新しいバイトにも慣れるにつれて、知り合いも多くなってきた。
調査の時に協力してくれる、霊能力者の皆さん(一人は違うけれど)だ。
「今日はねー、ぼーさんとジョンさんが来たんだよ」
「へえ、珍しい組み合わせだね。綾子さんとぼーさんならちょいちょいあるみたいだけど」
「うん。あの二人、付き合ってるのかな?」
「本人達に訊いたら、多分即行で否定されると思うよ」
「なんだ、つまんないの」
お夕飯を食べながらそんな会話をしていると、不意にジーンが黙って目を細めた。
優しいものを見るような目に、気恥ずかしくて身じろぎをしてしまう。
「な……何?ジーン」
「うん。、楽しそうだなあって」
「……そう?」
「うん。前のバイトの時よりも、ずっといきいきしてる」
そう言って嬉しそうに目を細めるジーンに、くすぐったくて首をすくめてしまった。
確かに、前のバイトの時よりも、ずっと充実している自覚はある。
仕事はちょっと大変だけれど、麻衣ちゃんはすごくいい子だし、ナル君もリンさんもいい人だ。
英語力もつくし、おいしいお茶も飲めるし、何より居心地がいい。
それを見事に見抜かれていた恥ずかしさと、そんなにわかってくれている嬉しさと。
顔が赤くなるのを感じながら、里芋を一つつまんで食べた。
「それで、ぼーさんとジョンはどんな用事だったの?」
ジーンもそれはわかっているらしく、くすくすと笑いながら話をそらしてくれる。
理不尽なんだか、ありがたいんだか。
「ぼーさんは麻衣ちゃんのご機嫌伺い。お茶飲むだけ飲んで、お話して帰っていったよ」
「ジョンは?」
「この間個人で受け持ったお仕事で、ちょっと気になることがあったみたい。ナル君宛のお手紙を書いてきて、やっぱりお茶して帰っていったよ」
ジョンさんはなかなか頻繁には来てくれないけれど、お話しているとほんわかできるいい人だ。
話し方にも特徴があって、とてもおもしろい。
のんびりとした、でもバリエーションに富んだお話を聞くのが、実は密かな楽しみだったりする。
ぼーさんはお坊さんだからぼーさんなんだって麻衣ちゃんから聞いたけれど、そうは信じられないほど都会的でスタイリッシュな格好をしている。
……お坊さんって、長髪だったり髪染めてたりしてもよかったっけ……?
むしろ丸刈りじゃなきゃいけないんじゃなかったかしら。
この間テレビに出ていた尼さんも丸刈りで、ものすごくショックを受けた記憶があるし。
「ねえ、ジーン」
「ん?」
「お坊さんって、丸刈りじゃなくてもいいんだっけ」
思わず訊いてしまったけれど、考えてみればイギリス人のジーンがそんなことに詳しいわけもない。
やっぱりいい、と口にするよりも早く、ジーンがああ、とうなずいた。
「ぼーさんのこと?あの人は、正確にはお坊さんじゃないんだってよ。確か、ミュージシャンじゃなかったかな?」
「ミュージシャン?バンドでもやってるのかな」
「らしいよ。ナルから聞いただけだから、僕もよくわからないけど」
なるほど、バンドをしているならあの姿にも納得だ。
お坊さん(もどき)で、ミュージシャンで、霊能力者。
うーん、ぼーさんもなかなか忙しい人だ。
その割には、よくSPRに顔を出しているけれど。
「ぼーさんって、知れば知るほど謎の人……」
「あはは、それはリンも一緒じゃない?僕もどこであれを身につけたのか、教えてもらったことはないし」
「……そういえば、リンさんも霊能力者なんだっけ」
確か、式とかいうものを扱うとか聞いたことがある。
バイト先の関係もあるけれど、私の周りときたら、一気にすごい人ばかりになったものだ。
内心感嘆の息をもらしていると、ジーンが呆れたように苦笑した。
「どうでもいいけど。世間一般からいったら、も霊能力者の一種だって、忘れないでね」
「わ……忘れてないよ、大丈夫」
でも、私はただ、俗にいう霊媒の端くれみたいなものであるだけで。
それなら、テレビにも出るほど有名な真砂子ちゃんがいるから、別に出る幕はないのだ。
正直言って、憑かれないようにするだけで、私にはいっぱいいっぱいだ。
自分から憑かせて、その上自由に会話させるようにするなんて、そんな!
ジーンもそういうことは簡単にできてしまうし、本当にレベルが違いすぎる。
そう考えると、ジーンって本当にすごいんだなあ。
そんな事を考えていたら、知らず知らずのうちに凝視してしまっていたらしい。
くすぐったそうに笑ったジーンが、小首を傾げた。
まっすぐな黒髪が、その動きに合わせてさらりと揺れる。
「?どうしたの」
「んー……ジーンって、すごいんだなって思って」
本音だったから何のてらいもなく答えたのに、そうしたらジーンの頬が少しだけ赤くなった。
右手が伸びてきて、私の前髪をさらさらとくすぐる。
「……。お願いだから、そういう表情でそういう事は、気軽に他の人に言わないでね」
「……そういう表情?」
何のことやらさっぱりだ。
首を傾げてみると、ジーンの顔が更に赤くなった。
「……ああもう、ったら本当に無自覚に可愛いんだから!」
「 ええええ!?」
半分やけっぱちのように言ったジーンに頬をなでられて、一気に顔の熱が上がる。
そんな私の額に軽くキスをしながら、ジーンがむくれたような顔になった。
「だから、誰彼構わず、そんな顔しないでね」
「……しないもん。 ジーンぐらいにしか、こんなこと言わないもの」
こんなにも素直になれるのは、ジーンの前でだけ。
少しだけ心外で拗ねると、苦笑したジーンに軽くキスをされた。
結局どうして注意されたのかは教えてもらえなかったけれど……何だったんだろう?
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