英二とかフジコとか桃とかからメアドを教えられて、タカさんがお寿司屋さんだって聞いて食べに行く!と約束してから六日。

何故か毎日のように部活に呼び出しくらってます(何故だ!?)

今日も「手伝ってー☆」と英二に呼び出されて、今まで部室にこもってデータの整理をしてました。

……これってもしかしなくても、乾の趣味のアシスト?
貴重なのか微妙だけど、何か嫌だなあ……。


さん、お疲れ様。部活終わったよ」
「あ、大石君。お疲れー」


マザーを先頭にしてレギュラーがぞろぞろぞろぞろ。


ちゃーん、疲れたにゃー」
「はいはい、重いから私に全体重を預けないようにね」
「えー」


えー、じゃないでしょ。
あんた達と違って、私はちいとも鍛えてない一般人じゃ!

ごろごろと懐いてくる英二(可愛いけど汗だく!)(イヤー!)を適当にあしらいつつ、乾に紙の束を渡す。


「はいこれ、今日の分」
「ありがとう、助かるよ」

「あ、
「ん?」


これはこれこれこうやってこのぐらい終わったと説明していたら、不意にリョーマに呼ばれた。
何かと思って振り向いたら、奴はさも当然のように平然と言いやがった…!


「マック、来るでしょ?」
「はい?」


What do you say?
今何を言った?


「これからみんなでマックに行くんだ。ちゃんも来ない?」


親切にありがとう、フジコ。
でもね。


「ごめん、私今日は行ってみたいところがあるんだ」
「一人で平気?」


何気にむかつくことを言って下さりやがったリョーマに、こくりとうなずく。
まさか遠出するとも言えないしね…。


「うん。リョーマ、お夕飯までにはちゃんと帰るから」
「わかった」


小走りに駅に向かって、電車を乗り継いで(そういえば某アーティストが、うちの(元)地元のローカル線の歌を歌ってたなあ……)バスを乗り継いで、そこに向かう。


ほんの好奇心だった。


私の家がある場所。


見慣れた景色になっていくごとに私の心臓はばくばく言い始めて、記憶と寸分違わない我が家(であった家)に着いた時には、思わず「ただいま」と言って入って行きそうになった。

両親がレンガを積み上げて作った花壇。
父の知り合いに頼んでつけてもらった、木製の小さなテラスもどき。

何もかも、私の記憶と同じだ。


けれど。




「ほらパル、行くよ!……んじゃ、行ってきまーす」
「気をつけてね」




お庭の手入れをしてるお母さんがいて、犬がいて……確かに愛されてる、こちらの世界の「私」がいた。

屈託なく笑って、普通の生活を送っている。
学校帰りなのだろう、うちの学校の制服を着たままだった。




   その後の事は、正直よく覚えてない。




気がついたら青春台に戻っていて、ありきたりにも公園のベンチに座ってぼんやりしていた。


あそこに私はいた。
じゃあ、ここにいる私は一体何なの?
私の存在意義は何?
私がここにいる意味ってあるの?


そう考えていたら、目頭が熱くなった。
こらえきれなくなって、周りのことなんて考えずに、ずいぶん久しぶりに外で泣いた。
しゃくりあげすぎて息が苦しくなっても、涙は止まってくれない。




「どうしたんですか?」



親切な人が声をかけてきたけど、とても答えられる状況じゃない。
何でもないとかぶりを振ってそれに答える。


「何でもなく見えませんて。どうしたんです?」
「大……じょぶ……」


早くどこかに行ってほしい。
その一心でようやっと声を押し出したのに、その人は全然去ってくれなかった。


「せやから、そうは見えんて!」


ぐいと押し付けられたものを見たら、男物のハンカチだった。
その気持ちは嬉しかったから、お礼を言ってそれを握り締めてさらに泣く。


どれぐらいそうしていただろう。
ようやく少し落ち着いて顔をあげると、てっきりどこかに行ったと思っていたその人が隣に座っててびっくりした。


「落ち着きました?」


落ち着いた声で柔らかく問いかける、関西弁のイントネーション。
水色ベースのチェックのズボンにテニスバッグ。

……侑士?


「はい……ごめんなさい、ハンカチ汚しちゃった」
「気にせんでええですよ。   何かあったんですか?通りすがりの奴にぶちまければ結構楽になるかもしれんし、話してみてくださいよ」


涙でこれ以上ないほど濡れて、しかもしわくちゃになったハンカチを見ても、侑士は嫌がる顔も見せずに笑ってくれた。


いい人だと思った。
言い方がうまいと思った。

話してもいいのかと、そう思ってしまう。




「……聞いて、くれます?」
「俺でよければ」



恐る恐る訊くと、優しい笑顔が返ってくる。


「でも、絶対頭が変な奴って思われる……」
「思いません」


一番心配していたことをあっさりきっぱりと否定されて、また涙が出てきた。
   この人なら、平気かもしれない。


他の世界から来たこと、本当は高3なのにこちらでは何故か中3になること、こちらにはこちらの自分がいたこと、自分の存在意義がわからなくなったこと、不安で怖くてつらくて仕方ないこと。


全部全部侑士に話した。


肌身離さず持ってる学生証を見せたけど、馬鹿にされるか狂人扱いされるかのどっちかだって覚悟してた。
でも、うつむいてた頭に乗せられたのは、侑士の大きな暖かい手。




「つらいなあ。自分、本当はずっと不安だったんやろ?誰にも言わんで、今までよぉ一人で頑張ったな」




偉い偉いとわしゃわしゃなでられて、また嗚咽が出てしまう。
侑士は何も言わずに、ただ傍にいてくれた。


「ありがとう、ちょっとすっきりした。私、っていうの。あなたは?」
「忍足侑士や。……ほんまは年上やけど、タメ口でええか?」


今ここで同い年ならば、敬語を使われる方がくすぐったい。
だから素直にうなずいた。


「うん。ごめんね、ハンカチ洗って返す」
「ええって、そんなんいくらでもあるんやし。   あ、これ俺の携帯。苦しくなったら、ここに連絡よこせや?」


そう言って侑士がくれた紙を握り締めて、私は大きくうなずいた。




大丈夫、私はまだやっていける。
一人じゃないよ、だって君がいる。