「やあ!誰かと思ったらじゃないか」
「……ハイ、ジェームズ」

せっかく変装したのに……。








この間のきゅんきゅん事件以来力の限りに避けてたのに、どうしてよりによってこんな逃げられない状況で出くわしちゃうんだろ。


「この間はうちの馬鹿犬が酷い事を言ったみたいだね」


ごめんねと謝られて、思わずリディと顔を見合わせる。


何でジェームズが謝るんだ?
もしかして、シリウスってものすごくお子様?


「シリウスは確かに頭はいいけど、ほら、ちょっと馬鹿だからね。別に許さなくてもいいけど、泣きたくなったらいつでも僕のところにおいで!」
「結構です遠慮します」


きらん、と効果音がつきそうな感じで両手を広げたジェームズにコンマ3秒で即答して、そそくさとリディを盾にする。
リディも全身で威嚇してくれるけど、あいにくとジェームズに効いた様子はなかった。


「リディ、どうしよう……」
「早めに出ましょ、こうなったらジェームズは振り払えないから」


こっそりささやいてみると、リディは答えるが早いかバタービールをぐいっと一気飲みした。


「さ、行きましょ」
「あ、うん」


慌てて少し残っていたバタービールを飲み干して、リディに続いて席を立つ。


「じゃあね、ジェームズ」
「え、もう行っちゃうのかい?」
「どっかの馬鹿犬が来る前にね」


残念そうなジェームズにきっぱりと言い切って(リディ漢らしい!)、リディはずんずんと出て行ってしまった。


「あ……ジョッキ   
「僕が片付けておくさ。早くしないとリディアに置いていかれるよ?」


どうしようと一瞬迷っていたら、ジェームズが気前よく引き受けてくれた。


「ありがとう」
「どういたしまして、レディ!今日は見違えるほど可愛いね、よく見ないとわからなかったよ」


ぱちり、とウインク。
認めたくないけどきまってる、さすが外見だけは美形だ。


「着飾らないと見違えられないなんて、所詮普通だって事だよ」
「いくら着飾っても見違えられない人もいるものだよ、。大丈夫、君は魅力的さ!シリウスなんか、多分君には気づかないと思うよ」


満面の笑顔で言い切られて、ちょっと気勢がそがれてしまった。


……やっぱり、ジェームズの周りに人が集まるの、わかる気がするなあ。
人を喜ばせるコツを無意識に知ってる人だ、この人。


「どうもありがとう……?」
「どういたしまして」


朗らかに手を振ったジェームズに背を向けて、多分外で苛々しながら待ってるリディのところに急ぐ。


遅い!つかまったの?」
「ううん、ジョッキを片付けてくれるって言ったから、お礼を言ってたの」
「そんな些細な気遣いが、に近づこうっていう作戦かもしれないでしょ!?」
「いや、さすがにそれはないから」


最近リディ、ちょっと怖いぞ。


「まあ、またバッタリ出くわす前に行こうよ」
「……それもそうね」


ジェームズがいたっていうことは、そう遠くないうちに悪戯仕掛け人のメンバーも集まってくるんだろう。
シリウスと会うのだけは絶対に嫌だ。


いかにもあの人達がいそうな悪戯専門店とかを避けて通りながら、ふと気づいたことを訊いてみる。


「ねえ、何でシリウスが犬なの?」
「決まってるじゃない、あいつがヘタレだからよ」




……ヘタレ?




「ヘタレって何?」


新しい性格特性だろうか、それとも家柄に関係あることだろうか。
ブラック家はかなりの名門だから、もしかしたらそうなのかもしれない。


真面目に考えこんでいたら、何故かリディに小さい子を見るような顔で頭をなでられた……!(子供扱いするな!)


「いいのよ、わざわざ知る必要はないわ」
「え、ちょっと、何この微笑ましいみたいな扱い」
「いいからいいから。ずっとそのままでいてね。ついでに今度、シリウスに超笑顔で『ヘタレ』って言ってあげなさい、最高の褒め言葉になるから」


リディのその笑顔が恐ろしいよ。


とは言えなかったから、とりあえず素直にうなずいておいた。




……今度ふくろう便でお母さんに訊いてみよう、そうしよう。