「そう?」
とても複雑な表情のティファに首を傾げ、はおもむろにドアに手をかける。
ためらいもせずに開けたに、バレットとティファが死ぬほど驚いた。


そんな2人をよそにずかずかと入ったソルジャーズ(もとい)は、やはり何のためらいもなく近くのドアのロックを解除して。




「お久しぶりです、サー・マズラディ」




至極のんびりと、中にいた男に片手をあげた。
近所まで来たから遊びにきました、と同じようなノリだ。


「お?おお?じゃねえか、今までどこ行ってたんだよ!」
「ちょっくら野暮用で、10億光年くらい遠くに飛んでました」
「何だそりゃ」


としてはあながち間違いでもないことを言ったのだが、マズラディに爆笑されて終わってしまった。
あからさまに侵入者ですと言わんばかりの面々をとがめもせず、あまつさえ歓迎ムードでコーヒーを用意しだしたマズラディに、アバランチの2人はどうしたらいいのかわからなくなってくる。


一体何なんだ、このやたらフレンドリーな親父は。


「あ。ティファ、バレット、こちら私達の元上司のマズラディさん。マズラディさん、こちら反神羅組織アバランチの2人です」
「おー、お前達が噂のアバランチか。よくここまで来たな、まあ茶ぁでも飲んで肩の力抜けや」


あっさりと紹介したに、マズラディもやはりあっさりとうなずいた。


反射的に受け取ってしまったコーヒーカップをまじまじと覗きこみ、バレットが毒でも入っているのではないかという顔をする。
そんな彼に、クラウドが苦笑してかぶりを振った。


「マズラディさんは出世欲とは無縁の人だ。俺達のことを上に報告することもない」
「つーか、こんなに野心も出世欲もなくて、ここまで上りつめられたのもすごいよな」


けらけらと笑いながらそう言ったザックスの頭をはたいて、マズラディがカップを傾ける。


「で?単に昔話をしに来たんじゃねえだろ」


何があったと鋭く見すえられて、も真面目な顔になった。
そして。




「いや、単に挨拶していこうと思っただけなんですけど」




バレットが派手にこけた。




「何だよ、最近また面白いネタが入ったから教えてやろうと思ったのに」
「あ、それ欲しいです」


握れる弱みは握っておきたい。
しかもこの男からならば、なかなか愉快な中身のはずだ。

脊髄反射で即答したとうなずいたマズラディ、双方顔を見合わせてにやりと笑う。
そうして教えられた『ネタ』は、確かにおもしろいものだった。


「え!?ベイシャードったら、最近また奥さんに!?」
「あいつもこりないよなあ。遊びすぎだって、俺も何回も注意してやったのに」
「今度はどれくらいで帰ってきてくれるかしら」


内輪にとっては。


ソルジャーその他のネタをしこたま仕入れて満足したが、実に晴れやかな顔で立ち上がる。
該当者と何かあったら、これで揺さぶる気満々だ。


「それじゃ、そろそろ行きますね。宝条から助けなきゃいけない仲間がいるので」
「おお、そうか。ならこれ持ってけ」


ほい、と渡されたのは、66階までのキーカード。
おいおいおい、いいのかよと突っ込みたくなるほどの気軽さだ。


笑顔で受け取るだが、まかり間違ってもソルジャー総括がする行動ではないだろう。


「サー・マズラディは総括にふさわしくないんじゃないかって、思ってるでしょ」


おかしそうにに指摘され、正にその通りのことを考えていたティファはぎくりとした。
そんな彼女に軽く笑って、逆だよとは言う。


「こんな人だからこそ、逆に総括にふさわしいんだよ。上から見て野心がないって、つまり蹴落とされる心配がないでしょ?優秀だし、心のままに動くフリーダムな人だから、うまく御せれば組織には最良の人材だね」


あまりにも盲点だった考えに、ティファは思わず小さく声をもらした。
一般的には野心がある方が出世するが、そういう考え方もあるのか。


「マズラディさんが私達に協力してくれたのも、単に神羅がこの人を扱いきれなかっただけ。気まぐれだしねえ」
「うるせえなあ、おもしろいもんが好きなだけだろ?」
「それが気まぐれだっつってんですよ、この親父」
「つーか、宝条ってキモいもんな」
「激しく同意。あれ、いい加減どうにかしてくださいよ」
「やだよめんどくせえ」
「少しは働け、このクソ親父」


元とはいえ、とても上下関係にあった人間同士の会話ではない。
けれどもマズラディも、お互い本当に楽しそうに笑っているから、以前からこうだったのだろう。

本物の信頼関係というものを見せられた気がして、バレットの中の「神羅」のイメージが少しだけ変わった。


「神羅って……もしかしたら、変な奴の集まりなのかもしれねえなあ……」
「バレット……」


そんな神羅を目の敵にしていた俺って、一体何なんだろう。
ちょっぴり哀愁ただようバレットに、ティファも深々とうなずく。

そんな彼らに、ザックスがけらけらと笑った。


「案外当たりかもな、それ」


タークスなんて変人ばっかだぞーとあっさり暴露され、ティファは反射的に両手で耳をふさぐ。


冷血無敵のタークス。
そんな彼らのお笑い話など、さっきのマズラディの話だけで充分だ。


もうすでに、イメージががらがらと崩れ去りかけている。




「……もういや、こんな組織……!!」




泣きそうなティファの情けない声が、そんな気持ちをあますことなく表していた。