とにもかくにも、今この時がどのような状況なのかを把握しないことには、何も行動を起こせない。


「どうしようかなあ……」
「何が?」

「ぅわっ!?」


独り言のはずの言葉に合いの手が入って、思わず変な声が出た。
心臓ばっくばくのまま横を見ると、真っ赤な獣が興味津々の様子でこちらを見ている。


「オイラ、ナナキ!あんたはどうしてこんなとこにいるの?」
「ナ……ナナキ、ね。私は、ナナキには言いにくいかもしれないね」


好奇心に目を輝かせながらほてほてと近づいてきたナナキに、もどうにか自己紹介をした。


「ここには……そうだね、気がついたらこの近くにいたっていうのが一番正しいかな?これからどうしようか、ちょっと困ってるんだけど……」


苦笑しながら何気なく彼の首筋をそっとなで、はその感触に目を見開いた。



「気持ちいい……!」



自慢の毛並みを褒められたのが嬉しかったのか、それを聞いたナナキもさらにすり寄ってくる。
それならばと遠慮なくわしわしとなでて、はうっとりと目を細めた。


「あー……ナナキに触ってると和むねえ……。何かもう、どうでもよくなってくるよ」
「そう?」


えへへ、と照れくさそうに笑い、ナナキはひょいとを見上げる。


「でもさ、、ほんとにこれからどうするの?コスモキャニオンは今いっぱいだから、を受け入れるわけにはいかないんだ」


それはそうだろうと、もうなずいた。

コスモキャニオンはけして大きな街ではない。むしろ、町と表現した方がいいくらいだ。
そんなコスモキャニオンは、ナナキがまだいた頃には本編よりも栄えていたのだろう。


「うん、それは知ってる。でも一文無しだし、どこにも知り合いなんていないし、こうなったらミッドガルにでも行ってしこたま稼ごうかと思ってるんだよね」


がそう言った途端、ナナキの瞳が硬質なものになった。


   も、神羅側の人間か」


低い声に怯みもせずに、はぱたぱたと手を振ってみせる。
ミッドガル=神羅という考えは、やはりこの時すでに確立しているのかと思いながら。


「ん?ああ、違う違う。はっきり言って、利益だけを追求するあの組織には賛同できないし、むしろあのデブ社長は1回ぐらいイフリートの炎でこんがりローストしてもらった方がいいと思ってるよ。ただ、ちょっと気になることがあってね」


それを確かめるために行くんだと言うと、ナナキはほっとした表情になる。


「ごめん、オイラ勘違いしてた」


しょんぼりとうなだれるナナキの頭をなで、は安心させるように微笑んだ。


「いいよ、知らなかったんだもん。それよりさ、今から少し変なこと訊いてもいいかな?」
「うん!何でも訊いてよ!」


元気よく返事をするナナキににっこり笑い、はすぐに真剣な表情に戻る。


「ひとつ。“英雄”セフィロスは、今どうしてる?」
「セフィロス?」


ナナキは嫌そうに顔をしかめたが、思いだそうとするように首を傾げた。


「確か……最近はあんまりミッドガルから出てこないんじゃなかったかな?オイラはあんまり知らないけど、じっちゃんなら詳しいよ」
「じっちゃん?」


金○一少年みたいだな、おい。

そういう意味を込めていったんだけど、疑問符をいい方向に勘違いしてくれたナナキが、重大なキーワードを言ってくれた。



「ここの長老だよ。今年で12……3歳、かな?長生きだろ!」



ブーゲンハーゲンが123歳。
ゲーム本編では確か130歳ぐらいだったから、つまりざっと見積もって今は7年前ということになる。


まだ、ニブルヘイムの惨劇は起こっていない。
セフィロスもザックスも、エアリスも死んでいない。


「すごいね、仙人みたい!   ふたつ、“アバランチ”って知ってる?」
「もちろん。だってそれ、ここの人たちが作ったんだもん」
「え?」


あ、そうか。そういえばそうだった……。


「そっか。星命学を学んだ人たちの集まりだったね、アバランチって」


なんだ、それじゃあバレット達がいるのかどうかはわからないんだ。


「じゃあ、これが最後の質問。ナナキのおじい様に会えるかな?」


できればブーゲンハーゲンに直接会って、色々な情報を仕入れておきたい。
やっぱり、人からしか聞けない情報はあるから。


「いいよ。オイラが頼んでみる」


ちょっと待っててねと言い残して駆けていったナナキを見送り、は深くため息をついた。
やるべきことがありすぎて、頭が痛くなってくる。




「ええと、まず、ジェノバはもう発掘されてるわけだから、メテオが降るのは確率高いかなあ……。セフィロスはまだ狂ってないから、今から急いでミッドガルに行って仲良くなればあるいは阻止が可能、と。そうなればザックスも必然的に死なないわけで、あーでもそうすると、クラウドがエセソルジャーにならないのか……。それはそれでまた困るなあ」




どうしようと頭を抱えたところで、ナナキが再び戻ってきた。

さすが犬、かなり速い。
そんなことを思われているとは露知らず、ナナキは嬉しそうにに近づいた。


「じっちゃん、来てもいいって!オイラについてきてよ、案内するから!」
「あ、うん。ありがと、ナナキ!!」


一応気遣ってくれているのか、かなりゆっくりと歩いてくれるナナキについて行って長いはしごを登ると(ナナキは岩壁のとっかかりをひょいひょい跳んでいた)ようやくブーゲンハーゲンの家だ。
どっきどきで入ったを待っていたのは、一体どうやってなのか、ふわふわと宙に浮いた老人だった。
ここまできたらもはや人ではなく仙の域だろうと内心で突っ込みつつ、それでもは礼儀正しくぺこりとお辞儀をする。


「初めまして、と申します」
「よく来たのう、や。儂に会いたいとナナキから聞いとるが、一体どうしたんじゃ?」


人のいい笑みを浮かべて近づいてきたブーゲンハーゲンに、は姿勢を正した。


「いくつか、お伺いしたいことがありまして。   よろしいでしょうか?」


老人がにこやかにうなずくのを確認してから、はナナキの頭を柔らかくなでる。


「ごめんね、ちょっと2人だけでお話させてくれる?」


ナナキは少しためらったが、ややして素直にうなずいて出て行った。
それを見送った後、は改めてブーゲンハーゲンに向き直る。


「お会いできて光栄です。   おじい様」


正式に名前を聞いたわけではないために仕方なくがそう呼びかけると、ブーゲンハーゲンは軽く目を見開いた後に朗らかに笑った。


「おじい様、か。そんな風に呼ばれたことは、とんとなかったのう」
「あ   申し訳ありま……」
「いや、気にするでない。むしろ儂としては、たまには誰かにそう呼んでもらえた方が嬉しいんじゃよ」
「はあ……」


どうにもやたらとフレンドリーなじいさんだ。


「それで、話というのは?」


ひとしきり笑ったブーゲンハーゲンにそう訊かれ、は表情を引き締める。



   ジェノバ……セトラの民について、ご存じですか?」



それを聞いたブーゲンハーゲンの目が、今までとうって変わってすいと鋭くなる。
探りを入れるように油断なく見据えつつ、目の前の少女に問いかけた。


「どこでそれを?」
「申し訳ありませんが、それをお話することはできません」


もまた、小柄な老人から与えられるプレッシャーを感じながら、まっすぐにその目を見返す。


「ですが、私は神羅側の人間ではないことも確かです」


しばらく無言での対峙が続いた後、ブーゲンハーゲンがおもむろに息を吐いた。


「お前を信用しよう、。絶対に儂らの敵にはなりそうにはないからの」
「ありがとうございます」


破顔したにうなずいて、ブーゲンハーゲンはゆっくりと口を開く。


「確かに、ジェノバもセトラも知っておるよ。ガスト博士が教えてくれた」
「ガスト博士が……。博士は、今?」
「わからん。ずっと昔にここを出ていったきりじゃ」


その答えも予想済みだった。
ゲーム本編の通りならば、ガスト博士もイファルナも、もうこの世にはいない。


「そうですか。   では、ジェノバの位置は?」
「それもわからん。すまんの」


申し訳なさそうなブーゲンハーゲンにかぶりを振り、は丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございます。とりあえず、行く場所が決まりました」
「ほう……どこへ?」
「ニブルヘイム、それからミッドガルへ」


きっぱりと告げたを、ブーゲンハーゲンが意外そうに見る。


「ニブルヘイム……あそこには確か、魔晄炉があったはずじゃな」
「はい。私の勘が正しければ、あそこにはジェノバに関する何かがあるはずです」




多分本当は、ジェノバそのものがあるんだけどね。




こっそり内心で呟いて、は入り口のドアを開けた。
待ってましたとばかりにナナキが入ってきて、ブーゲンハーゲンにすり寄る。


「お待たせ、ナナキ。追い出しちゃってごめんね?」
「ううん、平気だよ!はこれからどうするの?」


元気いっぱいにそう訊かれ、は小さく苦笑した。


「ここ、宿屋はあるかな?ここを拠点にして、しばらくはモンスターを倒してお金を稼いで、それからニブルヘイムに行くよ」


そう言うと、ナナキは訝しげに首を傾げる。


「ニブルヘイム?何もないよ、あそこ」
「うん、でも行ってみたいんだ。ゴンガガにも寄ろうかな」


ザックスの両親に会ってみたい。
ついでに、彼への言付けがあれば預かろう。


「ゴンガガとニブルヘイムは逆方向だよ。それに、ミッドガルに行くんなら、ゴンガガの方に行った方がいいと思うけど……」


ナナキが心配そうに鼻を動かすが、は微笑んでかぶりを振った。


「平気だよ。これでも戦うための術は身につけてるし、それなりに速い移動手段も持ってる。いつまでもミッドガルにいるってわけでもないし、そのうちまたここに遊びに来るよ」
「……きっとだよ」
「うん。とりあえずニブルヘイムに一旦行って、またここに戻ってからミッドガルに行くし」


がそう言うと、ナナキがぱっと嬉しそうな顔になった。


「ほんと!?じゃあオイラ、待ってるからね!」
「うん」


可愛いなあとほのぼのしつつ、はそれを見守っていたブーゲンハーゲンに頭を下げる。


「どうもありがとうございました。失礼します」
「またいつでもおいで」


人のいい笑顔でうなずいた長老に微笑み返し、はドアを開けた。