ニブルヘイムは閑散としていた。
観光地ではないのだから当然なのだが、常に火を絶やさずに人々が動き回っていたグランドキャニオンにいたにしてみれば、やはり少し寂しい光景だ。




   あれが、神羅屋敷……」




ヴィンセントが眠る場所。

後で少し行ってみようかと思いつつ、ぐるりと辺りを見回してみる。
水場を囲んで1軒だけやや奥まったところにある家を見つけ、あれがクラウドの実家かと目星をつける。


……入ってみたい。でも、我慢。


RPGではあるまいし、無断で人の家にはいるのは犯罪だ。



「さて」



目指すは、魔晄炉。
そして、ジェノバの下へ。

うし、と気合いを入れてニブル山への道を歩きだそうとしたところで、背後からためらいがちな声をかけられた。




「あんた、ニブル山に行くのかい?」
「へ?」




思わず振り向くと、金髪の女性が桶を片手に立っている。
その鮮やかな金色に、は瞬間クラウドを連想した。


「え   あ、はい。そのつもりですけど……」
「やめときなよ。あんたみたいな若い子が行くには危なすぎる」


本当に心配そうに言ってくれるので、の頬が思わずほころんだ。


「ありがとうございます。でも、お金も時間もあまりないので……」


ジェノバの姿を確認して、対策を立てて、ミッドガルへ。


ニブルヘイムは焼失する必要がある。
けれどそれは、セフィロスの手によるものであってはならない。
ザックスとクラウドは追われた方が望ましいが、ザックスは死んではならない。
星を救う旅に道標は必要だが、ジェノバを取り込んだセフィロスは存在しない。


さて、どうしたものか。

考え込んだの様子をどうとったのか、女性は快活に笑う。


「お金がないならうちにおいで。狭くて何もないけど、ちょうど息子がミッドガルに行っちゃってね。ベッドは余ってるから」


行きたい。ものすごく行きたい。
ああ、でも、早くセフィロスの下に行かなければ。

でも、でも!


「……よろしくお願いします……」


どうやらこの女性、ストライフ夫人で間違いないだろう。

胸中でほぼ確定のはんこをぺたりと押して、はとうとう誘惑に負けた。
深々と頭を下げるに微笑み、夫人は彼女の背を押して家へと歩きだした。


「家に誰か人がいるなんて、本当に久しぶりだよ。この夏に息子が出てってから、すっかり寂しくなっちゃってねえ。あんたが来てくれて嬉しいんだ」
「いえ。こちらこそ、泊めていただいて助かります。ずっと1人でいたから、お母さんの作った料理が食べられるなんて夢みたい」


ついでに料理も教えていただけると、なお嬉しいです。
悪戯っぽくそう付け加えたに、夫人も破顔する。


「こんな田舎の料理でよければ、いっくらでも教えてあげるよ。いつまでいられるんだい?」
「そう長くは……ぎりぎりで1週間ですね」


どんなに長距離であっても、移動は紋章で瞬時にできる。
だが、セフィロスに残された時間はあと少ししかないのだ。


時間は無駄にできない。


「そうかい……じゃあ、5日はここにおいでよ。それぐらいなら大丈夫だろ?」
「ええ」


残念そうに言う夫人に、は微笑んでうなずいた。
その笑顔を見た夫人が、ふと目を細める。




「あんたみたいな子が娘ならね……そうだ、うちの嫁に来ないかい!?」
「ストライフさんの?」




ちなみに現時点で、クラウドはまだ14歳である。
の肉体年齢は18歳だから、夫人も思い切った提案をしたものだ。


「ああ。親の私が言うのもなんだけど、あの子はなかなかいい男に育つと思うよ。あんたもミッドガルに行くんだろう?会ってみればいいじゃないか」
「息子さん、ソルジャーになりに行ったんでしたっけ」
「そうそう。まあ、なかなか難しいとは思うけどね」


さすが母親、息子の力量を正確に把握している。
確かに今のままの状態では、クラウドはソルジャーにはなれないだろうとも思った。


そう   今のまま、誰にも師事しないでいれば。


苦笑する夫人に微笑んで、は安心させるように言う。


「大丈夫。息子さんは、立派なソルジャーになりますよ。もしなれそうになかったら、私がお尻をひっぱたいてでもならせてみせます」


“黒曜の混沌”と恐れられた自分が、技術を叩きこめば?
クラウドならば、確実にソルジャー1stになれる。


「ミッドガルに着いたら、私神羅に行ってみますね」
「ああ、是非そうしておくれ」


夫人が嬉しそうにうなずいた。
女装したクラウドの笑顔ってこんな感じかなあと思いつつ、もそれに微笑み返す。

そうしておいて、さて、とは考えた。

そうと決まれば、ゴンガガには寄らずに行った方がいいかもしれない。
あまりにも接点を持ちすぎるのは、かえって不自然すぎてよくない。


そこまで考えて、小さくかぶりを振る。


いや、ザックス   ひいてはセフィロスと接触するためにも、何らかのきっかけが必要だ。
ザックスの1st初任務まで待っている余裕はとてもない。

できる限り急いでゴンガガに寄ろうと決心し、出された料理に手を伸ばした。
口に含んだ瞬間、何とも言えない懐かしさが広がった。


「おいしい!」
「そうかい、そりゃあよかった」


思わず口をついて出た言葉に、夫人も嬉しそうな顔になる。


「ほんとにおいしいです、これ!」
「いっぱい食べなよ、おかわりはいくらでもあるんだからね」
「はい!」


久しぶりに食べた1人ではない夕食は、とてもおいしかった。













5日間クラウドの実家に滞在し、いざニブル山へ。
途中に落ちているアイテムや宝箱には目もくれず(他人の武器なんてもらってもどうしようもない)ただひたすら魔晄炉を目指して走る。


待ってろジェノバ、セフィロスに影響なんて与えられなくしてやる!


もちろんここに来る前に、ジェノバプロジェクトのセフィロスに関する記述の部分は改竄してきた。
プロジェクトの被験者はセフィロスではなく、フィリアという女児と言うことになっている。


もちろん、これから先、ルクレツィアには会わなくてはならなくなるだろう。
その時にきっと、セフィロスは真実を知ってしまう。
でもそれまでに、クラウドやザックスが彼の確かな楔になれば。

それでも狂いそうになったら、私がぶちのめして首ねっこつかんで更正させてやる。
それくらいできなくて、何のための友達なんだ。


うし、と気合いを入れ直し、魔晄炉へと足を踏み入れる。
カプセルに入れられている人達にそっと黙祷をして、さらに奥へ。




「……見つけた、ジェノバ……!」




培養液に入れられた、星から来た災厄。
周囲のコンピューターをいじって、ジェノバのある部屋もろとも厳重に封印する。
ついでにラピスの力もこめて、たとえ正宗でも突破できないようにした。


「ここはこれでよし、と。カプセルの中の人達は   助けられないな、自我を失くして久しいんじゃ……」


頑張ればできるだろうけど、それで私が倒れたら元も子もない。




「ごめんなさい」




呟いて翼を広げ、はゴンガガへと飛び立った。