「んじゃ、俺らは部活行ってくるわ。オートロックやないし、勝手に帰って構わんで」
「わかった。行ってらっしゃい」


そう言った瞬間、何故か侑士の顔がでれっと崩れた。
正直ちょっと引いた……。


手を振って侑士達(家が遠くて帰れなかった連中も泊まった)を送り出すと、みんなが食い散らかしたゴミを片づけて部屋の掃除をして帰った。
おじさんもおばさまもお帰りなさいと温かく迎えてくれて、今更ながら、ああ、侑士は帰ってもお帰りなさいって言ってくれる人はいないんだなあと、少し寂しくなった。


「リョーマ、怒ってました?」
「心配してたわよ」


何となく後ろめたくて小さい声でおばさまに訊いたら、くすくす笑いながら教えてくれた。


「昨日、泊まるって連絡くれたでしょう?あの後からそわそわしててね、どうしたのって訊いても別にって言うくせに、ちゃんが泊まってるのはどこだなんて訊いてきたりしてね」
「そうですか……」


むっつりしながらいらいらと部屋の中を歩き回るリョーマの姿が目に浮かぶ。

悪いことしたかなあ……。
帰ってきたら謝らなくちゃ。



「ただいま」



なんて思ってたら、もうリョーマが帰ってきた。
おいおい、まだ昼だぞ?部活は夕方までだろ?




   ?」




玄関で訝しげな声がして、次いでばたばたと階段を駆け上がってくる足音がした。
リョーマの部屋を通り越して、それは私の部屋の前で急停止する。
次の瞬間ばん!とものすごい勢いでドアが開いて、おっきな目をさらに大きく見開いたリョーマが立っていた。


「お帰り」
「…………どこいってたのさ」


笑いかけたら、リョーマがたちまち不機嫌な顔になる。


「友達の家。リョーマの知り合いとしかつきあってないわけじゃないんだよ?」


だって、氷帝ともルドルフとも不動峰とも山吹とも知り合いになりたいしね(ついでに立海と六角その他もろもろも!)
なのに、リョーマはますます不機嫌になった(わがまま!)




   心配した?ごめんね」




テニスバッグしょったままで、リョーマは入り口に突っ立っている。
桃の自転車の音がしなかったから、多分歩いてきたんだろう。

手招きすると、リョーマは不機嫌そうに、だけど意外と素直に近づいてくる。


「部活は?」
「部長に帰された」
「駄目でしょ、ちゃんと集中しなきゃ」


こっちは座ってリョーマは立ったままだから、頭に手が届かない。
仕方がないから精一杯手を伸ばして頬に触れる。


「別に……いいじゃん」
「よくないでしょ。レギュラーでいたいんでしょ?」


リョーマの肩からテニスバッグをずり落として、そのまま腰に手を回して膝の上に抱っこする。


「リョーマはすごいんだから、テニスやっててほしいの。私から見てもリョーマがテニスが好きで、すごく頑張ってるのわかる。テニスはメンタル面も大きいんでしょ?精神も鍛えなきゃ」

「……が悪い」
「こら」


めちゃくちゃ言うな!
あんたの精神面はあんたの鍛錬の問題だろ!?


拗ねたように呟いたリョーマの頬をちょっとつまんで、思わず苦笑してしまった。


「もっかい部活行こ。私も一緒に行くから」
「いいよ、親父とやるから。もやってみる?」
「いえ、滅相もない」


体育は苦手なんだってばよ!


「遠慮しなくていいよ」
「遠慮ちゃうわ!」


どこまでもマイペースなリョーマに突っ込んで、リョーマを膝から落とす。


「大体、こんな服でどうやってテニスやって言うのさ」


ひーらひらの服をつまんでみせたら、リョーマも諦めたように舌打ちをした。




「じゃあ、そのままでいいから見てて」
   うん」




何だ?
いつになく甘えてくるな、リョーマ。




「今日のリョーマ、何か可愛い」




思わずぽろりとこぼしたら、リョーマはむっとした顔になった(か わ い い !)


「男が可愛いって言われても嬉しくないんだけど」
「くやしかったら、かっこいいって言わせてみな」


立ち上がってぎゅうと抱きしめる。
やっぱり10cm以上低いと可愛いわv




「……こんにゃろ」




悔しそうにリョーマが呟くのが聞こえる。
それを知らぬ振りで、さらに強くぎゅっと抱きしめた。


「うふふふふふ。さあ、おじさまとテニスしてらっしゃい」


ひーらひらと手を振ってリョーマを追い出した後、ひとまずお風呂に入って着替えた。
侑士の家でも入ったけど、やっぱり昨日と同じ服を着たから気持ち悪い。
さっぱりしたところで、時間を確かめる。


ちょうどお昼時。
よし。


   はい』
「あ、手塚君。です」


祝☆初電話!ではなく。


「今日はリョーマがごめんね。あんまり怒らないであげて?」
『何かあったのか?』
「私が外泊したの。それでずいぶん心配したらしくて」


あっさり白状したら、部長が沈黙した。
……えー?もしかして、怒っちゃったりする?




『……無断か?』




いやん、低い声がちょっと怖い☆


「違うよ、今日は帰れませんってちゃんと電話入れたもん。友達の誕生日だったのよ」


まさか氷帝のジロちゃんですなんて言えないから、そのあたりはきっちりぼかして。


「でも、友達がいることなんて全然言ってなかったから、すごく心配したみたい。リョーマが帰ってくる直前にこっちに戻ってきたの」
『そうか』


部長が軽くうなずくのが目に浮かぶ。


「うん。それで、その……できれば、お泊まりしたってことは、みんなには内緒にしておいてほしいな、なんて……」


この間の尋問でもう懲りました、はい。



   わかった』



やった!
部長万歳!!


「ありがと!さすが手塚君、大好き!」


大喜びで電話を切ると、思わずその場で小躍りをしてしまった。
だってあの恐ろしさ、体験した人じゃないとわからないヨ!(ガタブル)

部室の椅子に1人座らされて、その周囲にずらりとレギュラー人に並ばれたら、リンチ以上に怖いことうけあいだ。




怖いよ怖いよ怖いよー!(侑士助けて!)(うわーん!)




部長ならまず約束は破らないしね、うん。


これで一安心と息をつくと、テニスコートでいらいらしてるであろうリョーマのところに向かおうと腰を上げる。
案の定理不尽に怒られたけど、その後ぶーたれた顔で甘えられたからよしとしよう!!