私は、この世界に属する人間じゃない。
   本当はもう、「人間」と言っていいのかすらわからなくなっているけれど。


その言葉は胸に押しとどめたに、クラウドとザックスが目を見開く。


「は!?」
「……何だって?」


予想通りの反応を示した2人に笑って、はついと胸元に手をあてた。


「この世には、いくつもの世界があるんだよ。ただそれが、お互いに感知できないだけで……」


百万世界のその彼方、数えきれないほど世界は存在する。
だからこそ、は今ここにいた。


「私はその中の1つで、とある紋章の半身に選ばれた。その副産物で、不老になっちゃってね……。しかも、実質的に不死に近いときたもんだ」


ひょいと肩をすくめて、がさらに付け加える。


「その1つが、さっきのものか」
「そ。世界を渡るのもね」


背もたれにもたれかかってそれ以上の説明を放棄したに、クラウドが呆然としたような声で呟いた。


「じゃあ、18っていうのも嘘じゃなかったのか……」
「うーん、ラピスが遠慮して時を止めるのを遅くしてくれたからねえ。多分そのくらいだと思うよ?多分、精神に身体が追いつくのを待っててくれたと思ってるんだけど」


何しろ私、1回死んでるから。




「ふーん……って、はあぁぁ!?




あっさりさらりと言われたために一瞬流しそうになったソルジャーズだが、はたと気づいて一気に詰め寄る。


「ちょ、ちょちょちょお前、死んだって何だよ死んだって!!」
「死んだのに、どうして今ここにいるんだよ!?」
「どういうことだ、!」
「落ちつけ落ちつけ。本当なら、とうに死んでるはずの命だったんだよ」


どうどうとなだめたの胸元で、ラピスラズリがひっそりと明滅した。
その胸元をするりとほどくと、がぐいとくつろげる。


「ちょ   !!」


男共が顔を赤くして目を背けようとするが、はそれを制して口を開いた。


「見て。これが、私の半身」
胸元に淡く光ったラピスラズリを示して、彼女は軽く目を伏せる。


「戦う術を手に入れた世界で、私は致命傷を負ったの。絶対に助からないって、自分でもわかった」


血が失われていく感覚。
自由にならない手足、呼吸器官。

今でもはっきりと思い出せる。


「やることやって死ぬならいいやって、思ってたんだけどね……やっぱり、怖くて嫌だったよ」


そんな時。




「ラピスが、私を選んだ。私も、ラピスを選んだ。心から納得しあって、互いに求めあった。それが私と、他の継承者との違い」




一方的に求め選ばれるのではなく、互いが互いを選んだからこそ、呪いすらさほどの負担にならない。


「そういうわけで、今の私は普通の人とは根本的に作りが違うんだよねえ。肉体年齢も何歳だかわからないけど、私自身もいくつだかわからないし」


だから、永遠の18歳なの。


にっこりと笑ったの後ろに黒いものが見え、3人はおとなしくそれ以上の追求をやめた。
これ以上問い詰めたら、逆に自分達の身が危ないかもしれない。


「さて。男共、お腹は空かないかい?」


ぽんと手を打ち合わせて話題を変えたに、飢えた3匹が目の色を変えた。


「夕飯!!」
「メシ!!」
「久しぶりだな、の飯も」
「はーいはいはい、今日はごちそうだよ。遅くなっちゃったけど、クラウドのソルジャー合格祝いをしなきゃね」


何にしようかとあれこれメニューを考えるその脳裏に、不意にこの世界にきたばかりの時の記憶がよみがえった。


(……そういえば、1回も作ってなかったか)


クラウドのお祝いだしねーと思いながら席を立ち、あれこれと食材をあさる。
冷蔵庫を見て、野菜庫を見て。


「よし」


できると判断したが料理を始めて半刻、何かに気づいたクラウドがふと顔を上げた。


   あれ?」
「どうした?」
「いや、何か、この匂い……」
「お、わかった?さすがクラウド」


首を傾げるクラウドに、鍋から顔を上げたが笑いかける。
ほどなくしてテーブルに並べられた料理を見て、クラウドのみならずセフィロスもザックスも目を見開いた。


「これは   
「食べてみてよ。あんまり自信ないんだけど……」


照れくさそうにそう言ったに勧められ、クラウドが真っ先に一口食べてみる。


   母さんの味と同じだ」
「よかった!!ずいぶん前に習ったから、実は不安だったんだ」


ほっとしたように顔を輝かせたに引っかかりを覚え、ザックスがはてと首を傾げた。


「お前、ニブルヘイムに行ったことあんのか?」
「うん。ここに来て、一番初めの頃だね。ストライフさんって奥さんに料理を教えてもらったんだけど、あの人ってクラウドのお母さんだよね?」
「あ、ああ……」


意外なつながりに驚きながらうなずいたクラウドが、5年前の母親の言葉を思い出して声をあげる。


「あれ、のことだったのか!」
「あれ?」
「家に女の子が泊まったとか、よくできたいい子だとか」


   あんな子、お前にはぴったりだと思うけどねえ。


半ば以上本気で言ったと思われるその言葉は、ひっそりと胸の内にしまっておくことにした。
恥ずかしすぎるし、何よりセフィロスにでも知れたら、それこそとんでもないことになりそうだ。


「もう1度行きたいなあ……ね、今度みんなで行こ?」


本編通りに焼失してはいないだろうと思ったからこそそう言ったのに、の言葉を聞いた瞬間にソルジャー達が険しい表情になった。


「やめとけ。行っても何もねえぞ」
   え?」
「5年前の魔晄炉調査の際、神羅に全て焼き払われた」


苦々しい表情でそう言ったセフィロスに詰め寄り、は必死に見上げる。


「どうして!?」
「あの村は、あまりにも魔晄炉に関わりすぎたんだ。神羅にとって不都合になった、だから消した」
「……村の人は?」


あの5日間、接したのはほとんどクラウドの母親だけだった。
それでも、あの寂しくも穏やかな村の空気は覚えている。


「可能な限り、他の区画に逃がした。俺達3人だけでは、たかが知れているがな……」
「そっか」


落ち込んだ様子で自嘲するセフィロスの頭をなでて、は小さく苦笑した。
セフィロスには何の責任にもないのに、それでも落ち込むその優しさが、不謹慎ながらも嬉しい。


「助かった人がいるだけでも充分だよ。それじゃあ、そのコロニーに行ってみようか」
「だな!クラウドの母ちゃんも、多分に会いたがってるだろ」


その言葉で彼女も無事だと悟り、は頬をほころばせた。
まだ覚えてくれているだろうか。


「楽しみだなあ」


久しぶりに4人揃っての夕食は、そんな感じでにぎやかに過ぎていった。