いつものようにマーティンさんと弟君を見送りながら、そういえば2人はどこまで行くんだろうと今更ながらに思った。

2人が働いているところ=ジーンが働いているところだから、気がついたら気になって仕方がない。
みんな私の前では仕事の話はしないから、もしかすると社外秘の何かをしているのかもしれない。
新商品開発の研究とか……いや、どう考えても弟君の柄じゃないか。


あの人は絶対に、自分の興味が満たせればそれでいいと考えている人だ。
利益を出さなければならない企業での開発職だなんて、そんな。


でもそうしたら、秘密にしたい研究とは何なのだろう。


?どうしたの?」
「……ねえ、ジーン達のお仕事、訊いてもいい?」
「僕達の?」


きょとりとした表情で訊き返されて、どうしてそんなことを訊くのかと言われることを覚悟する。
やっぱり訊かない方がよかっただろうか、でも気になるものは気になってしまう。
そんなことをぐるぐると考えていると、ジーンが満面の笑顔でうなずく。


「もちろん!にはつまらないかもしれないけど」


興味を持ってもらえて嬉しいとはしゃいだジーンは、おもむろに傍らに放置されていた本を手に取った。


「僕らが研究してるのは、これ」
「……The Behavior of Ghost……?」


他にも副題らしきものが書いてあったけれど、そちらは難しくてよくわからない。
霊の行動とは何ぞやと眉根を寄せた私に、ジーンがおかしそうにうなずいた。


「そう、それが僕らの研究テーマ」
「……幽霊が?」
「うん。必要があるなら除霊もしたりするけどね」


あっさりととんでもないことを言われた。
けれど、疲れるからあんまりやりたくないんだと肩をすくめるジーンを見ながら、どうしてあんなにコントロールがうまかったのかがわかった気がした。

そんなものを専門に研究していれば、力の使い方も詳しくなるだろう。
詳しかったから研究するようになったのか、研究していたから詳しくなったのか、それはわからないけれど。


「そうだ、も見に行く?」
   え?」


思考に割り込むように入ってきた言葉に、思わず間の抜けた声が出てしまった。

まさかそう言ってもらえるとは。
そもそも、別に秘密なわけではなかったのか……。

反射的にうなずき返しながら、何だか少し気が抜けてしまった。


「……行っていいの?」
「ラボには入れないかもしれないけどね。敷地内なら案内できるよ」


おそるおそる見上げると、何でもないことのように笑ってうなずいてくれる。
その場で携帯を取り出したジーンは、どこぞに電話をかけ始めた。


をそっちに連れて行ってもいいかな?できればラボにも入れたいんだけど……うん。そう、


何度か短いやり取りを交わして、さらりと電話を切ったジーンが、嬉しそうに振り向く。


「ラボまで入ってもいいって!ただし、僕らのチームのところだけになるけど……」
「それだけで充分だよ。ありがとう、ジーン」


幽霊の研究所。
どんなところか想像もつかないけれど、ジーンやマーティンさん達が働いているところならば、きっと怪しくなんてないだろう。
もしかして、あの背の高い男の人にも会えるだろうか。


「ねえ、ジーン」
「ん?」
「ラボって、その……リンさん、だったっけ?あの人もいるの?」


知らない人ばかりのところに行くのは、やっぱり少し心もとない。
弟君は絶対にフォローなんてしてくれないだろうし、となるとかろうじて顔見知りと言えそうなあの人だけが頼りだ。
いつもジーンにくっついているわけにもいかないだろうから、あの人がいるかどうか でずいぶん変わってくる。
祈るような気持ちでジーンに訊くと、首を傾げながらあっさりとうなずいてくれた。


「もちろん。僕達のチーム、アジア系の構成員だけだもん」
「……どこまでをアジア系と言うか、ちょっと迷うね」
「中東はもう対象外だね。ボスがまどかだから、日系も多いよ」


まどかさん……どこかで聞いた気がする。
いやいや、それよりも、イギリスのラボで日本人女性がキャプテンって、実はかなりすごいことじゃないだろうか。
きっとクールなキャリアウーマンに違いない。

和風美人を想像しながらわくわくしていると、ジーンにコートと手袋を渡された。


「じゃあ、行こうか。車はマーティンが持って行っちゃったから、タクシーを呼ぶよ」
「あ   うん。手袋もいる?」
「なくても多分平気だけど……外を歩く時にちょっと寒いかも」


結構歩くよと言うからには、研究所自体がかなりの広さなんだろう。
持って行かなくて後悔するのも困るから、ひとまず鞄にしまっておいた。


「ジーンはどんな研究をしてるの?」
「僕は研究っていうより、ナルのサポートの方が強いかもしれないなあ。それに被験者。後は、心霊現象が起きやすい状況の研究も少しやってるよ」
「……よくわからないけど、ちょっと変わってる……ね?」


心霊現象が起きやすい状況を調べてどうするんだろうか。
他のチーム員が研究しやすい場所を見つけるとか?


返事のしようがなくて首を傾げると、おかしそうに笑われた。


「SPRにいる時点で、みんな変わってるよ!」
「……それもそっか」
「みんな変わってて、面白い人ばっかりだよ。だからきっと、もすぐに好きになる」


心配いらないというように微笑んだジーンに頬をなでられて、やっぱり気づかれていたかと苦笑がもれる。
すらりとした綺麗な手に自分のそれを重ねて、わかったと小さくうなずいた。