「ただいまー」
「お帰り、


くつろぎながら返事をするジーンを見るのにも、そろそろ慣れてきた。


「何もなかった?」
「大丈夫だよ。あ、宅急便がきてた。生物みたいだったから洗面所に運んどいたよ」
「ありがと」


手を洗いに洗面所に行くと、田舎から(ここも充分田舎だけど)メロンがきてた。
食べ頃が楽しみだ。


「ジーン、散歩行こう」
「うん!」


最近は体力がだいぶ戻ってきたから、ご近所をこっそり散歩したりもしている。
学校のみんなにみつかったら大騒ぎになることは目に見えてるから(しつこいようだけどジーンは絶世の美少年だ)、あくまでこっそり。




「ジーン、あんまり日なたを歩かないで」
「えー、別にいいじゃない」
「いつも言ってるじゃない、あんまり日に当たりすぎるのもよくないって」




日なたばっかり歩こうとするジーンを怒りながら、ようやく傾きかけた太陽を仰ぐ。
帰る頃には薄暗くなってるだろうなあ、涼しくて助かるけど。

この町は高地にあるから夏も比較的涼しいけど、東京とかはものすごく暑いんだって聞いたことがある。
これ以上暑いなんて、東京の人はよく頑張れるなあ……。


じわりとにじんだ汗を拭って、満面の笑顔で歩いているジーンを見上げた。
緑のカッターシャツに少し汗がにじんでるけど、それすら嬉しいというようにしているジーン。


「暑くない?」
「暑いけど大丈夫!と外を歩ける方が嬉しいしね」
「こらこら、これは恋人繋ぎでしょ」


絡んできた指に突っ込みながら離そうとすると、ジーンは不満そうに口をとがらせた。


「駄目?」
「夢の中では別にいいけど、外じゃ駄目。学校の人に見られたら、それこそ大騒ぎになっちゃう」
「けち……」
「可愛い顔してみても駄目!」


きっぱりと言い切ると、渋々手を離そうとしたジーンが不意ににっこりと笑う。




「これならいいよね!」




至極ご機嫌でそう言ったジーンの手は、しっかりと私のそれを握っている。
ただし、恋人繋ぎじゃなくて親子みたいな繋ぎ方。


「ジーン」
「いいじゃない、たまには。は恥ずかしがり屋さんなんだからあ」


らあ、じゃない!


拗ねたような表情はさすがに美形で可愛いけど、そんなもので許してあげられるほど浅い付き合いじゃない。

頑張って離そうとしてみても、意外に強い力で抵抗されて成功しない。
仕方がないので諦めて、いつも以上に人気の少ない林の中を歩くことにした。


「静かだね」
「たまには森林浴もいいでしょ?お日様もちょうどいい具合だし」
「そうだね」


ここならいいかと恋人繋ぎに直すと、途端にジーンの表情がぱっと輝く。




!」
「今だけね」




頬が赤くなるのが自分でもわかる。
目をそらしながら念を押すと、力一杯タックルされた。
そのままぎゅうぎゅうと抱きしめられる。


ちょ、苦しい……!!


「ありがとう!」
「わかったから、早く離して……」


このままだと意識が軽く飛びそう。


口から魂が出ていきそうな状態で必死に言うと、ジーンも慌てて手を離してくれた。
ようやく正常に息をできるようになった身体が、大喜びで酸素を吸収する。


「ご、ごめんね、大丈夫だった?」
「いいよ、悪気がなかったのはわかってるから」


ジーンに悪気があったら、それこそ青天の霹靂だ。
滅多なことでは人を嫌わない人だもの。

気を取り直してゆっくりと散歩をすると、アスファルトの道よりもずっと涼しくて歩きやすいし、空気も気持ちよかった。
ジーンも同じだったみたいで、気持ちよさそうに目を細めながら隣りを歩いている。


「これからはここをお散歩コースにしよっか」
「そうだね」


こういうちょっとしたことで気持ちがつながると、とても嬉しい。




「そういえば   最近は力が暴走したりしない?」




不意に思い出したんだろう、ジーンが心配そうに顔を覗きこんできた。
夢の中ではいつもしていたやりとりだったけれど、最近はばたばたしててお互いその話題を忘れていた。

ということはつまり、私の方も忘れるくらい何もなかったわけで。


「大丈夫だよ、忘れちゃうくらいだったから」


笑いながら答えると、ほっとしたようにうなずかれた。


「心配性だね、ジーンは」
のことだもん、心配にもなるよ」


「……ジーン、そういうことは女の子を口説く時につかうものだよ」


さらりととんでもないことを言うジーンに、頭を抱えたくなりながら忠告する。
こういう人だからみんなに愛されてるんだろうけど、日本人はシャイだから今のでノックアウトされてしまうだろう。


……ジーンの行く先がちょっぴり不安になった。


「お願いだからジーン、日本では他の女の子に私に対するみたいなことをしないでね」
「やきもち?」


親切心からそう言うと、妙に嬉しそうにそう訊かれる。

違うって。


「違う違う。ジーンはずっとイギリスにいたから感覚が麻痺してるのかもしれないけど、日本人は欧米の人みたいにオープンじゃないんだからね。私はもう慣れたからいいけど、それでも最初の頃は抵抗したりしたでしょ?」


一番最初に抱きしめられた時には、恥ずかしすぎて力の限り抵抗しましたとも。


それを思い出したのか、ジーンもおとなしくうなずく。
うなずいて、つまらなさそうな顔をした。


「なぁんだ、せっかくが妬いてくれたと思ったのになあ」
「馬鹿言うんじゃないの。将来困るのはジーンなんだからね?」


たしなめようとつないでいる手を軽く握ると、ジーンも何故か握り返してくる。


「僕は別に、困らないけどなあ」
「こら、そんなこと言っちゃ駄目でしょ」


のんびりと呟いたジーンの肩を小突いて、本当に行く先が心配だとため息をついた。