何だそれは。誰だあんた。

うろんな表情で見るに、男はにやりと笑う。


「俺は一応、ソルジャーを総括していた立場だ。ま、今でも何だかんだ口は出してるんでな。昇級も何もかもすっ飛ばして、俺のところに来い」
「元総括   もしや、サー・マズラディ?」


式典の中でちらりと出た名を呟けば、案の定うなずきが返ってきた。


「3日、待て。そうすればお前はソルジャーだ」
「んな無茶苦茶な……」


思わず素でそう呟いたに、マズラディが愉快そうに口元を歪める。


「そっちが素か。その方がいいぞ」
「そりゃどうも」


ひょいと肩をすくめ、はその肩に剣を担いだ。
その時周囲の人だかりの中にチョコボ頭が見えて、僅かに目を細める。


「どうした?」
「いえ   佳い知らせをお待ちしてますよ」


の表情に気がついたマズラディが片眉を上げたが、彼女はゆるりとかぶりを振って演習場を後にした。
密かに後を付けてくる気配を感じながら。


(来てる来てる)


おそらく今振り向けば、金色のチョコボ頭が見え隠れしているだろう。


「そう   おいで。そのために、あんなに目立ったんだから」


小さく小さく呟いて、は軽い足取りで自分の部屋へと向かう。
ドアのノブに手をかけたところで、ようやくやや高めの声がかけられた。




「おい、あんた」
   何か?」




ゆっくりと振り返れば、やはりクラウドが立っている。
緊張しているのか、その表情はやや固い。


「あの……!」


そう言ったきり、口ごもって下を向いてしまったクラウドに微笑んで、は部屋のドアを開けた。



   どうぞ。中に入って、お茶でもいかが?」
「え、でも……」
「立ちっぱなしも疲れるでしょ?さ、入って」



入隊したばかりのの部屋には、まだ私物はほとんど何もない。
備え付けの机とベッド、そして先程運び込まれたトランクが1つだけ。

それでも1人で部屋を使える分、他の一般兵よりは恵まれている。

トランクからティーセットを出して準備をするをぼんやりと見ながら、クラウドはそんなことを思った。


「ほら、座って。お茶受けはクッキーでいい?」


いったいどこから取り出したのか、香ばしいクッキーが皿の上に綺麗に並べられていく。
反射的にうなずいて、クラウドはこっそりと唾を飲み込んだ。

いい香りの紅茶とクッキーを味わいながら、はクッキーを夢中で食べているクラウドを微笑ましく見る。
やはりまだ子供、神羅ではめったに食べられない甘いものが嬉しいのだろう。


   それで。私に何か、用があったんじゃなくて?」


ゆっくりと尋ねると、クラウドの動きがぎしりと止まった。




……忘れてたんだ。
紅茶とクッキーに夢中で忘れてたんだ、この子……!(可愛い……!)




内心悶えながらも、空になってしまったクラウドのティーカップに新しい紅茶を注ぐ。
それでも固まったままのクラウドにむかって、は小さく微笑んだ。



「さっき、少しだけ君の鍛錬を見たよ」



その言葉にクラウドが勢いよく顔を上げた。
くいいるような目がを見つめる。


「筋は悪くない   というかむしろ、いい方だね。惜しむらくは、基礎から全てが自己流ってことかな?一応訓練は受けてるんだろうけど、それと変な風に混ざってる。だけど、確かな師についてみっちり鍛練を積めば、ソルジャーになれる。必ず」


まっすぐすぎて痛々しいほどの目を正面から受け止めて、ははっきりと言い切った。
それに後押しされるように、クラウドが口を開く。



「おっ   俺に、剣を教えてください!」



予想通りの言葉。


「私に?」
「さっきの、サー・マズラディとの試合を見てた。あんな凄いの、ザックス以来だった。でもザックスはソルジャーだし、そんなの頼めないから、だから   


必死に言いつのるクラウドを手で制して、は紅茶を一口飲んだ。
うん、おいしい。


「確かにサー・ザックスはソルジャー2ndだし、対する私は一般兵だからね。3日後にはソルジャーになってるかもしれないけど、それでもせいぜい3rdでしょう。それに何より、君はずいぶん線が細い。完全な男性体型のサー・ザックスよりは、体の小ささを利用した戦い方を教えられる私の方がいい」


つまり。




「その役、引き受けよう。君は教え甲斐がありそうだしね」




それを聞いて顔を輝かせたクラウドに、は打って変わってにやりと笑いかけた。


「ただし。覚悟しておいてよ?私の修行はスパルタだから」


その顔を見たクラウドがぞくりと悪寒を感じたのは……まあ、仕方のないことだろう。