ジーンにコッツウォルズに行こうかと誘われたけれど、実はどこなんだかよくわからない。
曖昧に首を傾げて笑っていると、ジーンもそれを察してくれたらしい。
にこにこと笑ったまま、両手で私の手を包む。


「蜂蜜色の綺麗な村だよ」
「蜂蜜色?」


きっとも気に入るよと自信満々に言われて、どんなところだろうかと興味がわいた。

綺麗な村というからには、多分昔のイギリスといった様子なんだろう。
どこが蜂蜜色なんだろうか。
家の壁や屋根が、みんな蜂蜜色をしているんだろうか。
それとも、蜂蜜が名産の村なんだろうか。

考えるほどに想像がどんどん膨らんで、とても楽しくなってきた。


「行く?」
「行く!」












そんなわけで、急に決まった小旅行にやってきました。
電車の窓から見える景色は、時間が経つにつれ懐かしいものになっていく。

こうやって移り変わっていく景色を見るのがとても好きだ。
確かにつながっているのに、いつの間にか全く知らないものになっている。
その不思議さと知らない場所への期待感で、いつまでも眺めてしまう。


「……、ちょっとはこっち向いてよ」
「あ、ごめん」


声をかけられて振り向くと、ジーンが拗ねたような表情をしていた。
苦笑して謝ると、ますます口元を下に下げる。


「ずっと外ばっかり見られたら、いくら僕だって寂しいんだからね」
「だってジーン、難しそうな本読んでるじゃない」
「これはナルに押しつけられたの!次回のフィールドワークまでに内容を理解しておけってさ」


うんざりしたように本をしまいこんだジーンが、代わりに喜々としてお菓子を取り出した。


、どれ食べたい?」


色鮮やかなグミやキャンディーを次から次へと見せてくれるけれど……実は外国のお菓子があまり好きではなくて、少し困ってしまう。
この、独特の人工物っぽい味が、どうも苦手だ。
欧米のお菓子はどうしてこういう味なんだろうと眉を下げると、ジーンも困ったように笑った。


「……外国のお菓子、駄目?」
「うん……。ごめんね、ジーン」


ジーンが昔からたべてきたものが駄目だなんて、申し訳なさすぎる。
両手を膝の上で握りながら謝ると、ゆるくかぶりを振られた。


「いいんだよ。日本のお菓子は繊細な味だし、他の国とちょっと違うもんね」


僕が日本のお菓子を好きだから、それでいいじゃない。


そう笑ったジーンは、紙のボックスに入ったクッキーを差し出した。


「これはルエラが作ったやつだから、きっとおいしいよ。ナルがあんまり甘いの嫌いだから、そんなに砂糖も使わないんだ」
   ありがとう、いただきます」


つまんだクッキーは本当においしくて、おもわず頬がほころぶ。
そんな私にジーンも嬉しそうに笑って、いそいそとボックスを膝の上に置いた。


「B&Bはスタントンに予約したんだ。コッツウォルズでも有名な可愛い村だよ」
「……コッツウォルズじゃないの?」
「コッツウォルズって地方なんだ。ごめんね、全然伝えてなかった」
「ううん……知らなかった、恥ずかしい」


急に決まったとはいえ、ジーンの様子からするととても有名なところなのだろう。
語学留学のノリで地理や名所を全く勉強してこなかったのを、今更ながらに後悔した。


「ジーンの国のこと……もっとよく知っておけばよかった」


ジーンは日本のことをよく知ってくれていた。
京都のことも、東京のことも、大阪のことも。
それどころか、けして有名ではない私の街に来てくれていた。

それに対して、私はあまりにも何も知らない。


唇を噛みしめてうつむくと、繊細な手がそっと頬に触れた。


、気にしないで。僕だって最初に日本に行った時には、本当に何もわからなかったんだから」
「本当……?」
「うん。まどかにあれこれ教えてもらったけど、それでも覚えられたのは東京ぐらいだったかなあ。あと、お寿司!」


すごく食べたくて、入ったところが高級なところでね。
あれこれ頼んでお会計したら、とんでもない値段になってびっくりしたよ。
わさびも今までにない辛さだったから、思わずお茶をがぶ飲みして、火傷しちゃった。

恥ずかしそうに笑いながら話してくれたジーンは、だからと微笑む。


が気にすることはないと思うな。それに僕は、にいろんなことを教えられて嬉しいよ?」
「……ありがとう、ジーン」
「どういたしまして」


にっこり笑ったジーンの手に指を絡めると、一瞬驚いたように目を見開いて、それから幸せそうに笑ってくれた。
綺麗な微笑みに頬が熱くなるのを感じながら、ジーンの耳元に顔を寄せる。


どうしても、今伝えたいことがあった。
感謝の気持ちをこめて、震えそうになる声をこらえて。




「だいすき」




ちょっと舌ったらずになってしまったのを恥ずかしがる暇もなく、勢いよく抱きしめられた。

ボックスが下に落ちそうになって、慌てて受け止める。


「Me too, !」


同じように耳元でささやかれた声はとても熱くて、電車の中だと言うことも相成ってさらに顔が熱くなった。


「ジ、ジーン、恥ずかしい」
「平気だよ。堂々としてれば、みんな気にしないし。キスしてる人もいるくらいなんだから」
「だ、駄目だからね!」
「ええええ?」
「駄目!!」