頭を抱えて苦しみだしたクラウドBに、ティファが慌てて駆け寄ろうとする。
それを手で制しながら、はただじっと彼の手を握り続けた。

彼女にできるのは、記憶を紐解くだけ。
その衝撃から守ることは、いかなでも不可能だ。


「信じてあげて。あなた達の、クラウドを」
「でも   !」
「大丈夫。きっと乗り越えられる、そう信じて」
「……っ!あなた、クラウドに何もしてあげてないじゃない!」


たまらずに叫んだティファに、セフィロスとクラウドが一気に殺気だった。

他人の記憶に触れることがどんなに彼女に負担をかけるのか、知らなくせにそんなことを言うのか。
相手の悲しみも苦しみも一緒に全て味わうというのに、それを「何もしていない」と言うのか。

あまりにも身勝手なその言い分に、しかし彼らを止めたのもだった。


「私は平気だから。それに、普通に考えたら、ティファの言うことももっともでしょ?」


逆に言うと、セフィロス達は知っているからこそ怒ることができるのだ。
いきなりやってきた不審者がただ手を取っただけで想い人が苦しみ出せば、それは怒りを覚えて当然だろう。
クラウドBの記憶がおかしいと知っていて、それでもなお好きでい続けるティファに、はむしろ好感を抱いた。


「私もクラウドも、きっと大丈夫。この子、根は強い子だから、乗り越えられるよ」
   


クラウドの呟きに小さく笑い、はさらに意識を集中させていく。


さあ、恐れないで。
彼は君にとって、とても大切な存在のはずだから。
その記憶を失ったまま生き続ける方が、きっと何倍もつらいから。


私がいると、全身全霊で呼びかける。
どんな君でも信じる仲間がいる。
ありのままの君を愛するティファがいる。


   だから、その扉を開いてごらん?


パンドラの箱。
開けてはならない、禁忌の扉。
その先にあるのは、つらくてもとても大切な思い出だから。


クラウドBが、核心に近づいていく。
それを感じながら、はさらに願いをこめた。


   ザ、」
「……うん」
「ザック、」
「…………うん」




「ザックス   !!」




叫んだクラウドBの瞳から、涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
その視線の先にはザックスがいて、本当に思い出せたのだとは胸をなで下ろした。
彼の意識と同調しすぎて貧血のような状態になってはいるが、すぐにセフィロスに支えてもらえたので、特に問題はない。


「ザックス、ごめん   !」
「うん、まあ、よくわかんねえけど、多分俺なら笑って許すんじゃね?」
「それでも、俺は……!」
「いいっていいって。多分、俺の好きでやったことでヘマして死んじまったんだろうし」
「……っ、俺のせいでお前は死んだんだ!!」


耐えきれなくなったように言葉を吐き出したクラウドBの横まで近寄って、ザックスがそのチョコボ頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「多分それも、俺が勝手にやったことなんだろうよ。お前は何にも悪くねえよ、クラウド。お前、いっつも俺を止める側だったじゃん」


押しこめられた奥底でずっとずっと泣いていたあの時の「クラウド」に向けて、ザックスが晴れやかに笑う。


「だからもう、気にすんなって」


な?と顔を覗きこまれて、クラウドBはこらえきれずにザックスの首に腕を回した。
肩に押しつけた顔から、小さく嗚咽がもれる。


「……結局、私ってこのために呼ばれたのかな?」


クラウドBを、本当の意味で「助ける」ために。
放置していても2年後には吹っ切れるはずだが、その2年間はどんなにつらいものだろう。
罪の意識にさいなまれるクラウド(B)を想像して、可愛い弟子にそんなむごい真似はさせられない!とが拳を握りしめた。
クラウドとクラウドBが混ざっていることは本人も重々承知だが、同じ顔が苦しんでいるのを知っていて放置するのは耐えられない。

そんな彼女に苦笑したセフィロスが、微かな殺気に反応して上を見上げた。
それとほぼ同時にも表情を引きしめ、ユグドラシルを喚び出す。
エアリス向けて真っ直ぐに降下してくる殺気を正確に見極めて   




「させるか!」
「甘いな」




2人で正宗を受け止めた。

今までの話の流れから何となく殺気の正体には気づいていたが、いざ自分と同じ顔を前にしたら、どっと疲れが出たらしい。
こめかみをおさえて頭の痛そうな表情をするセフィロスを、セフィロスBが驚愕した様子で見つめる。


「……何故だ?何故お前は、リユニオンしない?」
「お前なんぞとそんなものをしてたまるか。第一、俺はお前などではない」
「では何故、私と同じ姿をしているのだ?」


心底不思議そうなセフィロスBを忌々しげに睨み、セフィロスは低い声でうなった。


「……平行世界から来た。と言えば、お前は納得するのか?」
   よくわからんな」


理解する気ゼロなのが丸分かりなセフィロスBの腕を、がたむと叩いて気を引く。


「あのね、ちょっといいかな?」


その輝かんばかりの笑みに、クラウドとザックスが反射的にものすごい勢いで後ずさった。
セフィロスも、よく見るとうっすら青い顔をしている。
そんな彼らの様子に気づかず、セフィロスBは尊大に顎をあげた。


「何だ?」


どこまでも偉そうなセフィロスBににっこりと笑い、はひらりと手をひらめかせる。
そして。




すぱっこーん!!




どこからともなく取り出したハリセンで、思いっきり銀色の頭を張りつけた。
あまりにも想定外の事態に、セフィロスBも呆気にとられた様子だ。


隅の方でクラウドとザックスが「手加減してるな」「一応手加減してるな」「外見旦那だもんな」「そうだな、多分」などと話しているが、それすらも耳に入っていないようだ。


生まれて初めて人にはたかれた。
しかも、よりにもよってハリセンで。

驚きすぎて声も出ない様子のセフィロスBに、が恐ろしい笑顔で詰め寄った。