無意識の呟きに反応して振り返ったを見て、セフィロスは自分の失態に気がついた。
18にもなってこんなことを口走るなど、単なるマザコンではないか。
嘲笑されることを覚悟して固く目をつむると、案の定けらけらと明るい笑い声がした。
やはり。
微かな屈辱と、ほんの僅かな失望感。
小さく唇を噛みしめた。
「やぁだ、私ってばこんな大きな子供作った覚えはないよ!」
しかし、言われたのは予想していた内容とは全く違う言葉。
驚いて反応できないでいると、不意に笑い声が途切れた。
「でも、まあ」
穏やかな声と共に手が伸ばされ、思わずぴくりと反応してしまう。
それにも構わずにさらに伸ばされたそれは、セフィロスの頬にそっと触れた。
「セフィロスみたいな子供なら、ほしいかな?」
「 え?」
思いがけない言葉に思わずもれたその言葉を、きっと彼自身気づいていなかっただろう。
そんなセフィロスに、は柔らかく目を細める。
「だってセフィロス、いい子だし。聞き分けいいし綺麗だし強いし頭いいし。私が母親だったら、こんな息子自慢しちゃうよ?」
誰もがあたりまえに受けてきた、母親の愛。
それを知らずに育った、孤独な英雄。
なんて皮肉な構図だろう。
与えられてしかるべきものを一切与えられずに、どんなに努力しても「英雄」だからと当然のごとく受け止められてきたセフィロス。
そして、誰もが憧れる“英雄”になったセフィロス。
「ね、セフィロス。私の息子にならない?」
悪戯っぽく笑いかけると、セフィロスが目を瞬かせた。
「クラウドもザックスも、手のかかる子供みたいなものだもん。もう1人増えたって、痛くもかゆくもないよ」
この手であなたが安心するなら、いくらでも差し伸べてあげる。
「それに私、家族が欲しかったんだ」
この言葉が、私や彼らの存在が、あなたを繋ぎ止めるものになれば。
君を守りたいと、私はそう願ってきたから。
「ね、ならない?」
重ねて問えば、魔晄色の双眸が微かに歪んだ。
ためらうように、おびえるように、そっと伸ばされた色白の手。
その手が、の頬にそっと触れる。
嫌がる素振りもなく微笑むに、セフィロスがかすれた声で呟いた。
「か、あ……さん」
「なあに、セフィロス」
甘やかすかのように、甘い声が返ってくる。
呼べば応えてくれる、その幸せ。
たったそれだけのことを彼がどれだけ渇望していたか、誰も知らないだろう。
突き上げる衝動そのままに、細い腕を引いて抱きしめた。
相手のことなど考えず、ただ力の限りにするその抱擁は少し苦しかったが、は何も言わずにセフィロスの背に腕を回す。
「同年代の母親だけど、これからよろしくね?」
そっとささやかれた言葉に、セフィロスがこくりとうなずいた。
小さな子供のような仕草に目を細め、は優しく彼の背を叩く。
「オムライス冷めちゃうから、早く手を洗って戻ろ?」
「……ああ」
微笑んだセフィロスを促してリビングに戻ると、クラウドがザックスにヘッドロックをかけられていた。
「……あんたら、何やってんの?」
ちょっぴり本気で死にそうなクラウドと、ソルジャーのくせにそれにも気づかずにふざけている(つもりの)ザックスを見て、もセフィロスも呆れた目になる。
「ザックス。手を離せ、そのままではクラウドが死ぬぞ」
「へ? ぅおっと!!」
セフィロスに言われて初めてクラウドの顔色に気づいたらしい。
実に楽しそうだったザックスが慌てて手を離した。
途端にげほげほと咳きこむクラウドを見て、さすがにやりすぎたかと眉を下げる。
「ちょっとザックス、うちのクラウドに何すんのよ!あんたソルジャーなんだから、力加減くらいしなさいよ」
「悪い悪い!つい悪ノリしすぎちまった」
「ついじゃないでしょう!クラウドはまだ普通の子なんです、普通の!あんたなんかとは違うんだから!!」
ぎゃんぎゃんと騒ぐとザックスの声をBGMに、クラウドは必死に呼吸を整えた。
「サー……ありがとう、ございます」
まさに救世主に等しいセフィロスに向かって、くらくらする頭を律義にぺこりとさげる。
そんな彼に対して少し考えたあと、セフィロスはその頭に手を置いた。
ぽむ。
わしゃわしゃわしゃ。
「え あの、サー?」
戸惑うクラウドと無言のセフィロスを見て、がくすくすと笑う。
「そうよ、セフィロス。ありがとう」
柔らかく言ってその腕に触れたは、自分よりも背の高い息子(仮)に微笑みかけた。
それを受けたセフィロスも、ほんの僅かに口元をゆるめる。
そしてここから、彼と彼女の関係が始まる。
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