もらったものは、ありがたく。
そんなポリシーでさっさと66階まで上がった一行は、会議室の前で仁王立ちをする。


「……入れないな」
「うん。当然だけどね」
「マズラディのおっさんも、どこでも入れるキーカードくれりゃいいのに……」


うなるザックスにがうなずき、さてどうしようと一同で考えこむ。

すっかり忘れがちだが、ここは神羅本社だ。
敵地のど真ん中だ。

にもかかわらず、こんなに堂々と仁王立ちしていていいのだろうか。


その突っ込みが誰からも出てこないあたり、バレットもティファも彼らのノリに慣れてきたのかもしれない。
   それが幸か不幸かはさておき。


「どこか、ダクトから入って中の様子を伺えれば……」


ぽつりと呟いたのは、(一応)ソルジャーの良識クラウド。
確かに、この状況で中の様子を探るには、その方法が一番妥当だろう。


どこか、上がれそうな排気口はないものか。
うなずいたセフィロスとザックスが天井を見渡していると、がふと昔のマズラディの世間話を思い出した。


「……そういえばマズラディさん、この会議室が時々トイレ臭くて困るって言ってた」


あまりの内容に、ザックスが吹いた。


トイレ臭い重役会議室。
何か、ものすごく嫌だ。
神羅ならそのくらいはちゃんとしろ。


「ま……まあ、どっかのトイレと通気ダクトがつながってるってことだろ?とりあえずトイレ行こうぜ、トイレ」
「……男子トイレ……?」


ザックスの先導でさっさと歩き出そうとしたところに、心底嫌そうなティファの声が待ったをかける。
女性陣を全く考慮していなかったザックスが、ぎしりと動きを止めた。
横を見ればも苦笑していて、けれどひょいと肩をすくめられる。


「ま、しょうがないんじゃない?」


任務だと思えば、男子トイレに入るくらいは何のその。
任せろと胸を叩いたに、ティファが青くなって頭を抱えた。


まで……!!嫌よ、男子トイレに入るなんて!女としての恥じらいを思い出して、!」
   あのね、ティファ」


両肩をつかまれてがっくがっくと揺さぶられていたが、意外にも真面目な声でその動きを止める。
剄い目でティファを見据え、その口が静かに開いた。


「恥じらいとか女らしさとか、任務の時には必要ないんだよ。むしろ、邪魔になる時の方が多い。そんなものでためらって敵に見つかって、作戦がおじゃんになったら意味ないでしょ?任務の時には、基本的に私情を挟んじゃいけないの」


完全にソルジャーとしての表情でそう諭したに、目を見開いていたティファが力なくうなだれる。
小さくうなずいたその背中をが抱いて、励ますように軽くさすった。
その様子を見ていたクラウドが、感心したように呟く。


「……がどうしてソルジャーになれたのか、わかる気がするな」
「こういうことはきっちりやる奴だもんなあ」


任務中の彼女をほとんど見たことがないクラウドにとって、意外な一面を見た思いだった。
当たり前のように笑うザックスにクラウドが眉根を寄せたが、セフィロスに目で促されてうなずく。


「行こう。   ティファ、少し我慢してくれ」
「……わかったわ」


渋々うなずいたティファにほっとしながらダクトに上り、狭い通路の中を匍匐前進。
途中でバレットがつっかえたりするハプニングもありつつ、どうにか全員でこそこそと会議室を覗きこんだ。


「ちょっとバレット、もう少し詰めて!」
「しょうがねえだろ、これで目一杯だ!」
「2人とも、声が大きいぞ」


ティファとバレットがクラウドに注意されているのを横目に、とセフィロスは下をチラ見したザックスに小声で尋ねる。


「誰がいる?」


別に全員で様子をうかがう必要はない。
情報共有さえ正確に行えれば、動くのは最低人数の方が危険性も少ないのだ。


だからこその斥候だろうと、セフィロスはアバランチを見て小さくため息をついた。


「プレジデントとスカーレット、パルマー、ハイデッカー、それに……誰だ?」


どうやら1人、記憶にない人物がいるらしい。
あんな奴いたかあ?と首をひねるザックスと交代したセフィロスが、納得したようにうなずいた。


確かにあの男、ザックスには見覚えがないかもしれない。
しかし、セフィロスの記憶にははっきりと印象づけられている男だった。
まさかここにいるとはと軽い驚きを感じながら、短くその名を告げる。


   おそらくは、この場の誰もが知らない名前を。