ミスリルマインはいつ来ても幻想的な場所だ。
それは一度来たことがある者ならば誰でも納得する事実だし、達もそう思っている。

うなぎの蒲焼きよろしく串刺しにされている、ミドガルズオルムの姿さえなければ。


「……うん!!煮ても焼いてもおいしくなさそう!」
「阿呆か!!」



が力一杯ザックスに突っ込まれるその後ろ、あまりの惨状に青ざめて口元を押さえるティファを、クラウドが振り返った。


「大丈夫か?ティファ」
「え、え……」


地面に振りまかれた、どす黒い血の海。
固いはずの地面が、それでぬかるんでいる。

どうにかながらうなずいたティファが、倒れそうになるのをこらえて死骸を振り仰いだ。
いまだ大地を濡らす大量の血は、それが死んでからさほど経っていないことを示している。


湿原の主。
そう呼ばれる、強大なモンスター。
それを、こうも簡単に倒してしまう相手。


   私達、こんなのを相手にするの?」


勝てるのだろうか。
それ以前に、生き残れるのだろうか。

があれほどまでに特訓にこだわった理由が、痛いほどによくわかった。


   このままでは確実に、死ぬ。
生半可な覚悟では、この先の旅についていけない。




「勝てるよ」




凛としたの声に打たれ、ティファは弾かれたように顔を上げた。
視線のその先では、が自信に満ちた笑顔を浮かべている。


「勝てるよ。私はそのためにここに来たんだし、私達はそのためにここにいるんだもの」


何の根拠もない、ただ自信だけに裏づけされた言葉。
けれど何故か、信じられる気がした。
恐怖のかけらもなく笑う彼らを見ていたら、本当なのではないかと思えた。


「……そうね。達がいるなら、きっと勝てるわよね」
「うん!!」


打てば響くようにがうなずき、ティファの背を押して優しく中へと促す。
彼女の立ち位置がさりげなく視界からミドガルズオルムを隠していることに気づいて、
ティファはそっと笑みをこぼした。

   本当に、さりげない気遣いがうまい人だ。


ぞろぞろと中に入ると、入り組んだ通路よりもまず、仄かな明かりに圧倒される。
鉱石自体が発する不可思議な色彩のそれは、有機質と無気質さを同時に感じさせた。
触れても温もりは感じない、けれど確かに明るい不思議な光景。

何度も来たことのあるソルジャーズはまぶしそうに目を細めただけだったが、アバランチとナナキはすっかり目を奪われていた。


   すごい……!」
「綺麗でしょ?私、ここ好きなんだ」


目を輝かせたティファに、エアリスが笑いかける。
あの奥に行くと一番綺麗なスポットがあるんだよなどと教えているところを見ると、エアリスも割と頻繁に来ているようだ。


「エアリス、あんまり離れるなよー」
「大丈夫!ザックス、守ってくれるでしょ?」
「無茶言うなって!!」


ティファの手を引いてぱたぱたと駆けていくエアリスに、ザックスも苦笑しながら後を追っていく。


そこ、滑るから気をつけろよー。
だいじょぶ……きゃあっ!!
あーあー、ほら。言わんこっちゃない。
でも、ザックス、助けてくれたじゃない。


その会話と光景の微笑ましさに口元をほころばせながら、がセフィロスを見上げた。


「あの2人、いつもあんな感じ?」
「ああ。エアリスが自由で、ザックスが少し苦労しているようだが」
「ふうん……よかった」


ザックスが死んでいるあの未来を知っているから、余計にそう思う。
ザックスならば、多少の苦労も楽しんでいるのだろう。
彼らが笑っていてくれるのが、一番嬉しい。

ぽつりと呟いたに、セフィロスが小さく首を傾げた。
だがすぐに、遊び人のザックスが真面目な付き合いをしていることについてだろうと解釈して笑う。


彼女がまだいた当時、ザックスは特定の相手を作ることのないナンパ男というイメージか強かった。
それを影で心配していたのを知っているからこそ、答は割と簡単に導き出される。
それがたとえ間違っている答でも、おそらく彼女の真実の一割には入っているだろう。


、エアリス達を見失うぞ」


後ろで笑いながらその様子を見ていたクラウドが、角を曲がって見えなくなりそうなザックスの後ろ姿に気づいて、を促した。
慌てて足を速めるを追いながら、クラウドはセフィロスと目を合わせて小さく笑い合う。


彼女がいるだけで、誰もがこんなにも生き生きとする。
改めて、彼女の大きさを感じた。


「行くか」
「ああ」