「脇が甘い!そんなんじゃ隙をつかれるよ!」
「はい!」
激しい金属音と怒号が飛び交う鍛錬場に、双方やや高い声が響く。
「右!」
「うわっ……!!」
の鋭い声とほぼ同時に、クラウドの叫び声があがった。
胸の急所ぎりぎりで止まった剣先に、クラウドは大きく息を切らせたまま冷や汗を流す。
「 今の場合は、右に逃げずに後ろに飛んで、私の間合いから外れること。私の間合いはもうわかるね?」
「はい」
対するは全く息を乱すことなく、淡々とアドバイスをしている。
そんな彼女に尊敬の念を抱きながら、クラウドは小さくうなずいた。
「右に飛んでも、剣はどこまでも追ってくる。対処しきれないと思ったら、迷わず相手の間合いから離れなさい」
逃げることは、けして恥ではないんだから。
見極めを誤って、命を落とすことのないように。
剣先を下げながら諭すようにそう言うを見ながら、クラウドはふと疑問を覚えた。
この人はどうして、ここまで強くなれたんだろう?
体型も掌も、どう見ても普通の女性にしか見えない。
それなのに、化け物並みに強い。
そのアンバランスさが、どう考えても異常だった。
「あの、師匠」
「ん?」
4つ年上の師は、年相応の表情で小さく首を傾げる。
「どうして師匠は、そんなに強いんですか?」
そう訊いた瞬間、ほんの一瞬だけ。
彼女が痛みをこらえるような表情になったのに、クラウドは気づいてしまった。
「あ 」
しまったという顔をしたクラウドに微笑み、は何かを言おうとした彼を制して口を開く。
「守りたいと、思ったんだよ」
「守る ?」
「そう。大切な人がいたんだ。その人達を、どうしても守りたかったの」
優しい義兄と、頑固なその息子。
優しすぎた元天使と、苦しみ続けたライルの末裔。
何も知らずに運命という名の鎖を背負わされた、クレスメントの双子。
そして何より、巻きこんでしまったあの2人。
けしていい思い出ばかりではないけれど。
苦しいことが多かった、旅路だけれど。
あれが確かに自分の原点だと、には胸を張って言える自信があった。
懐かしい面々を思い出しながら笑うがひどく遠い存在に思えて、クラウドは知らず心細そうな表情になる。
そんな彼を柔らかい目で見ながら、がゆっくりと問いかけた。
「クラウドは、どうして強くなりたいの?」
どうして。
訊かれても、クラウドはすぐには答えられなかった。
だって、俺が強くなりたいのは、あいつらに仲間外れにされた悔しさからで。
自分は特別なのだと、そう思いたかったからで 。
師のように、立派なものではない。
そんな彼の引け目を感じ取ったのか、がチョコボ頭を軽くなでる。
「立派なものじゃなくてもいいんだよ、一番最初の動機なんて。私なんかね、兄を殺した奴が憎いってのが始めだったんだから」
なかなか衝撃的な事実をぺろりと白状し、驚くクラウドにうなずく。
「大切なのは、本当に強くなりたいと心に決めた時、その理由は何なのかってこと」
「本当に ?」
「そう。今のクラウドの『強くなりたい理由』、一番始めとは違うんじゃない?」
とん、と胸を指で突かれて、クラウドは改めて考えてみた。
始めは本当に、単にソルジャーになって、村の奴らを見返したかった。
けれど、ザックスにあって実力と有様の差を見せつけられ、の強さに魅せられて。
「 俺」
うつむいて唇を噛みながら、ようようのことで声を出したクラウドを、が静かに見つめる。
その目にうながされて、クラウドは凝った思いを吐露した。
「俺、始めはただ、村の奴らを見返してやりたかっただけなんです。でも、今は 」
「……今は?」
「 ただ、強くなりたい。師匠を追い越したいです。それに、ピンチの時には助けに行くって約束した子もいるし……」
約束よ、と無邪気に笑ってくれたティファの顔が脳裏に浮かぶ。
「その子を、守りたい?」
「はい。ティファだけじゃなくて、母さんも師匠もザックスも、みんな守りたいです」
まっすぐなその目を好ましく思いながら、はさらに一言問いかける。
「……セフィロスは?」
その問いは予想外だったらしく、クラウドが目を見開いた。
うろたえるように視線をさまよわせて、揺れる声で答える。
「え だって、セフィロスは、俺なんかが守らなくても強いじゃないですか」
どうして俺が?
純粋な問いに寂しく笑い、はくしゃりと弟子の頭を乱した。
わかってはいたが、やはりセフィロスは『英雄』なのだ。
「強さって、肉体的なものだけじゃないんだよ。 武芸者がどうして精神の鍛練をするか、考えたことはある?」
「……気配を探りやすくするためだと思ってました」
小さな声で恥ずかしそうに告白するクラウドにうなずき、剣を鞘にしまう。
「そう、確かにそれもある。でも、何事にも揺るがない心を手に入れることも、とても大切なんだよ」
「揺るがない……」
「心が弱い人は、そこを突かれた時に、最善の判断ができなくなってしまう」
やすやすと挑発にのってしまうようでは、命がいくつあっても足りはしない。
だからこそ、精神の鍛練を。
「クラウド。君はやったことがある?」
「 いいえ」
考えもしなかった。
剣の腕さえあがれば、それでいいのだと思っていた。
毎日座禅を組むの横で、のんきに雑誌を読んでいた自分が恥ずかしかった。
「だろうね、私も教えてなかったし。 はっきり言うよ、君は弱い。技量じゃなくて、ココロがね」
自分の弱点をぐさりと突かれ、クラウドは唇を噛みしめてうつむく。
そんな彼を見ながら、は静かに続けた。
「だから、これからはそっちの鍛練もしよう。しばらくは私が教えるから、あとは一人でやりなさい。いいね?」
「はい!」
1人でもできることが増えた。
そのことが嬉しくて、クラウドは大きな声で返事をする。
それにうなずいて、は彼をうながした。
「それじゃあ、部屋に戻ろう。あまり騒がしいところでやるものじゃないからね」
その日から、部屋で一人瞑想するクラウドの姿が見られるようになったという。
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