誰だろう、そんな紳士的なことをする人は。
てか、こんなことできる子がいたんだ?
氷帝っ子達にはこの上なく失礼な発言だけど、半分以上本気でそう思いながら顔をあげると、そこにいたのはヒヨだった。
……うん。そりゃあ、私だってわかってはいたよ?
そんなに簡単に、素敵な出会いなんてないもんね……。
ヒヨじゃあ素敵な出会いとは言えないもんね……(もう出会っちゃってるから……!)
「大丈夫ですか?気をつけてください」
ああ、こんな状況じゃキノコも白馬の王子様に見えるわ……。
ありがとう、ヒヨ。
「は、い……。ありがとうございます」
思わぬ紳士っぷりに反応が遅れてしまったけど、考えてみれば当然のことかも。
実家は道場だし、その辺きっちり仕込まれてるのかも。
「それに、俺に敬語はいりません。貴女の方が年上ですから」
不意に思いがけないことを言われて、思わずぱちぱちと瞬いてしまった。
ヒヨはすごく真面目な顔をしている。
……上下関係、きっちり考える奴だな。
「あ、はい じゃなくて、ええと、うん」
「うーん……だれ……?」
やっとこさヒヨにうなずいたところで、樺地の方から寝ぼけた声がした。
ちょっと舌ったらず気味の、可愛い言い方。
「……担がれてる……」
「担いどる方が樺地、担がれとる方が慈郎や」
私とほとんど変わらないくらいのジロちゃんが、見上げるほどでかい樺地の肩に担がれてるのは、かなり壮観だ。
思わず圧倒されて後ずさりそうになったけど、とりあえずぐぐっとこらえて一歩近づく。
「こんにちは、初めまして」
ぺこりと軽く頭を下げると、樺地は素直にお辞儀をし返してくれた。
「ウス」
対するジロちゃんはというと、樺地の肩の上から身体をねじって、まだぼんやりした目で私を見ている。
「だれぇ?」
一生懸命眠気と戦ってる様子が可愛くて可愛くて、我慢できずに思わずジロちゃんの頭をなでながら笑いかけてしまった。
「侑士の親友の。よろしくね、慈郎君」
「、ちゃん?」
「うん」
かわいいかわいいかわいいかわ(強制終了)
お持ち帰りいいですか?
「 かわEーv」
うおっ!?
よよよ邪なことを考えてたら、ジロちゃんにぎゅっとされてしまわれましたですのことよ!?(落ち着け)
「じじじ慈郎君!?」
「ちゃん、あったかくてふわふわしてていい匂いー」
そんな幸せそうに笑わなくていいから!まどろまなくていいから!
ってか寝ないで!
恥ずかしくて死 に そ う !!(ギャー!!)
それよりも、寝た人間は重いって事を思い出そうよ自分。
支えきれな……!
「平気かよお前」
「……べった じゃなかった、景君」
がくんと崩れ落ちそうになった私を、べったまが腕をつかんで(とって、じゃないとこがポイント)(わしってつかまれた……!)支えてくれた。
「ありがと」
「本当にな。 おらジロー、起きやがれ」
べったまがジロちゃんをがすっと殴る。
ジロちゃんは「むー」って痛そうな顔をして、私の肩口に額をこすりつけた。
可愛すぎて死んじゃいそう……!(大丈夫か)
でも、あんなに力いっぱい殴られても起きようとしないジロちゃんも、ある意味強者だと思う……。
やっぱり、氷帝っ子も変な子ばっかだ!
「ちょっと、可哀相でしょ」
殴られたところをなでながらべったまを睨む。
ちくしょう、美人だぜこのホスト!
「あぁん?」
べったまは器用にも片方の眉だけを上げて私を見た。
「大体、何しに来たんだよお前」
「あ」
そうでした。
べったまに言われて、ようやく本来の目的を思い出した。
危ない危ない、このまま帰っちゃうところだったヨ!
「ゆーしー、ちょっとこっち来て」
「何や?」
ぱたぱたと侑士を手招いて、ポケットから例のハンカチを取り出す。
「これ、ありがと」
差し出したら、侑士はすごくびっくりしたみたいだった。
「何や自分、ほんまに律儀やなあ」
「だって悪いじゃない。あれから全然予定合わなくて、会える時間なんてなかったし。 ところで」
そう。
とっても大事なこと。
「用事も終わったから帰りたいんだけど……この人、どうしようか?」
「転がしとけ」
「駄目!可哀相でしょ」
べったまなら本当にやりそうだ!
思わずジロちゃんをぎゅっとしてガードする。
「……ちゃん、帰っちゃうの?」
眠そうな声が腕の中から聞こえて、少しだけ腕の力を緩めてジロちゃんを見た。
「慈郎君、起きてたの?」
まさか起きているとは。
「半分だけ、ねえ、帰っちゃうの?」
う……!!
そんな、小動物系の目で訴えかけるように見ないで!
決心が鈍るから!
「だ……だって、このままじゃ部活できないでしょ?」
ね?
頑張ってそう言ってみたら、ジロちゃんったらとんでもないこと言いました。
「ちゃんが膝枕してくれたら頑張るー」
「え……」
それはちょっとさすがに、どうしたものでしょうか。
「こらジロー、にも用事があるんやで。困らせたらあかん」
見かねた侑士がそう言ってくれたけど、それを聞いたジロちゃんはすっごく悲しそうな顔になった。
…………。
「景君。もしよければ、しばらく見学させてもらいたいんだけど……いいかな?」
「いいのかよ、お前」
言外にこの後の予定はいいのかと訊いてきたべったまにうなずいて、ちょっと考える。
「うーん……多分、そんなに急ぐって訳じゃないと思うし。ちょっと待って」
携帯出してぴぴぴのぴ。
「あ、おじ様、です。帰るのがちょっと遅くなりそうなんですけど……いいでしょうか?」
『おー、全然いいって。リョーマが帰るまでにはよろしくな』
「はい」
ぺっと切って、べったまを見てうなずく。
「平気だって。慈郎君が練習するまでここにいるよ」
「甘やかしすぎじゃねえか?」
眉を顰めて宍戸が言うけど、別にいいもんねー。
だってジロちゃん可愛いし(ぇ)
「それで慈郎君がやる気になるならいいよ。迷惑だって言うなら、もちろん帰るけど」
迷惑だって言われてまで居座るほど、神経図太くないし。
太郎(43)には会ってみたい気もするけどね。
「どうすんだ?跡部」
「 っ、ちっ」
その舌打ちは「癪だが仕方ねえ、許してやる」って翻訳してもいいんだよね?
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