、これも頼む」
「はいはい」


今日も今日とて、大量の書類と睨めっこ。


軍隊だからと侮ることなかれ。
規模が大きくなればなるほどデスクワークの量も増えるのは、軍隊も一般企業も同じことだ。

ただ一つ、圧倒的に違うのは、頭脳派の数。

やはりというかなんと言うか、軍事力重視のここでは体力派がメジャーだ。
いくらソルジャーといえど、大量の書類を能率よくさばくスキルの持ち主はほとんどいない。
が来る前はセフィロスとザックスだけでほぼ全てを処理していたというのだから、さらに大変だっただろう。


ザックスはよく逃げる。
そりゃあもう、いっそ感服するほどによく逃げる。
そこまでデスクワークが嫌いかと言いたくなるほどだ。


コンピューターも真っ青なスピードで書類を片付けながら、その頃のセフィロスの苦労を思ってはそっと不憫な目を向けた。


……そういえば最近、心なしか彼の顔色が悪い気がする。


「セフィロス、ちゃんと睡眠とってる?」
「…………とっているが、それがどうした?」


   寝てないんだね。」


長すぎる沈黙が怪しすぎた。


無言でこっそり冷や汗を流すセフィロスににっこり微笑み、は静かに席を立つ。
そして。




ちゃんと寝ろって言ったでしょ!?ソルジャーは身体が資本なんだから、徹夜なんてするんじゃないの!」
「……っ!!」




容赦なく英雄の耳を引っ張る
無言で悶えるセフィロス。


今この場に一般のソルジャー以下が入ってきたら、夢で半月はうなされること請け合いだ。


「私にかける負担を少なくしてくれようとするのは嬉しいよ?でもね、私のキャパはもっと大きいの。セフィロスの分、もっと回してよ」


たっぷり1分は引っ張り続けた後に手を離すと、微妙に赤くなった耳をセフィロスが抑えた。
やはり痛かったらしい。

そんな彼の頭をぽんぽんとなでて、はさりげなく机の上の書類を奪う。


「あ   
「さ、頑張ろうか」


有無を言わせない笑顔でそう言われ、セフィロスは伸ばしかけた手をぴたりと止めてしまった。


……逆らえないと思ってしまったのは何故だろう。


内心大丈夫なのかと心配しながら書類を回していくが、自分で言うだけあっては仕事が早く、正確だ。
いつもよりずっと早く仕事が片付き、セフィロスは密かに驚嘆する。


「早いな」
「まあ、しごかれましたから」


少し自慢気に答えたの脳裏には、軍師師弟の顔が走馬灯のように駆け巡っていた。


師匠の方は仏のようだったけど、弟子は鬼だった……。

師匠も何気に厳しかったけど!
弟子の方が悪人顔(失礼)なんだもん!


本人が聞いたら間違いなく絶対零度の声を出しそうなことをしみじみと思い出して、思わずほろりとしてしまいそうになる。
が、セフィロスが不思議そうに見ているのに気づき、は(嬉しくない)思い出を慌ててひっこめた。


「何でもないよ、大丈夫」


安心させるように微笑んで、席を立ってコーヒーメーカーに歩み寄る。
マグにポットから注ぎながら、首だけをセフィロスに向けた。


「ミルク入り?」
「ああ」


ストレートで飲んでいそうなイメージがあったが、実はミルク多めのコーヒーが好き。


こんなちょっとした発見も、実際にセフィロスと出会えたからだ。
遠くから「英雄」を見ているだけでは、きっといつまでもこんなに近しくはなれなかっただろう。

そう考えると、山のような仕事もまんざら悪くない。


専用のマグをセフィロスの前に置いて、自分も自前のマグに口をつけながらゆったりと椅子に腰かける。


「この後はクラウドを見るのか?」
「まあね。一応あの子の師匠だし、早くソルジャーになってほしいから」


こちらはストレートをのんびりと飲みながら、が柔らかく目を細めた。


ジェノバ細胞の影響とはいえ、元々思い込みだけであそこまで強くなれる素質の持ち主だ。
みっちりやれば、それだけ早く才能が花開くだろう。


「最近、ようやく型が直ってきたよ。むきになると、やっぱりまだ我流の方が出てきちゃうけど……」
「そうか。   俺も、時間がある時には見ておこう」
「うん、よろしくね」


以前の彼ならば絶対に言わなかったであろうその言葉を、は本当に嬉しそうに受け止める。
可能ならば、今すぐにも声を大にして叫びたいくらいだ。


ちょっと聞いてよ、うちのセフィロスったらこんなにいい子なのよ!?
こんないい子、他のどこにいるっていうの!?



親馬鹿と言うがいい。
この情緒発達が幼稚園以前で止まっているのではないかというほどのセフィロスが、自然に他人を気にかけるような言葉を言ったのだから!


気分はすっかり我が子を見守る母親で、は必死にゆるむ頬を自然な状態に保とうとする。


「セフィロスが見てくれるなら、今までよりもずっと早く上達しそうだね」
「そうか?」
「そうだよ」


首を傾げたセフィロスにうなずいたは、ことりとマグを置いてくるくる指を回す。


「だって、クラウドは私と同じ戦闘タイプだもん。スピード系技術型」


小柄な彼は、どうしてもスピードに重点を置くしかない。
まだまだ力技では競り負けてしまうのが実情だ。
それを本人が悔しがっているのは知っているが、パワー系の戦い方を教えるのは、もっと身体ができあがってからでもいいだろうと考えている。


「そのうち、ザックスみたいなパワータイプとも組ませてみようとは思ってるけど。セフィロスは技術重視のバランス型な上に、長刀でしょ?いい経験になるよ」


そう言ったの顔は、本当に嬉しそうにほころんでいた。