私の腕を、ガッツリ掴んだ手があった。

「おいお前、顔色悪ぃぞ。医務室行くか?」
「いえ、寮に戻れば平気ですから……」



何でこのタイミングでこの人に会うかな。








理知的な灰色の瞳が、まっすぐに私を見てる。
こんな状況じゃなきゃ、顔の1つでも赤らめているところだ。


   シリウス・ブラック。


まさかあなた方の仕掛けた悪戯で体調不良になりましたと言うわけにもいかず、微妙な笑いでごまかしてその場を切り抜けようとした。

が。

「マジで平気か?ついてってやるよ」


け っ こ う で す !


小さな親切、巨大なお世話。
お母さん、こんなに役に立つ言葉を教えてくれてありがとう……!

「だいじょうぶです。しつれいします」

棒読みになりながらお辞儀をしても、シリウスは手を離してくれない。


「遠慮すんなって。ほれ」
「ぅわっ!?」


ぐいっと引っ張られて、どさりとシリウスにぶつかって。
あれよあれよという間に、シリウスにおんぶされてました。

「おおお降ろして!」
「んな顔色してるくせに何言ってんだよ」
「いいって!そんな気の遣い方いらないって!!」

ばっしばっしと背中を叩いても、シリウスはびくともしない。
結局そのまま談話室まで連れて行かれた……(途中で誰にも会わなかったのが奇跡みたいだ)



「ほら、着いたぞ。気をつけて帰れよ」



軽く髪をかき回されて、優しく微笑まれて。
普通ならここで顔でも赤らめてシリウスを見上げるんだろうけど、なんだかものすごい違和感を感じた。




「……あの。私、何年生に見えますか?」
「ん?3年ぐらいだろ?」





コ ノ ヤ ロ ウ !!





「同い年だ馬鹿野郎!」

私の腕が光速でひらめいた。
見事な拳がシリウスの鳩尾にねじり込まれる!

「ぐはぁっ!」

お腹を押さえて悶絶するシリウス。
無礼な男がいたらこうしてやれって父さんが言ってたけど、実際どのくらい効いてるものやら……。

「おっま……ちょ……!」
「効いた?ねえ、効いた?」
「効いたに決まってるだろ馬鹿!」

おお、女の力でもちゃんと効くらしい。

今度はもう少し回転を入れた方が……とか考えていたら、シリウスに頭をはたかれた。


「いきなり何すんだよ!」
「どうせ童顔だ馬鹿野郎!気にしてんだから少しは気を遣え……!」


こちらもがうと噛みついて、無言の睨み合い。


「可愛くねえ奴だな」
「可愛くなくて結構。ちんくしゃだってことは自分が一番よくわかってます」


苦々しそうに言うシリウスにそっぽを向いて、そっと呼吸を確かめる。

「具合も良くなりましたから、あなたはどうぞ大広間に戻ってください。まだ悪戯の最中でしょう?」

獣臭さはもうすっかりなくて、代わりに談話室のなじんだ空気がちょっと嬉しい。
ほうと息をついたところで、シリウスの苛ついたような声が横顔に突き刺さった。



   っ、可愛くねぇ!!」


だから、別に可愛くなくていいんだってば。