ルエラさんは少しおっとりとしていて、でもとてもしっかりした人だと思う。
ルエラさん自身は霊が見えるとかESPが使えるとかいうわけではなく、本当に普通の人だ。
それでも旦那さんや子供が持っている能力をきちんと理解して、受け入れている。


、お話、しましょう」
「Yes, Luella」


ジーンが帰ってくるまでの時間、ミルクティーを飲みながらゆっくるとお話をした。

日本でのジーンはどんな様子だったのか。
悪戯して迷惑はかけなかったか。
あの子は人懐こいけれど、どこか他人と距離をとっているから、少し心配なの。

そんなことを英語と日本語が混じった言葉で、時々表現に迷いながら話してくれる。


私にもわかるように簡単な英語を、そして一生懸命につたなくも日本語を。
楽しそうに話してくれるルエラさんに、私も一生懸命に英語をしゃべった。


ジーンは私の両親ともとても仲がよかったこと。
学校にいきなり来てしまって、友達が大騒ぎしたこと。
帰り道で買ってくれたキャンディーボックスは、どれもきらきらしてとても綺麗だったこと。


一つ一つの話にルエラさんは喜んだり苦笑したりしながら、とても楽しそうに聞いてくれた。


「He's as usually」
「Yes, surely」


くすくすと笑いあって、今ごろ弟君を説得しているだろうジーンを思う。
どこにいても、ジーンはジーンらしい。


、Don't you want to hear his young days?」
   Yes!」


ジーンの小さい頃。
どんな子供だったんだろう。

わくわくしながら待つ私に、ルエラさんは今からでは想像もできないようなジーンの失敗談やおっちょこちょいぶりをたくさん話してくれた。


階段を一段飛ばしで降りていたら、途中で踏み外して10段くらい転げ落ちたり。
蜂蜜を取ろうとして蜂の巣に近づいて、刺されそうになって泣きながら逃げたり。
自分で前髪を切ろうとしたら、失敗して思いっきり短い斜めカットになったり。


「Really!?あのジーンが!?」
「Yes!ジーン、昔、おっちょこちょい」
「It's so anblievable!」


信じられないと目を見開くと、ルエラさんもおおげさに肩をすくめた。

あの子ったら、ずいぶんやんちゃだったのよ。

今もそうだけれどと困ったように目を細めるルエラさんからは、本当にジーンを大切に思っているのだと伝わってくる。


   素敵なお母さんだ。
何故だかとても、泣きたくなった。


   Well, 、what's matter?」


笑顔が不器用に歪んだ私に、ルエラさんが慌てて手を伸ばす。
頬に振れる手が柔らかくて温かくて、余計に泣きたくなった。


「何でも……ありません」


ただ、あなたがジーンのお母さんで、本当によかった。


祈るような呟きは、ルエラさんに伝わってしまっただろうか。


「Luella, 、I'm home!!」
「Hi, dear. How did you in lavo?」
「Tod creates something strange.    ただいま、。ナルを連れてきたよ」


褒めて褒めてと尻尾が見えそうなジーンに苦笑して、ありがとうとハグをする。
その間に弟君もルエラさんにハグをされていて、嫌がってはいないような彼の様子に思わず笑みがこぼれた。


「こんにちは、お久しぶりです。しばらくお世話になります」
「こんにちは。どうせジーンがわがままを言って、あなたをこちらに呼んだんだろう?こいつの世話は大変だと思うが、僕に迷惑がかからないように見張っておいてくれ」
「ちょっとナル、それどういうこと?」


酷い!と声をあげたジーンに、弟君が凍るような視線を投げかける。


どうやら不機嫌らしい。
ものすごく不機嫌らしい。


「ナル、まだ怒ってるのかい?言ったじゃないか、今日は早めに切り上げられるようにしておいてねって」
「誰がこようと僕には関係ない。研究の邪魔だけはするなと、前から言ってるだろう?」


2人が何を言っているのかわからないルエラさんはおろおろするばかりだけれど、わかってしまう私はものすごくいたたまれなくなってしまった。
英語でしゃべってくれた方がよかったかもしれない……。


「あ   あの」


思いきって会話に割りこむと、そっくりな2人の視線が同時にこちらを向いた。


「……何か?」
「あの、私がジーンにわがまま言ったんです。お世話になる初日くらい、ちゃんと挨拶したいって」


冷たい視線にたじろぎながらもおそるおそる申し出ても、弟君はぴくりとも表情を動かさない。
ものすごく怒っているようだと泣きたくなった頃、ふと空気が動いた。

小さくため息をついて、こちらに向き直って。
差し出された手が何を意味するのか、一瞬把握できなかった。


これは握手だろうか、そうとっていいんだろうか。
手を握っても怒られないだろうか。


   ええと、」
「……よろしく」


ぐるぐると考えて身動きが取れなくなってしまった私の手を、弟君が軽く握る。
意外にも丁寧な動作に、思わず瞬いた。


もっとこう、雑に扱われるかと思った。
何となく。


「ナル……!」


感きわまったように声をあげたあたり、ジーンも同じように考えていたらしい。
うるさそうに顔をしかめながら、弟君が苦々しげに口を開いた。


「こうでもしないと、お前や麻衣がうるさいだろう」
「あれ?そこでどうして麻衣が出てくるの?やっぱりナル   
「その頭に花が咲いているような思考回路をどうにかしろ」


片や楽しそうに、片やめんどくさそうに続く会話を見ていると、にこにこしたルエラさんに肩を抱かれる。
いい子たちでしょう、よろしくねと微笑まれて、こちらも笑顔で大きくうなずいた。


わざわざ日本語で話しているのは、私にもわかるように。
弟君がそれを始めてくれた。


少し怖いけれど、やっぱりいい人だと、胸が温かくなった。