「ねえ、手塚君」
「どうした」
「ねむい」


腕を組んでコート内を見回していた部長の腕(のジャージ部)を、くいくいと引いてそう言った瞬間、コート内の空気が一瞬凍った……気がした。


「……そうか」
「うん。寝たい」
「構わないから、部室で寝ろ」

「うん。だからね」


気を遣ってくれた部長にもう一声。




「レギュラー、誰か貸してv」




…………訂正。
コートの中に、ブリザードが吹き荒れました(てへ!)

ただし、ブリザードの発生源は部長じゃない。
部長が怒るんじゃないかとびくびくしている平部員達だ。

こんなことで怒るほど、部長は大人げなくないと思うんだけど。


「何をする気だ?」
「膝枕、してもらおうと思って。頭高くないと眠れないから」


できればフジコかリョーマあたりがいいな。
あんまりでかいと、比例して筋肉もしっかりがっちりむっきりしてそう……。


「レギュラー以外はどうだ?」


部長が譲歩してくれてるのはわかるけど、それにはかぶりを振る。


「知らない人は嫌」
「あ、じゃあ僕が行くよ。いいでしょ?手塚」


ラッキー!フジコが自分から名乗りを上げてくれたヨ!
フジコ大好き!!


「だが……」


苦い顔をする部長。
えー、駄目なの?

しょんぼりしてたら、フジコが小首を傾げた。




「いいでしょ?」




ヒィ!
黒不二降臨だよ!


まだ目ぇ開けてないけど、オーラが怖すぎる……!(ガクブル)


「……仕方ない」


部長が負けてため息をついた。
これで無事に枕ゲット!なんだけど……。

自分から言い出しといて何だけど、ちょっと複雑だなあ……(フェンスの外からものっそい目で睨んでくるお嬢さん方は、最早気にも止めないことにしている)(こんなんで参ってたら、この子達とつきあってけない)


   いいの?不二君」
「別にいいよ、今日1日ぐらい」


訊けば笑顔で答えてくれるけど、本当にいいのかな……何か心配。

テニスでも何でも、1日練習しないことがどれだけ影響を及ぼすかっていうのは、痛いほどによくわかっているつもりだ。
特に彼らのように、しのぎを削っている人達ならばなおさら。


「ほら、行こう?」
「んー……」


ためらったけれど結局眠気には勝てなくて、差し出されたフジコの手をとった。
やばい、マジ眠い……!


「大丈夫?」
「んー……」


くすくすと笑いながらフジコに訊かれて、意地とプライドにかけてうなずいた(んなもんかけるな)


「本当に?」
「……んー……」


ここでNoと言ったら女がすたる!

妙な意地につき動かされてこっくりとうなずく。
フジコがさらにくすくすと笑うのが聞こえるけど、んなこと知ったことか。
あたしゃ眠いんだ!

   なんて思ってたから、気づけなかった。




「仕方ないなあ」




フジコの声がすぐ近くで聞こえたと思ったら、次の瞬間身体が浮いていた。



……ん?浮く?



……何 や っ て ん だ コ ノ ヤ ロ ウ !!



姫抱きされてるよ自分!
フジコに姫抱き(ギャア!)


「不二君!?」


何しくさってらっしゃりやがるんですかあんたは!?


「ふらふらしてて、見てる方が危なっかしいからね」



そういう問題かよ!?



「降ろして降ろして」


お嬢さん方の視線で殺されそう!(ここまでくるとやっぱり怖い)


「駄目。寝てていいよ、連れてってあげるから」
「できると思うてか、この状況で。楽しんでるでしょ」
「あ、ばれた?」



ばれますがな。



「まあでも、眠いでしょ?」
「そりゃね」


いくらびっくりしても、極度の眠気が吹っ飛ぶほどじゃない。
じゃなきゃ今頃、暴れてでも降りてます。


「だから、無理しないで寝てなよ」


うーん、かなり無理矢理……。
これだったらリョーマの方がよかったなあ……(リョーマなら体格的に絶対こんなことはされない)

でも、眠い……!


「…………寝る。重くても文句言わないでよ」
「もちろん」


あー……寝むい。
とろとろとまどろみ始める気持ちよさを、今度は止めない。

意識のない人間は重いんだぞー。

目を閉じてお嬢さん方の視線をシャットダウンすると、フジコの体温が温かくて気持ちよかった。



「おやすみ」



フジコの声と一緒におでこに温かいものがかすめて、ものすごい悲鳴が起きた。




「……何かあったの?」
「いや、別に?」




思わず頑張って目を開けても、フジコが変わらずに笑ってるだけ。

   どうせおでこでもなでただけでしょ。
それくらいで騒がないでよね、もう……。

心の中でぶつくさ言ったのを最後に、今度こそ眠りにおちた。