くもりガラスで遮断された小窓を見ながら、が小さくため息をつく。
そんな彼女を気遣わしげに見ながら、しかしクラウドも無言だった。

物音一つない独房は、おそらく声を張り上げれば別室との会話が可能だろう。
しかし、ほぼ全室が互いに初対面に近い同士のこの状況では、誰もが何となく口をつぐんでしまっていた。

どことなく重い雰囲気の中、不意にが口を開く。


「……クラウド、どう思う?」
「え?」
「あれほどタイミングよく、タークスが捕獲に現れた。監視カメラがあるとはいえ、実際にはあのエリアはICカードがあればノーチェックみたいなのものなんだよ?」


固い表情でしゃべるの手元には、65階までのカードキー。
神羅ビルの裏事情を思い出したクラウドも、はっと顔を強張らせる。


セキュリティチェックが厳しい分、監視が極端にゆるいのが、この上層フロアの特徴だ。
一応はカメラも設置してあるが、映像のチェックは皆無に等しい。
それがこうもタイミングよくつかまったということは   


「まさか……サー・マズラディが?」
「それはないだろ、さすがに」


クラウドの声にかぶるように、少しくぐもったザックスの声が響いてきた。
思ったよりも声は通るらしいと顔を見合わせた2人に、壁越しの声がまた続く。


「マズラディのおっさん、そんな風にして人をだますような奴じゃないだろ。んなことも忘れちまったのかよ、


呆れたように、たしなめるように。

聞こえるか聞こえないかの音量は、看守の存在を慮ってのこと。
以前ここに入ったことがあるのかと思うくらい、絶妙なボリュームだ。


「信じようぜ、。俺達の上司だ」
「……そうだね」


あえて「元」とは言わなかったザックスに、も同じほどの声量で答える。


「信じなきゃ駄目だよね。マズラディさんを信じてた自分まで、否定することになるもんね」


その目にもう迷いがないのを見て取って、クラウドは小さく安堵の息を吐いた。

が不安定だと、自分まで落ち着かない。
自分自身で落ち着かせることができなかったのは少し悔しいが、それでも彼女が落ち着いたことの方が重要だ。

ありがとうとザックスに声をかけたは、ベッドに腰かけたまま大きく伸びをした。
肩を回してほぐした彼女が、クラウドに笑いかける。


「まだまだだね、私も。ザックスに諭されちゃった」
「ちょっと悔しいな」
「だね」


先程よりもさらに小さな声は、きっとザックスには届いていない。
くすくすと笑いあう声が、密やかに室内に響いた。


「さて。一眠りして、体力を回復しよっか」
「そうだな」


うなずいて横になりかけたクラウドは、横からやけに視線を感じて首を傾げる。
何かと思ってを見ると、あろうことか彼女は自分の横のスペースをたしたしと叩いていた。




「クラウド、こっちこっち」




……くらりと目まいがした。


「……。それは無理だ」
「どうして?ベッドが一つしかないんだもん、別にいいじゃない」
「よ・く・な・い!」


押し殺した声で怒るクラウドに首を傾げ、はあろうことかその腕を引っ張る。
思いがけない行動に抵抗できずにクラウドが倒れこむと、は上機嫌で彼の頭を抱えこんだ。

胸に頭を押しつける形になったクラウドは、それはもう大慌てだ。
彼だって多感なお年頃、これはさすがにまずすぎる。


!」
「いいから寝よう、クラウド。大丈夫だから」


暴れようとするクラウドをうまく押さえこみ、子供に対するように髪をなでる。
そんなの手が小さく震えていることに気づき、クラウドは思わず動きを止めた。


「……?」


一体、どうしたんだ?


「大丈夫。絶対、大丈夫だよ」


ゆっくりと顔を上げたクラウドに、が微笑みかける。
何故か不安に揺れる瞳と、いまだに震える指先を無視するように。

   何に対して「大丈夫」と言っているのかはわからない。
けれど、彼女が何か、大きな不安と戦っていることだけはわかった。


ためらいながら小さな背中に手を回し、少しだけ力をこめて抱き返す。
がぴくりと反応するのがわかったが、構わずにそのまま抱き寄せた。


「大丈夫」


彼女が繰り返していた言葉をささやくと、ひときわ大きくが反応する。


「何があったのか   これから何があるのか、俺にはわからない。だけど、俺もセフィロスもザックスも、みんなの側にいるから」


だから。


「大丈夫だ、


その身体にしみ渡れとばかりに繰り返していると、の震えが少しずつおさまっていく。
ゆっくりと力を抜いていく背中を優しくさすりながら、これではまるで立場が逆だと苦笑がもれた。
あの頃あんなに頼りになって、とても大きく遠く見えた彼女が、今はこんなにも小さく頼りない。

   今度は自分が、自分達が守る番なのかもしれないと、そう思った。


「もう寝よう、。少し休んだ方がいい」
「クラウド……」
「きっと、何とかなる」


確証など何もなかったけれど、きっと今の彼女には必要な言葉。
微笑んでそう言えば、強張っていた頬が小さくゆるんだ。


「俺達みんなで、どうにかしよう」
「……うん」


小さくうなずいたをもう一度抱きしめて、互いの体温に安心して。
薄い毛布をかぶってもまだ寒い独房内でも、もう不安はなかった。


「おやすみ、
「おやすみ、クラウド」


いまだ危機的状況のはずなのに、そんな平和なやりとりが無性におかしくて、クラウドはまどろむ意識の中小さく苦笑した。