ぎんぎんに冷やしておいた奥の部屋。入った瞬間、鳥肌がたつ。
「寒……」
足早にエアコンに近づいて、冷房直下に型を置いた。
ここでざっとあら熱をとって、後は冷蔵庫に入れるつもりだ。
こんなことやったことがないから大丈夫なのか不安だけど、それでも時間がないんだから仕方がない。
「うわっ、寒っ!!」
「……がっくん、だから立ち入り禁止だって……」
いきなりドアが開く音がして、誰かと振り向く前に阿呆っぽい悲鳴が聞こえた。
寒いなら入ってこなければいいのに、それでもこっちに近づいてくる。
きらきらと好奇心いっぱいの目で私を覗き込んで、がっくんは首を傾げた(可愛い!)
「なあなあ、ここ何でこんなに寒いんだ?」
「ケーキを冷やしてるの。完全に冷えないと型抜きがうまくいかないからね」
「へえ!」
寒いからとぴょんぴょこ跳ねてるがっくんの腕をさすってあげながら、早く出ようとうながす。
「凍えちゃうよ」
寒い寒いと2人して騒ぎながらみんなのところに戻ると、ものすごい変な目で見られた。
でもいいもんねー、がっくんとは通じ合ってるし。
2人でえへへと笑いあう。
「何なんだよお前ら」
「別にぃ?」
怪訝な顔の宍戸にがっくんが笑う。
可愛いなあ、もう!
キッチンに戻ってやり残したことをやって、生クリームを泡立てる。
んー、砂糖どれぐらいかな?
こういうの、自分じゃどうにもわからないんだよねえ。
「何かお手伝いすることはありますか?」
「あ、ヒヨ君」
いいところに。
「ちょっとこの味見てくれる?」
ちょうど指ですくって味見をしてた生クリームを、そのままヒヨに突き出す。
「え 」
……なんでそこで固まるかな。
別にいいじゃん、だってヒヨの手汚いんだもん。
生クリームだってあの人数で分けるんだし、なるべく無駄な味見は避けたい。
「自分じゃ甘さってよくわかんないんだよね」
後ずさりするヒヨにさらにずずいと手を突き出すと、ヒヨは観念したように息を吐いておそるおそるクリームをなめた。
舌が少し、指に触ってくすぐったい。
「それでいいかな?」
「……いいんじゃないですか?」
「そう?よかっ 」
…………ちょっと待て。
もしかしなくても私、今すごいことしなかったか?
友達とかに対するような感じで気軽にやっちゃったけど、ヒヨは男じゃないか!(ギャア!)
ああ、顔が熱いヨ……!
「……もう少し、自覚してください」
「ごめんなさい……」
ヒヨもこっちに負けず劣らず顔が赤い(こっちは可愛くてラッキーだけど!)
「あ、あああああとは、こっちのお皿持ってってくれる?もうできあがった料理だから」
「わかりました」
ヒヨが料理を持って行った後、ようやく理性的に動けるようになって手を洗う。
ヒヨの少し骨っぽい大きい手と、ちょっとだけ触った舌の感触がなかなか消えなくて、ちょっと恥ずかしかった。
そうこうしてるうちにジロちゃんが来て、侑士が下まで迎えに出た。
相変わらずジロちゃんはジロちゃんで、何で呼ばれたのか全然気付いてないみたい。
「電気消せ電気」
「全員クラッカー持ちましたか?」
「料理の上では鳴らさないでよー」
「うわっ、何か踏んだ!」
「馬鹿野郎、俺の足だ!」
「いてっ、跡部が殴ったー!!」
「がっくん静かに!景君もいじめないの!」
「……もうすぐ、芥川さんがいらっしゃると思うんですけど」
ヒヨのその一言で、みんながぴたっと静まった。
強いぞヒヨ!
がちゃりとドアが開く音がして、通路の明かりが家の中に入ってきた。
「まあ入りー」
「何か暗いよ?電気つけなくていいの?」
不思議そうなジロちゃんの声がリビングに入ってきたのを合図にして、ちょたがぱっと電気をつける。
「うわっ……!」
急激な光の量の変化についていけずにジロちゃんが目をつぶった瞬間を狙って、クラッカーを一斉射撃!
「Happy Birthday、ジロちゃん!!」
いち早く私がそういうと、ジロちゃんは目を開けてびっくりしたように瞬いた。
「みんないる!」
「おめでとう、ジロちゃん!」
まだちょっぴり状況がつかみきれてない感じのジロちゃんにぎゅーっと抱きついたら、ジロちゃんは首を傾げて私を見て、少ししてから顔を輝かせた。
「え、嘘、ちゃんだ!!」
「そうだよー、久しぶりv」
私だとわかった途端に、ジロちゃんはぎゅーっとし返してきて(ちょっと苦しかったけど許す!)、嬉しそうに頬ずりをしてくる。
可 愛 す ぎ な ん で す け ど !(私にどうしろと!?)
「うわーい、ちゃんだー!かわEーvv」
「あはは、ありがとーv」
んもう、何でこのホスト達はこんなに可愛い子揃いなのかしら(一部除外)
「おうちでいっぱい食べてきちゃった?侑士と私で一応作ったから、食べられたら食べてね」
「マジマジ!?全然平気だよ、食べられる!」
目を輝かせたジロちゃんを見て、ちょっと安心。
他のみんなは何も食べてないから料理が余るって事はないと思うけど(むしろ買ってきたお菓子まで食い尽くしそうなほど飢えた目をしている)(さっきまでちょたに料理の番を頼んでた)(主にがっくんやべったまから死守)やっぱり主役に食べてもらえないのは寂しいもんね。
「はーい、ジロちゃんは手を洗ってきてねー。そしたら食べよ!」
「やった!俺もう腹減って死にそう!」
がっくんがぴょんぴょこ跳ねてるのを侑士がなだめ、ジロちゃんが手を荒いに行っている間に、ケーキを冷蔵庫に移動。
「うー、寒い寒い。ちょた君ヘルプー」
ガンガンに冷えた部屋から帰還して、ちょたの腕に抱きつく。わんこわんこv
「え!?あ、あああああのっ、さん!?」
「こら、やるなら俺にしい!」
「侑士それポイント違う」
ちょたの腕にしがみつきながら、微妙に変態っぽいセリフを吐いた侑士にずびしと突っ込む。
「娘の一大事に何を言っとんねん!!」
侑士がぐぐっと握りこぶしで力説する。
娘かよ。
「いやー、変態よ!変態がここにいるわー!!」
ふざけて叫んだら、がっくんまでおもしろがって乗ってきた。
「変態だ!」
きゃいきゃいはしゃいでたら、ちょうど戻ってきたジロちゃんにも聞こえてたらしくて。
「えー?ゆうし、変態なの?」
なんて、首を傾げられてしまった。
「ちゃうちゃう。ジロー、マジにとるんやないで」
「ふーん」
食事をしてケーキ食べて(何とか冷えてた)ゲームやって盛り上がってたら、ヒヨがちょっと離れたところでぼんやりしてた。
やっぱ、つまんないのかな。団体行動苦手っぽいもんね。
近づいていったら、ヒヨが気づいて顔をあげた。
……うーん、前髪で目が見にくい。
「ヒヨ君、つまんない?」
「いえ……そういうわけじゃありませんが」
「いいよ、無理しなくて。ヒヨ君は大人っぽいもんねえ……隣、いい?」
うなずいたのを確認してから隣にすとんと座って、つい今しがたまで自分がいたゲームの輪を見る。
「宍戸君も景君も、何だかんだ言って結構ああいうことやってるよね。私なんて大好きだし」
手に持った缶のプルタブをぷしっと起こして一口飲んだら、何となしにそれを見てたヒヨにものすごい形相でがっしと腕をつかまれた。
「それ、酒じゃないですか!」
「そうだよ?もうみんな飲んでるし、私もお酒には強い方だし。ヒヨ君も飲む?」
ほら、と飲みかけのサワーを差し出すと、ヒヨの耳が赤くなった。
「……だから、そういうことはやめて下さいと……」
「えー?だって私、よくリョーマと回し飲みしてるよ?」
あ、しまった。
リョーマの名前出しちまった!
……まあいっか、どうせわからないだろうし。
それに、リョーマとよくファンタを回し飲むのは本当だしね。
「アルコールで消毒されてるし、まあ平気だと思 」
その時、私は見た。
べったまの手が、1つの缶ビールに伸びたのを!
「景君、銀河高原ビールは私の!!」
そう、私の大好きな銀河高原ビール(クラシック)!(本当に高校生かよとかいう突っ込みは却下)
「どこに書いてあんだよ」
「バーコードの上」
冷蔵庫に入れる時に、『予約済。』とバッチリ書いておいたのだ☆
「 ちっ」
舌打ちして戻そうとしたべったまに、仕方がないので心優しいちゃんは少しだけ分けてあげることにした。
「半分なら飲んでいいよー」
きっかり半分ね!
そう言うとべったまはにやりと笑い、そのままぐいっと飲んだ。
多分もう私が飲めないだろうと踏んで、勝った!と思ってるんだろうけど、まだまだ甘いな!
「半分以上飲んだら怒るからね!」
「な 飲む気かよ!?」
「当たり前でしょ?何か不都合があるの?」
女子校だけど、元の世界でも予備校じゃ普通に男子とも回し飲みしてたもんねー。
今でもリョーマとしてるし、抵抗なんてありゃしないさ!
「ところでヒヨ君、サワー飲まないの?」
「 いただきます」
すっっっごくためらった後に、ヒヨがサワーをぐいっと飲んだ。
おお、いい飲みっぷりだ。
「お酒、弱いの?」
ヒヨの家はきっと純和風で厳格だから、成人するまでお酒は飲ませてもらえないんだよ!
勝手にそんな想像をしていたら、ヒヨがゆるくかぶりを振った。
「いえ、そんな事はありません」
あら、飲ませてもらってるんだ。
「じゃあ、強いの?」
「どちらかといえば」
……畳にあぐらをかいて、着物姿におちょこで清酒を飲むヒヨ。
似合う!!(イエス!)
見てえ!!
そんな風にして終わったジロちゃんの誕生日。
終電に間に合わなくなって侑士の家に泊まったのは……まあ、ご愛嬌。
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