同じ部屋に暮らしていると、必然的に相手の生活リズムや生活の癖が見えてくる。
クラウドの場合は割と几帳面であり、の場合は意外にルーズだということなど。


、朝だよ!」
「まだ平気……あと2時間寝る……」
「駄目!この間もそう言って、俺が帰ってくるまで寝てただろ!」


そんな朝もあれば、軽い任務明けのが非番中のクラウドを叩き起こして鍛練に連れて行くこともあった。


「ほら、起きた起きた!」
「ちょ……俺、非番日……」
「うっさい、こっちは任務明けで2時間睡眠だコンチクショウ!」


そんなこんなで共同生活を送るうちに、だんだんと2人の関係が以前にも増して「友達」らしくなってきた。
クラウドの態度にも遠慮がなくなってきて、「師匠」という呼び名が生活の中で口を突いて出ることもなくなった。




「あ、ザックスだ」
「え、またかよ」




気配を察して声を上げたに、クラウドが呆れた声を出す。
2人で顔を見合わせて肩をすくめるのとほぼ同時に、インターホンが鳴らされた。


「入っていいよ」


冷蔵庫から飲み物を出しながらクラウドが足でロックを解除すると、すぐさま黒髪のソルジャーが飛びこんでくる。


「よっ!」
「今日も元気だねえ。また急な任務?」


スケジュール外の出勤を知らせにきたのかとが訊くが、ザックスは曖昧な表情でかぶりをふるだけ。


「いや、今日は別の用事。その前にさ、昼メシ作ってくれねえ?」


どっかりとソファーに座りながらけろりと言うザックスにため息をついて、はクラウドと場所を交替した。
がっちゃんがっちゃんと鍋などを出しながら、クラウドにむかって声をかける。


「今日のリクエストは?」
「先週食べたやつ」


その返答にしばし考え。


「……ああ、八宝菜か。付け合わせのスープはオニオンでいい?微妙に合わない気もするけど」
「うん。どうせ余ってるんだろ?」


そうと決まれば、後は早いものだ。
ザックスがかなり多く食べることを前提にしていたら少々作りすぎた気もするが、まあ問題はないだろう。


「はいよ、お待ちー」

どかりと皿をテーブルに置いた瞬間から、彼らの食事は始まる。
ものすごい勢いでなくなっていく料理をちゃっかりしっかり食べながら、はそれで、とザックスを見た。


「さっき用事があるって言ったよね?ただご飯を食べにきただけってわけじゃないんだろうし、どうしたの?」
「あー……」


問いかけに食べる手をぴたりと止めて、ザックスが気まずそうに天井を仰ぐ。
しばらく何やら言いにくそうにうなっていたザックスは、やがて微妙な表情でを見た。


「あの、さ。、旦那を覚えてるか?」
   サー・セフィロス?彼がどうかしたの?」


セフィロスの身辺に何か問題があるのだろうか。

表情を改めたに、ザックスがぽんととんでもない爆弾発言。




「お前さ、旦那の補佐やんねえ?」
   は?」




のみならず、クラウドまで思考がショートした。

何がどうなってその提案に結びつくんだ?


「や、前までついてた補佐が死んじまってさ。新しく来たのがすっげえミーハーで、旦那が苛々して超怖いわけ。こないだついに切れてクビにして、今は俺が臨時でやってる。お前なら前に会った時にミーハーな反応してなかったし、お前さえいいなら、俺からサー・ラザードに推薦しとくけど……」


頬をかきながら気まずそうにぼそぼそと言い、ザックスはちらりと上目遣いにを見る。
彼の言葉を聞くうちに硬直から立ち直ったは、ちらりと傍らのクラウドを見て考えこんだ。


「……鍛錬をする時間は確保される?」
「仕事を早く終わらせりゃ、な」

「給料は?」
「1stの分に上乗せ」

「補佐って、事務?」
「ほとんどな」


そこまで訊いて、は小さくうなずく。


「やるよ。お金はあるに越したことはないし、事務処理も慣れてる。個人的にはサーに興味もあるし、鍛練ができるなら文句はない」


が答えた瞬間、ザックスの表情がこれ以上ないほど輝いた。


「いよっしゃ!助かるぜ、最近旦那の周りにブリザードが吹き荒れててさあ。おっかねえおっかねえ!」


俺も一緒にいんの怖えもん!


「怖すぎて誰も近寄れねえの。んじゃ、明日からよろしくな!」


晴れ晴れとした表情で肩をばしばしと叩かれたは、聞き捨てならないセリフに口元を引きつらせる。




「……誰も近寄れないような相手の補佐をやんのかよ……」




言いたいことだけを言って(食事だけはしっかりと完食して)そそくさと退散したザックス向けて、射殺せそうな視線を突き刺した。
実際の破壊力があれば、壁の3枚や4枚ぐらい軽くクリアして、目標を攻撃できそうだ。


……頑張れ」


気の毒そうな目でしみじみとクラウドに言われ、は無言ではらはらと涙を落とした。


「気を落とすなよ、な?明日はの好きな料理作って待ってるから」


一生懸命なぐさめようとしてくれるクラウドをじっと見つめて、はおもむろに彼をきゅうと抱きしめる。
突然のことに慌てふためくクラウドを無視して、がしみじみ呟いた。


「いい子だねえ……私、頑張るよ」


彼女がけなげな決意をしたところで、備えつけの通信機が鳴る。
誰からだろうと回線を開いた瞬間、のこめかみに青筋がたった。


『あ、あのさ。旦那、今日になってからまだ何も食ってないんだわ。そのメシ、持ってってやってくれな!』


口を挟む間もなくまくしたて、あげくブツッ!!と切られた通信に、の身体がわなわなと震えた。




「ザックスー!!」




空気がびりびりと震えるほどの気迫は、しかし部屋の中だけに木霊して消えた。