おばさまのお遣いで買い物に行った帰り道、近道しようと入った道の途中で、パァンという耳に慣れた音がした。
見上げてみれば、長い階段に続く公園。
もしかしたらもしかしたりする?
どきどきしながら階段を上っていくと、やっぱりストリートテニスのコートがあった。
しかも杏ちゃん発見!(キャー!!)
ああ、何て可愛らしいのかしら……(うっとり)
とてもあの大仏様の妹とは……!
や、目元はちょっと似てるけど。
うっとりと杏ちゃんに見惚れていると、その先で力強いスマッシュがきまった。
「すごい!」
思わず声をあげたら、めちゃめちゃ注目された……。
恥ずかしい……!!
「あなた、ここに来るの初めて?」
両手で熱い頬を押さえてうつむいていたら、すぐ側で明るい声。
ビバ!杏ちゃんが話しかけてくれたヨ!
小躍りしたい気分をぐぐっとこらえて、同じように笑顔を向ける。
「あ、うん」
「テニスやるの?」
きっとここに来る女の子、少ないんだろうなあ。
目が輝いてる。
「ううん、たまたま通りがかっただけ。居候してる家の人がテニスやってたから、つい……」
「そうなの……」
ごめんね、杏ちゃん。私もテニスできればよかったね。
本気でがっかりしてる様子の杏ちゃんにちょっと心が痛んだけど、できないものはどうしようもない。
「でも、テニスうまいんだね。それはわかったよ」
「ありがとう」
そのことだけは本当にわかったからそう言うと、杏ちゃんはくすぐったそうに笑った。
「私、橘杏。よろしくね」
「私は。 あのね、私まだこっちに来てから少ししか経ってなくて、あんまり知り合いとか友達とかいないの。だから、仲良くしてくれると嬉しいな」
「もちろん!」
差し出された手をぎゅっと握られて、思わず頬が緩む。
一瞬の迷いもないその行動が、無性に嬉しかった。
「携帯持ってる?アドレス交換しましょ」
「うん」
携帯の番号を教えあって、スカートが汚れるのが気になったけど、杏ちゃんにならってその場に座ることにした。
「やってみる?」
「ううん。この服じゃ、やりたくてもできないし……」
テニスをするにはおよそ適さないスカートをつまんでみせると、杏ちゃんは残念そうに眉を下げる。
「ごめんね、杏ちゃん」
「いいの、気にしないで」
気にしますよ!!
可愛い可愛い杏ちゃんにそんな顔をさせるなんて、は悪い子!悪い子!!(キャラ間違ってるよ)(ハリ○タかよ)
「今度は動きやすい格好で来るね。そしたら、テニス教えて?」
「ええ!」
うん、やっぱり杏ちゃんには笑顔が良く似合う。
今度ズボン買ってもらわなきゃなあ。
……買ってもらえるかな……(超不安)
まあ、駄目だったらお小遣いで買おう、うん。
杏ちゃんのためならば!!
「この辺に住んでるの?」
「うーん……ここからはちょっと遠いかな。今日はお遣いで通ったの」
「じゃあ、不動峰じゃないのね。学校どこ?」
杏ちゃんはごく普通に訊いたんだろうけど、やっぱり答えるのは気が進まない。
……やっぱり言わなきゃ駄目かなあ……。リアクションがめんどくさいんだよね。
「行ってないよ」
「え!?高校生?」
そうきたか。
どうでもいいけど、高校に通ってなければ高校生とは言えないよー(笑)
それに、確かに精神年齢は高3だけどさ、今は中3年齢なんだよね。
「いえいえ、今年で15だよ」
「年上なんだ……」
あ、がっかりしてる。同い年だと思ってたのかな?
元々は大人っぽいとか散々言われてたんだけどね、これでも!
まあ仕方ないか!こっちの子供はみんな、ありえないほど老けてるもんな!!
「でも、気にしないでね。私、年とかそういうの、あんまり考えてないし」
「え、あ うん」
ちょこんと首を傾げる杏ちゃん。
ああ可愛い。
うんうん、何を疑問に思ってるのかはよくわかるよ。
中学生なのはずに、どうして?って?
「それよりね」
思わずにやりと笑みがもれる。
さあ杏ちゃん、君はどんな反応だい?
「記憶もすっぽりないんだ!」
「……え!?」
「記憶喪失ってやつだよね。びっくりした?」
「うん……」
よっしゃ!ドッキリ大成功!(違)
「やった!あ、でもね。今の私もそれなりにおもしろおかしくやってるんだ」
だって、ここに来なければ、みんなとは出会えなかった。
苦しい時も叫びたくなる時もあるけれど、今が幸せだと言えるようになりたい。
「だから、変に気を遣ったりしないでね」
ね?とお願いしたら、杏ちゃんがくすりと笑った。
「ええ。よろしくね、ちゃん」
ギャラリーから少し離れたその場所で、隣同士に座って杏ちゃんの持ってるラケットを見る。
「いつからテニスやってるの?」
「小さい頃から。兄さんが始めたから、その影響を受けてね」
「お兄さんいるんだ!」
橘さんだ橘さんだ大仏様ー!!(キャー!!)
あのオトナな雰囲気が大好きよ!
クセありの不動峰を信頼むしろ崇拝だけでガッチリとまとめあげてる橘さん!
ス テ キ !!
「ええ。今中3だから、ちゃんと同い年ね」
「会ってみたいなあ……。杏ちゃんのお兄さんだから、きっとかっこいいんだろうね。杏ちゃんのこと、すっごく大事にしてそう」
うっとりとして言ったら、杏ちゃんは恥ずかしそうに笑った。
「かっこいいかはどうかは別として……いい兄さんよ」
「だろうね。杏ちゃん、愛されてますってオーラが出てるもん」
杏ちゃんを見てると、心があったかくなる。青学のみんなみたいなオーラだ。
「え?そ そう?」
「うん」
そうですとも、アナタを見てるだけで、私は幸せヨ!
「ありがとう……」
「いえいえ」
空を見上げると、もうずいぶんと日が動いている。
のんびり歩いてたうえに、寄り道までしちゃったからなあ……。
「もう帰らなきゃ。おばさまが心配しちゃう」
「それじゃ、後でメールするわね」
「うん、よろしく!」
軽く手を振って立ち上がり、階段を下りて歩き始める。
ちょっと行ったところで振り返ったら、階段の上に杏ちゃんがいて、こっちに向かって手を振っていた。
……見送ってくれてたんだ。
何だか嬉しくなって、大きく手を振り返す。
「ばいばーい!!」
走って帰ったら息が切れた。
……体力つけよう、自分。
|