「…………何ですか、この辞令」
「見ての通りだ。さ、移動するぞー」
「ちょっと待てやコラ」
ぺらりと1枚の紙を渡して意気揚々と歩きだしたマズラディの肩をがっしとつかみ、は半眼でにっこりと笑った。
「何で私がいきなり1stに配属なのか、百字以内で詳しく説明してみやがれ?」
「目が笑ってねえぞお前」
背後にうずまく殺気にびくともせず、マズラディは豪快に笑う。
「いいじゃねえか、もともと1stにはなるつもりだったんだろ?」
「なるつもりでしたよ?もちろんなるつもりでしたよ?」
でもね。
「こんなに劇的な登場じゃないっての!ソルジャーになるっつっても最初はやっぱり3rdで、それから2週間ぐらいかけてじわじわ1stに上りつめようかなって、そう思ってたのに!」
「……それも充分劇的な気がするんだが……」
ぼそりとマズラディが突っ込んだが、はそれを美しく無視して頭を抱えた。
「これじゃ悪目立ちしすぎじゃないか……。面倒事は避けたいってのに」
「お前なら大丈夫だろ。そんじょそこらの奴には負けねえし」
「そりゃそうだけどさ」
もはや上司に対する尊敬もへったくれもないらしい。
の口からは完全に敬語が抜け落ちている。
大きくため息をつき、はマズラディに向きなおった。
「わかりました。 ただし、条件が」
「ほう?」
片眉を上げて先を促したマズラディに対し、は臆すことなく言葉を重ねる。
「一般兵を1人、私と相部屋に。私の弟子です」
「名は?」
「クラウド=ストライフ」
それを聞いた瞬間、マズラディの目が鋭くきらめいた。
「あの坊主か。確かに、腕は甘いが筋はいい」
「ええ。だからこそ、確かな師がついていないのが口惜しかった」
ちらりと笑みを交わしあって、2人はそれ以上何も言わずに歩き出す。
1つの部屋の前まで来ると、マズラディがノックもなしにドアを開け放った。
「クラウド=ストライフはいるか?」
突然現れたソルジャー総括に、少年兵達は慌てて姿勢を正す。
それに無頓着にマズラディが声をかけると、ベッドから立ち上がった金髪チョコボが返事をした。
「イエス・サー」
ぴしりと敬礼をしたクラウドにうなずき、マズラディはあっさりと言い放つ。
「お前をソルジャー舎に移動とする。階級は変わらんが、本日付けでソルジャーになった=と共同の部屋だ」
そんなマズラディの後ろからが顔を出すと、クラウドが大きく目を見開いた。
「師匠!?」
「そういうこと。早く荷物をまとめなさい、移動するよ」
「あ はい!!」
いまだに固まったままの少年兵らを尻目に、クラウドが弾かれたように動き始める。
どたばたと慌ただしい動きの後、ごちゃごちゃとまとめられた荷物を両手に提げたクラウドを見て、も足元のトランクを持ち上げた。
「それじゃ、行こうか」
「え……師匠の荷物、それだけですか?」
「うん。無駄なものは持たない主義だからね」
すっきりとした小さなトランクを見て、クラウドは膨れ上がった自分の荷物が急に恥ずかしく思えた。
さくさくと歩きながらけろりと答えたが、そんなクラウドの荷物の1つをさりげなく奪う。
慌てて取り返そうとするクラウドを制したところで、前方からやってくる人影に気づいて足を止めた。
「よ」
「サー・ザックス。お久しぶりです」
軽く片手をあげたザックスにちらりと微笑み、は軽く目礼する。
2人が知り合いだったことに驚くクラウドの横で、マズラディが軽くうなずいた。
「ザックス、後は任せた」
「イエス・サー」
おざなりに敬礼をしたザックスが、達に合図をして歩き始める。
後について歩きながら、クラウドがザックスに話しかけた。
「ザックス、師匠と知り合いなのか?」
「師匠?」
誰だそりゃと首を傾げたザックスに、苦笑したが助け船を出す。
何の脈絡もない彼の言葉からは、誰のことを指しているのかも読みとれなかっただろう。
「私のことですよ、サー・ザックス。3日前から師弟関係になりました」
「へえ……なるほどな。お前ならいい師匠になれるだろ」
にやりと笑って、ザックスはの肩を叩いた。
「それより、敬語はなしにしようぜ。同じ1stだろ?」
「1st!?」
「 あ」
知らせてなかった。
心底驚いた声をあげたクラウドに、うっかりしてたとが呟く。
「え、ちょ、師匠って1stなんですか!?」
「ああ……まあ、マズラディ氏の陰謀でね……」
遠い目になったを見てクラウドも口をつぐんだが、今度はの方がはっとした表情になった。
「サー・ザック……」
「ザックス」
「 ザックス!あなた、いつの間に1stに!」
訂正されたが律儀に言い直すと、ザックスは待ってましたとばかりににやりと笑う。
「やっと気づいたか、昨日ランクアップしたばっかなんだよなあ」
「……一応、おめでとうと言っておくよ」
なんだか複雑な気分になりながらも、が祝辞を述べた。
記憶によれば、クラウドの話から予想するだに、ニブルヘイムの一件が彼の1st初の任務だった気がするのだが。
……これから2年間、仕事ないのかな(しょんぼり)
「お?何しょぼくれてんだ? はぁん、さてはお前、俺を抜かせたと思って喜んでたろ」
「違いますよ……。まあ、どうでもいいんですけど」
「敬語はなしだろ」
ため息をついたの額を小突いてザックスが笑う。
そんな2人の様子を見ていたクラウドが、つまらなさそうにぽつりと呟いた。
「2人とも……ずいぶん仲がいいんだな」
「ん?」
「え?」
同時に聞き返した2人は顔を見合わせ、次いで同時に吹き出す。
「クラウド、お前、焼き餅妬いてんのか!?」
「可愛いねえ、クラウドは」
ザックスにはがっちりと首をホールドされ、には頭をなでられて、クラウドは真っ赤になってしまった。
何とかその状態から逃れようと腕を暴れさせるが、そんなものはソルジャーズの前では無力に等しい。
「違う!!」
「照れるな照れるな」
じゃれあう2人を目を細めて見ていたは、頃合いを見計らって口を開く。
「クラウド」
呼ばれたクラウドは反射のように背筋を伸ばし、素早く彼女を振り向いた。
「はい、師匠!」
その様子を犬みたいだなあと思いつつ、は小さく苦笑する。
「人前でとまでは言わないけど、ザックスや私の前ではその呼び名はやめてくれないかな。私は、君の友達であり、私の同僚である人の前で、形式ばった呼び方はしてほしくない」
「え……じゃあ、なんて呼べば 」
「。ただので構わない」
うろたえるクラウドにがそう告げると、クラウドがさらにうろたえ。
可哀相だから勘弁してやれよと言いたくなるほどのうろたえっぷりだ。
そんなクラウドを見事に放置して、ザックスがの肩に腕をかけた。
「おいおい、つれないこと言うなよ!俺たちも友達だろ?」
屈託のない笑顔を向けられて、は思わず一瞬言葉に詰まる。
出会って間もない相手に、こんなにも正面から好意を向けられるのは久しぶりだった。
「……友達?」
「おう!」
そろりと訊けば、即答で力強い答えが返ってきた。
「そ、か」
嬉しくなって小さく笑ったら、わしわしと頭をなでられた。
……一応私、年上なんだけどなあ……。
「ほら、着いたぞ。お前らの部屋だ」
「へえ……」
さすがソルジャー舎、静脈照合のオートロックだよ。
ぱっと見でそんな所見を出しつつ、は傍らのクラウドを見下ろした。
「クラウド、先に登録を」
「あ、はい」
あわてて機械を操作するクラウドに苦笑して、はその頭をこつりと小突く。
「 敬語もいらないよ。私達は、ザックスを間に挟んだ友達、でしょ?」
クラウドは驚いた表情で小突かれた頭を両手で押さえ、合成音に『もう一度照合登録をしてください』と言われて慌てて再び手をかざした。
そうしながら、ちらりとを見上げる。
「……」
「ん?」
「……なんでもない」
ただ呼んでみただけなのだと、クラウドが頬を赤くする。
……可 愛 い !(なんなのこの子……!)
思わずわしゃわしゃとクラウドの頭をなでつつ、は内心で盛大に悶える。
「ちょ、!やめろよ!」
「いいからいいから」
ぐりぐりぐりと思う存分なで回し、満足したところで手を離した。
むくれ顔で髪を整えるクラウドを無視して、その手で続けて静脈登録をする。
「よし、と。それじゃあ入ろうか」
新しい我が家へ。
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