多分もう不法滞留になってしまっている頃だ。
観光のビザでは、最長1年もなかった気がする。
「私もジーンと一緒にいたい。だけど、家族を大事にしないジーンは嫌」
だから、一度帰って。
静かにそう告げると、ジーンはくしゃりと顔を歪ませて、ゆっくりとうなずいた。
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