雪がうっすらと積もったコッツウォルズの村は、絵本の中のような景色だった。
列車から降りる前から歓声をあげていたら、ジーンの目が微笑ましそうに細まる。


「気に入った?」
「もちろん!ありがとう、ジーン」


外はものすごく寒かったけれど、そんなことも気にならないほどに辺りを見回した。
比喩ではなく、本当に蜂蜜色の煉瓦で村ができている。
しんしんと降る雪の中に暖かな家の光が浮かび上がって、見ているだけで心が浮き立った。

今もまだ、こんな村があったなんて。


「まずはB&Bに荷物を置こうか。ちょっと歩くけど、大丈夫?」
「ルエラさんのブーツ、全然滑らないから平気だよ」


内側がムートンになっているブーツはぽかぽかと温かくて、ショートダウンと合わせるとちっとも寒くない。
貸してくれたルエラさんに感謝しなければ。


バッグを持っているのと反対の手をジーンとつなぎ、真っ白な雪を踏んで道を歩く。
点々とついている足跡の中に私達のものも仲間入りして、いらっしゃいと言われている気がした。
後ろを振り返ってそんなことを考えていたら、通りかかった人と二言三言交わしたジーンに声をかけられる。


「明日にはやみそうだって」
   え?」
「雪。綺麗に晴れるってさ」


聞き逃して思わず首を傾げると、嬉しそうにそう告げられた。


晴れれば遠くまで見渡せて、きっともっと素敵な景色が見える。
この村をもっと見てみたくて、つないだ手に思わず力をこめた。


「本当!?」
「もちろん!ここに住んでる人に聞いたから、間違いないよ」


帰る前に、色々見て回ろうね。


つながった手を軽く揺すって、ジーンが楽しみだねと笑った。
それに数回うなずいて、真っ白な雪をもう一歩踏みしめる。
B&Bはすぐそこだ。












小さなB&Bのスタッフさんは、とてもアットホームに出迎えてくれた。
お勧めスポットもあれこれと教えてくれて、お夕飯をどうしようかと話していたら、どこのお店がおいしいかまで教えてくれる。
B&Bのスタッフは親切な人が多いと聞いてはいたけれど、ここまでしてくれるのかと驚いてしまった。


「このB&Bは、すごく評判がいいんだよ。朝ご飯もおいしいって」
「楽しみだね」
「ね。どんなジャムが出てくるのかな」


え、そこ?
ジャム限定で楽しみなの?


突っ込んでいいものかどうか迷ったけれど、ジーンが本気で楽しみにしているようだったので、それ以上は何も言わずに笑っておいた。
日本人って素敵。


村の中はどこもかしこも蜂蜜色の建物ばかりで、雪とのコントラストが甘くてとても綺麗だ。
緑はすっかり枯れてしまっていたけれど、この雪化粧もとても素敵だった。


「夏に来れば、もっと絵本の中みたいなんだけど……ごめんね、
「ううん、こんなところがあったんだなんて知らなかったから、来れて嬉しい。ありがとう、ジーン」


すまなそうに顔を曇らせるジーンにかぶりを振って、足下の雪をひとすくい。

地元でもよく雪は降ったけれど、こちらの雪は少し違う気がする。
そのまま握ると、きんとした冷たさが手のひらに伝わってきた。
思わず顔を顰めると、苦笑したジーンにその手をとられる。


「冷たいでしょ、
「うん。でも、真っ白で綺麗だね」


地元の雪はいつもすぐに誰かに踏まれてしまって、黒く汚れてしまっていた。
こんなに白い雪を見たのは、本当に久しぶりだ。
にっこり笑ってジーンを見上げると、仕方がないというように目を細められた。


スタッフさんが教えてくれたお店で早めの食事をして、お勧めスポットを少しだけ巡る。
暗い中でも光が映える場所が多くて、つい何枚も写真を撮ってしまった。
明日も撮れるよとジーンに笑われたけれど、こういうぼんやりとした夜景も本当に綺麗。
他の人にはよく伝わらなくても、私が見た時に思い出せるから、こういう写真もほしいのだ。


「明日は明日で撮るから、今日はこれを撮りたいの」
「そっか。なら、ブレないように気をつけなきゃね」
「うん……難しいけど……」
「三脚持ってくればよかったね」


何度も失敗しながら撮った写真は、それでもブレてしまったけれど、オレンジ色のぼんやりとした明かりが写っただけで満足だった。


木の温もりが懐かしいベッドで寝て、朝日に反射する雪化粧の蜂蜜色の村を見て。
お土産を買おうと入った雑貨屋さんでは、可愛いカップルにと可愛らしい豚の置物をプレゼントされた。
何でも、豚は幸せの象徴なんだとか。

それは東南アジアの方の考えなんじゃないかと思ったりもしたけれど、小さい豚のつぶらな瞳にノックアウトされていたから、何も言わずに笑顔で受け取る。


「お揃いだね。の部屋にも置いてよ?」
「うん。ジーンも、なくしたりしないでね?」


いろんな本やら雑誌やらでかなりごちゃごちゃとしていたジーンの机の上を思い出しながら言い返すと、ジーンは一瞬言葉に詰まって恥ずかしそうに苦笑した。


「……頑張って片づけるよ」
「できるのかなあ」
「やるってば!」


意地になったように言い張るジーンが可愛くて、くすくすと笑ってしまう。


ちなみに豚は、ちゃんと机のスペースを死守して住みついた。
……いつまでいるかは、少し不安だけれど。