久し振りの学校は、やっぱり何だか変な感じ。
まあ、夏休みの大半がジーンのおかげでものすごく濃いものだったせいかもしれないけれど。
エアコンなんてない教室は9月でもまだむしむしと暑くて、入った瞬間思わず顔をしかめた。
「、久し振りだね」
「あらまあ花音さん、久し振りだね」
机にべたっと伏してだれていた花音が、教室の奥からひらひらと手を振る。
「夏休み、全然遊べなかったじゃん。どっか行ってたの?」
「ううん、怪我人の看病してた」
誘っても断ってばっかでと口を尖らせた花音を片手で拝みながらそう答えると、逆にびっくりされてしまった。
「おじさんかおばさん、病気になったの?」
「や、うるさいくらいに元気だよ」
今朝もお父さんがジーンにあれこれ話しかけてた。
大丈夫だと手を振ったら、花音も安心したみたいに顔を緩ませた。
「ね、夏休み中に何か面白い話はなかった?」
「面白い……?」
これはやっぱりあれだよね、恋の話だよね。
ジーンの介護でそれどころじゃなかったってば。
「夏休みほぼ丸々、リハビリにつきあってたからねえ」
ある意味どきどきする出会いならあったけれど。
「そういう花音はどうだったの?」
「ないない!やっぱ、こんな田舎でいい男を探そうって方が無理だったかも」
「や、そりゃ、テレビの中の美少年みたいな人はいないでしょうよ」
今なら約1名、我が家に居候してるけど。
こっそりそう思いながら花音に突っ込んで、席替えはどこの席になるんだろうとぼんやり考えた。
できれば窓側がいい、暇つぶしに外を見ていられるから。
これからしばらくは直射日光が暑いだろうけど、秋口になれば逆に涼しくて気持ちいいだろう。
「帰り、アイス食べてかない?」
「いいね、まだ暑すぎだし ごめん、やっぱ駄目だわ」
寄り道して帰ったら、ジーンがすねる。
賭けてもいい、今夜は夢の中で一晩中ぐちぐち文句を言われるだろう。
ああ、でも、アイス食べたい……!
「ふうん……?ま、用事があるならしょうがないよね。また今度行こうよ」
「うん……行けたら絶対食べに行く……!」
涙を流さんばかりに答えると、花音はちょっと引きながらも残念そうにうなずいてくれた。
アイスか……そういえば、ジーンの身体に障るかもしれないからって、あんまり冷たいものは食べなかったなあ。
怪我もずいぶんよくなってきたし、帰りにコンビニで買って帰ってみようかな。
私は断然、チョコとクランチがまぶしてある棒アイス。
ジーンは何がいいだろう?
まだカップアイスはやめた方がいいかもしれない、無理に力を入れてほしくない。
となると、やっぱり棒アイス。
どうしよう、何にしよう。
考えるだけでちょっと顔がにやけてきた。
HRが終わるのをじりじり待って、終わると同時に教室を飛び出す。
ジーンがちゃんとおとなしくしててくれてるか、ものすごく心配だった。
コンビニで適当にアイスを見繕って、自転車をめいっぱい飛ばして。
「ただいまっ、ジーンは!?」
「あ、。お帰りー」
……一気に気が抜けた。
リビングの椅子に座って、のんびりとテレビを見ているジーン。
もっとあちこち勝手に動き回ってると思ったのに……!
「あ、何か持ってる!何買ってきたの?」
apの袋を目ざとく見つけたジーンが、うきうきした表情で席を立った。
さりげなく奪おうとする手からかばいながら、まだ駄目と綺麗な顔を睨む。
「アイス。ちゃんと2人分買ってきたから、しっかり冷やしてから食べよう?」
「Sure!」
すごく綺麗な発音でジーンがうなずいて、今更ながら彼が留学中だということを思い出した。
「ジーンって何年くらいイギリスにいたの?」
「うーん……ずいぶん長くいるからなあ。こっちには知り合いはいないよ、とりあえず」
「そんなに!?じゃあ、本当に生まれてすぐにあっちに行っちゃったんだね」
「そうなるのかな」
ちょっと要領を得ない言い方。
だけど、あんまり深く追及するようなことはしない。
ジーンが訊かれたくないって思っていることまで、土足で踏み込みたくないから。
「の発音も、日本にずっといるにしては充分綺麗だよ」
「本場仕込みの人に言われてもなあ……なぐさめられてるようにしか思えないよ」
ジーンは笑って言ってくれるけれど……あの発音を聞いた後では、英語を喋るのが恥ずかしい。
アイスが冷えるまでジーンととりとめのないおしゃべりをして(やっぱりGメンは太一が1人でいいとこどりをしてるとか、Mステで聞いた洋曲の新曲が意外によかったとか)、ついでに英語の発音の練習もしてもらった。
そうしながら、ジーンが何の違和感もなく生活の中に溶けこんでいることに、今更ながら驚く。
「、そういう時はrはあんまり舌を巻きすぎない方がいいよ」
「え、どれくらいまでなら許容範囲?」
「ええと……口で説明するのは難しいなあ」
何度か発音してもらって、私も一緒に発音してみて、ようやくジーンのOKがもらえた。
「やっぱり、英語って難しい……」
「どうしても、母国語以外は難しく感じるよね。日本語も他の国から見たら、ものすごく複雑で難しいよ」
笑ってさらりとそう言われ、そういえばジーンは英語が母国語みたいなものかと思い出す。
「ジーンも日本語覚えるの、苦労した?」
「そりゃあもう!まどかがいなかったら無理だったかな」
優しそうな顔して意外とスパルタなんだもん。
「まどか って、日本人だよね?」
「うん。ナルの師匠みたいなものなんだ」
「師匠!?」
一体何をしてる人なの、弟君って!
びっくりしすぎて思わず大きな声が出たけれど、ジーンは軽く笑うだけでそれ以上教えてはくれなかった。
きっとそれは、それ以上訊かないでという意思表示。
だから私も、それ以上は訊かずに笑い返す。
「のアイスおいしそう。いいなあ……ちょっとちょうだい!」
「ジーンのもちょっとくれるならいいよ」
「もちろん!」
結局2人で半分こしたアイスはちょっと溶け気味になっちゃって。
それでも、一緒に食べたアイスはおいしかった。
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