ジーンと夢の中で会う時は、いつも決まってこの場所だ。
初めはこの変な場所が何なのかものすごく気になったけれど、今は慣れすぎてどうでもよくなっている。
「こうやって話すのも久しぶりだね」
「直接会って話してたもんね」
にっこにこでご機嫌なジーンに比べて、私はものすごく不機嫌だ。
今日こそぐっすり眠れると思ったのに……!
夢の中でも疲労はたまるんだということを、ジーンに会って初めて知った。
前はそれでも、もっと紳士的だったけれど。
「ねえ、何して遊ぼうか!」
「だからゆっくり休ませて!」
「駄目だよそんなの、つまらないじゃないか」
「寝てるだけのジーンとは違って、私は疲れてるの」
とりつく島もなく言ってみるけれど、やっぱりジーンに効いた様子はない。
きょとんと目を瞬かせて首を傾げると(その仕草がまたかっこいいというか可愛いというか)(男で素直に負けたと思うのはこの人ぐらいだろう)、また無邪気に笑った。
「大丈夫だよ、起きたらきっとすっきりしてるから」
何の根拠もなくそう言いきって、けれどそれは多分正しいんだろう。
精神的な疲労を除けば。
大きくため息をついて諦めて、そういえばと思い出す。
「ジーン、結人って言うんだね。普通にユートって言えばいいのに」
「言いにくいじゃないか、最後にトって発音するの」
「そう……?」
ユウトもアキトもマサトも、割と普通の名前だと思うけど。
「うん。僕今、イギリスに住んでるからね」
「へえ、イギ……リス!?」
え、じゃあもしかして、ジーンって帰国子女!?
いやいや、帰国子女は帰ってきた人に対していうものだから、この場合はええと 。
「留学中!?」
「うーん、ちょっと違うかも」
いまいち要領を得ないけれど、それよりも外国に住んでるって衝撃の方が大きかった。
「でも、そうか……確かにイギリス人なら、ジーンの方が言いやすいかもね」
「うん。でもやっぱり、日本もいいところだね。ご飯がおいしいし、みんないい人だし」
嬉しそうにジーンが笑うから、私もつられて笑う。
脚の間に包むように後ろから抱き込まれても、もう慣れすぎて気にならない。
ジーンがイギリス住まいだって知って、このスキンシップの激しさにも納得いった。
外人って感情表現派手だもんなあ……。
遠慮なくジーンにもたれると、妙に嬉しそうに頬をすり寄せてくる。
「ああ、やっぱり自由に動けるっていいなあ」
毎日寝てると退屈で退屈で。
ため息が首筋をなでてくすぐったい。
思わず身をよじると、それに気づいたジーンが笑った。
「ごめん、くすぐったかった?」
「ちょっとね」
振り向いて見たジーンの顔は、現実よりも少しふっくらして顔色もいい。
早く、起きてる時もこうなってくれたらいいのに。
「って一人っ子だったんだね」
「見えない?」
「妹がいそうに見えた」
「……よく言われる」
友達に言われ続けてきたことをそのまま繰り返され、思わず苦笑が漏れた。
しっかりしてるってことなんだろうけど、そうなった過程を考えると微妙な心境だ。
「……もしかして、あんまり嬉しくない?」
「実はね。やっぱり、好きでこうなったわけじゃないから」
あんまり言いたいことでもないから苦笑してごまかすと、ジーンはやっぱりそれ以上何も訊いてこなかった。
彼のそういう気の遣い方が好きだ。
「しっかりするのはいいことだけどね。あんまり人との関わりをめんどくさがっちゃ駄目だよ?ナルみたいになっちゃうから」
「……弟君、そんなにすごいの?」
前から思ってたけど、この兄弟はものすごく正反対だ。
活動的で外向的なジーンに、引きこもり体質で内向的な弟君。
そういえば、どうしてナルって言うんだろう?
まあそれはどうでもよかったから、本人に会うことがあったら訊いてみよう。
ものすごく嫌そうな顔されそうだけどね!
でも間違ってないと思う、この予想。
「まあ、ねえ……。ほら、僕達ってどう贔屓目を抜かしても、綺麗な顔をしてるじゃない」
「まあ、否定はしないけど」
むしろ、否定したくてもできないけど。
密かに歯ぎしりしたくなりながらうなずくと、ジーンは遠くを見る目をして苦笑した。
その向こうにいるのは、きっと弟君。
「ナルは自分の顔の価値を、正確に把握してるからね。多少世間からずれてるところはあるけど、たいていはその顔で解決するってわかってる」
まあ、それでも目に余りすぎるほど世間からはみ出してるけど!
けらけらと笑ったジーンは、不意に真面目な声になる。
「ここはいいところだね、」
突然そんなことを言われて、意味がつかめずに反応が一瞬遅れてしまった。
「 殺されそうになったのに?」
「それでも。正直言ってあの仕打ちはかなり頭にきたし、犯人が分かればESPでどうにかしたいと思うくらいには怒ってるけど」
なんて恐ろしいことを考えてるんだ、この人。
「それでも、おじさんもおばさんもいい人だし、今まで会ってきた日本人もみんな親切だった」
振り向くのに疲れてもたれかかると、ジーンの腕の力が強くなる。
「日本は狭くて無機質で集団心理の固まりみたいなところだけど、一人一人はとても温かいよ。 、君がここにいてくれて、僕の声に応えてくれて、ほんとうにありがとう」
死ぬのは、怖かった。
強すぎるほどの力が入ったジーンの腕が震えていることに、その時ようやく気づいた。
ああ、あんなに明るく振る舞っていても、のんきに笑ってみせても、怖かったんだね。
あんなに退院を急いだのも、きっと独りであの白い空間に閉じこめられるのが嫌だったんだね。
ジーンは霊媒だから、きっとあのベッドの上で死んでいく人にも何度もシンクロしたんだろう。
やるせなくなって回された腕に手を添えると、ジーンが泣きそうな吐息をもらす。
そっと振り向いた視界に映ったのは、やっぱり泣きそうに微笑む綺麗な顔だった。
「……ほんとうに、ありがとう」
肩がちょっぴり濡れたのは、見て見ぬ振りをしておこう。
どうせ起きたら、そんなもの影も形もないんだから。
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