自身もまた、様々なタイプの相手と戦いながら成長してきた。
それは必ずしも訓練ではなかったけれど、実践で苦しい思いもしたけれど。


だからこそ、クラウドにも色々な体験をしてほしいのだ。


自分の経験だけでは通用しないようなタイプの敵に出会ったら、一体どうすればいいのか。
それは頭で理解するものではなく、身体で覚えるべきものだった。

少しでもあの子が、私と同じような苦しい思いをしなくて済むように。


そんなを見ながら、セフィロスは金髪のチョコボ頭を思い浮かべてみた。


まだまだ幼さの抜けない、気の強そうな色白の少年。
そういえば少し、女顔かもしれない。


「……将来が楽しみだな」


どんな面差しになるのか。


そういうつもりで呟いた言葉を、は違う意味でとったようだった。


「ね!どんな手練れになってくれるか、今から楽しみだよね」


ほくほくと答えたは、(見るものが見れば)柔らかく微笑んでいる(とわかる)セフィロスを見て、急に不安になった。


自分がいなくなったら、この大きな子供は一体どうなってしまうのだろう。
いつ消えるかわからない、そんな基本的なことさえ忘れていた自分が愚かしい。


出会って約半年、ようやくここまでこぎつけた。
やっとセフィロスが、外界に接触できるようになったのに。




   ああ、ラピス。どうかその持てる力で、できる限り阻んでちょうだい。
   それを君が望むなら、




そっと、けれど強く強く語りかけた言葉に、親愛なる半身は優しくうなずいてくれた。


わがままを言える立場ではないとわかっている。
あまねく存在に情愛を注がねばならないこともわかっている。

けれど、だからといって、それが目の前の幼子を見捨てていい理由にはならないはずだ。


どうすれば、傷が浅くなるだろう。
どう転んでも傷つけてしまうのはわかりきっているから、少しでも浅くて済む方法を必死に考える。


出会わなければよかったなんて、そんな陳腐な昼ドラのようなセリフは絶対に吐かせない。
ザックスに全てを押しつけるのも、荷が勝ちすぎる。


それならば   いっそ、あらかじめ告げておいた方がいいのだろうか?




   セフィロス」




紡いだ言葉は、思っていた以上に硬くなった。


「どうした?」


振り向いたセフィロスの視線の先で、は両手でマグを握り締めたままうつむいている。
何かがおかしいと思いながら声をかけても、は何もしゃべらない。





もう一度呼びかけると、彼女はようやく決心したかのように潔く顔を上げた。


「セフィロスだけには言っておく」


いつもよりもずっと硬い声、硬い表情。
何かを言おうと口を開いては、その度に失敗したかのようにそれを閉じる。


   何かがおかしい。


知らず眉根を寄せるセフィロスに、がようよう言葉を絞り出した。




「正直な話、私はいつここから消えてもおかしくないんだ」
「な   




そんな馬鹿な、どうして……!
母になってくれると言ったはずだ、家族ができて嬉しいと笑ったはずだ、あなたは自慢の息子だと胸を張ったはずだ   


言葉を失うセフィロスに痛ましいものを感じながらも、伝えなければならないとは続ける。


「よく聞いて。私の意思でいなくなるわけじゃないから」


彼の手をしっかりと握りしめて、逃げそうになる視線を縫い止めて合わせた。


「私の中には、私じゃない半身がいるの」


言った瞬間、セフィロスが一気に心配そうな顔になる。
どうにも言い方を間違えたらしいと、それにかぶりを振った。


「多重人格じゃないよ、安心して。私とは違う存在を宿して、彼と共生してる。だけど私は、彼の意思には逆らえない。だから、いつ、どこに翔ばされるかわからないの」


親に捨てられた子供のような目をしているセフィロスをひたと見つめ、は必死に言いつのる。


「約束するよ。私が自分の意思でここを離れる時は、必ずみんなに言ってからにする。一言もないなんて絶対にありえない。忘れないで、私はセフィロス達のことが大切だから」


だから。


「もしも私が突然消えたら、それはみんなを嫌いになって捨てたんじゃなくて、ラピスの意思によるものだと思ってね。1回来た場所には自分の意思でも翔べるから、いつか必ず帰ってくるよ」


もう二度と、この孤独な子供から、母親を奪わなくても済むように。


「だからそれまで、ザックスやクラウドをしっかり守ってあげて。特にクラウド、全部教えてあげられる前に、いなくならなきゃいけなくなるかもしれないから。面倒を見てあげてね?」


綺麗な魔晄色の瞳が、困惑したように揺らいでいる。
それでもこくりとうなずいてくれたことにほっとしつつ、も柔らかく微笑む。


「ありがとう。いい子だね」


さらさらの銀髪をゆっくりと梳くと、セフィロスもようやく小さく笑った。


「ごめんね、セフィロスにばっかり苦労かけるね」
「気にするな、『家族』だろう?」
   うん」


セフィロスの口から『家族』という言葉が出てきたことが嬉しくて、思わず涙が出そうになる。
それをこらえて抱きつくと、温かくしっかりとした腕が抱き返してくれた。


ああ、本当に。
私にはできすぎた息子かもしれない。


「セフィロス、私が戻ってくるまで、みんなをよろしくね」
「ああ」


ひっそりこっそり約束を交わした母親と長男は、視線を交わして小さく笑いあった。