さて、真面目な受験生の私(大嘘)が珍しく数学(菜々子さんの昔の教科書をもらった)(どうしてあったのかは謎)(むしろ何で私文志望の私が数学をやってるんだ?)をやっていたら、フジコからメールが入った。
『今すぐ駅に来て。10分で来なかったら乾汁ね』
……マジかよ!?
服はまあいいとして、頭はボッサーだぞ?寝癖直すのだけで3分はかかるぞ?
とりあえず。
「乾汁は嫌だ!!」
半泣きになりながら30秒で荷物をまとめて、ついでにネックレスつけてピンクのリップ塗って、下に駆け下りてマッハで髪を直す。
「おじ様、車出してください!駅まで!!」
びっくりしてるおじさんをせかしてせかして駅まですっ飛ばし、やっとの思い出駅に着いたのはそれから9分57秒後だった。
「10分以内に来たよ?乾汁はなしだよね、不二君」
「そうだね、残念だな」
「人の不幸を見て喜ぶな!!」
にっこりさらりとえげつないことを言うフジコにくわっと怒って、そこで初めてレギュラー+1がいることに気づく。
「あれ?どしたの?」
ちょんと首を傾げて(あまりのキモさに鳥肌が立った)訊くと、英二がにぱっと笑った(可愛い!)
「遊びに行こう!」
「前から決まってたの?」
「昨日の部活の時っス」
今度は桃。
お前はいつも無駄に元気だよね……。
お姉さんに分けてくれよ。
「だったら言ってよ、リョーマ」
そしたらこんなに焦んなくてもよかったじゃん。
「、昨日帰ってからずっと菜々子さんの部屋できゃあきゃあやってただろ」
「あ」
そうだった。
昨日は菜々子さんがお化粧してくれるっていうから、ずっと2人で騒いでたんだ。
思いの外いい出来だったから大人っぽいドレスを着てみたところで、いきなりリョーマが入ってきたんだっけ。
結局何も言わないで出てったんだけど、顔が赤かったなあ。
あれは可愛かった!
「あの時、この事言おうとしてたの?」
「まあね」
「あっちゃぁ……ごめんね、でも言ってくれてもよかったのに」
本当にそう思ったから言ったのに、何故かリョーマは黙ってしまった。
「リョーマ?」
ちょっとかがんで顔を覗き込むと、頬がうっすら赤かった。
照れてる?拗ねてる?怒ってる?
……どれだろう。
「……何でもない」
むっつりして言ってるけど、全然そうは見えない。
……まあ言いたくなさそうだし、別にいいけどね。
「……まあ、いいか。どこ行くの?」
「カラオケ!」
びしっと指を立てて英二が声高らかに宣言した。
カラオケか……。
部長とか歌えるわけ!?
あ、演歌とか?(失礼)
みんなでぞろぞろと移動して、英二とか桃とかはやる気満々。
マイク握ったら離さなそうだよね、こいつら……。
「いっちばーん!俺いきまーす!」
元気いっぱいに英二が手をあげ、波乗りジョニーを歌い出した。
まだ夏は早いぞー、エージ。
まあ、楽しそうだからいっか。
「次、俺っス!」
桃はサウダージ。意外に上手い……。
桃にこれが合うなんて意外だなあ。
運ばれてきた食べ物飲み物をぱくつきながらぼんやりと聴いていると、隣に座っていたリョーマがつんつんと私をつついた。
「何?」
「は歌わないの?」
小首を傾げて訊くリョーマ。
可 愛 い !
攫いてえ!(やめなさい)
思わず抱きつきたくなるのを必死でこらえつつ、リョーマの頭を撫でて首を傾げ返す。
「どうしようかねえ……歌うのは好きなんだけど、他の人の前でマイク通してはちょっと」
頭をなでても、リョーマは別に嫌がらなかった。
嬉しいけど、嬉しいけど、リョーマが嫌がらないのはちょっといやかなり不思議……!
「……嫌じゃないの?なでられるの」
「別に。っていうか、訊くぐらいならやらないでよ」
肩をすくめたリョーマにごめんと謝って、ほとんど無意識にやっていた自分に苦笑する。
「なんでかなあ。なでられるのが好きだから、かな?大好きだよって言われてるみたいで」
元来、私はスキンシップが好きな方だ。
寂しいからなのか、甘えたがりなのかはわからないけど。
「ふうん……」
口の端をつり上げて笑うと、リョーマはついと手を伸ばして私の頭をなでた。
「なっ……!?」
いきなりのことに驚いて身を引くと、リョーマはますます笑みを深くした。
「子供。」
「 リョーマに言われたくないよ」
「俺は精神的なことを言ってるの」
13歳に言われ、(精神年齢)17歳の私は立つ瀬がない。
「……リョーマの馬鹿」
ぼそりと呟いて、くやしまぎれにちっちゃい身体をぎゅっとしてやった。
「うわ、ちょっと!?」
「聞ーこーえーなーいー」
生意気リョーマがちょっと慌てた声を出すけど、知るもんか。
兎は寂しいと死んじゃうんだい!(違)
少し腕に力をこめると、リョーマは呆れたように息を吐いて腕をほどかせやがった。
ちっ。
え?
「これでいいでしょ、チャン?」
隣から前に移動して、私の膝の上にひょいと座ったリョーマが、くるりと振り向いてにやりと笑う。
「むかつく、年下のくせに」
くやしかったけど確かに誰かに抱きつくのは久しぶりで嬉しかったので、腕を回してぎゅっと抱きついた。
「まだまだだね」
お得意のセリフを私に浴びせつつも、リョーマはおとなしく腕の中に納まっている。
拒絶されないことが、この上なく嬉しかった。
「あーっ!!おチビ、何やってんの!?ずるいずるい、俺もーっ!!」
ちょっとじんわりきたところで、ちょうどマイクを握ってた英二が、あろうことかマイクを握ったままで大声を出す。
ちょっと、キーンていってるよ!音割れてるよ!
耳痛い痛い!!
「英二うるさい!こっちおいで!」
意地と根性でリョーマから手を離さずに怒鳴ると(我ながらすごい)、英二はご機嫌な猫のように喉を鳴らしそうな勢いでやってきた。
「ちゃん、こっちこっち!コアラ座りしよ」
「はいはい」
結局英二の脚の間にちょんと座って腰に腕を回され(太さがばれるからやめてくれよ……!)、さらにリョーマを抱きしめるという妙な格好でカラオケと相成りました。
何この状態。
ついでに、リョーマの洋楽(アーティストはわからなかった)とフジコのGRAYと部長の桜坂がめちゃめちゃ上手かったことも言っておこうと思う。
……ちなみに私は、英二と2人でピンクレディーメドレーなんぞを歌ってたりして。
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